07



 朝も早い時間から私の仕事は始まる。
 元々情報屋ファミリーの事務作業をしていた私は毎朝オフィスに一番乗りしてはボスのゴルフクラブで遊んで窓をぶち破ったり片付けられなかった書類を適当にまとめてみたり、この前は同じ課の事務員の子が割ってしまったボスの湯のみをどう隠そうかとリングを使って幻覚をかけてみたり(当然すぐばれて私が怒られたことは解せぬ)、
まあそんな感じで生活をしていたわけで別に早起きは苦じゃなかった。

 むしろ辛いのは”ユーリア”にならなければならない時間の方で、最初は言葉遣いだったり動作だったりで、そればっかりは流石にボスに指導を受けた所為か付け焼刃でもどうにかなっているという現状。
 ちなみに私が話すたびに術士の子達がプークスクスと笑うことだけは許せない。

「おはようございます、お父様」
「おはよう、ユーリア」

 化粧も入念に。髪の毛もしっかり結い上げ、依頼人の求めた格好をして朝食の場。ボディーガードの人達にも軽く会釈をして長テーブルへ。

 自室を出た瞬間から、休憩時間を除く、寝るまでが私の仕事。
 テーブルマナーも碌に知らない状態から始めるのは結構厳しいものがあったけど将来役立つんじゃないかと一生懸命覚えた。とはいっても私はやっぱりこういう堅苦しいとこじゃなくてスクアーロさんと食べたときみたいなフリッタータをフォークで突きながら晩酌をして、ぐうたらするほうが好きだ。本当金持ちって何が楽しいんだろう。お金が大事なのはよくわかるけど。

 午前9時。スクアーロさん、登場。
 この時間になれば逆に依頼人は私から遠ざかる。その後は監視の目を感じながらスクアーロさんと適当に話をしたり、”ユーリア”が使っていたらしい本を読んだり正直私何してんだろうって思えるぐらい平穏でゆったりとした時間をすごしている。携帯やテレビなんかの使用許可は出ないけどスクアーロさんから色々教えてもらったりして案外苦痛でもない。結構彼と過ごす時間は多いわけだけど意外や意外、話術になかなか長けているし知識も豊富。
 あでも油断するとすぐ手が出てくるからそこだけは要注意なわけだけど、まあ驚く程普通の生活を送っているという訳だ。こんな事ならパーティーの一週間前ぐらいからで良かったんじゃないかと思ったけどたまに来るお客さんの対応もユーリアの仕事だった。とはいっても依頼人の横で娘ぶってうんうんと頷くだけの簡単な仕事だったんだけど。

 今日も朝は少しだけスクアーロさんと話をした後に別れ、今度のパーティーにやって来る客の相手で半日は過ぎ去った。ぶっちゃけめちゃくちゃ眠い上に金持ち層のことだ、ストレートに話せばいいものをくどくどと話しているものだから私の眠気は加速する。ボスに喋っている人間の口元を良く見ておけば話を聞いているように見えると言われたけどこんな眠そうな顔で見ていても失礼ではないのだろうか。まあいいけど。寝なきゃいいんだ、寝なきゃ。

「ではまた、今度のパーティでお会いしよう」
「はい。お気を付けておかえり下さいませ」

 ハッと我に返り依頼人の横に並び笑顔を向けてお見送り。
 はーやっと終わった。今日は早く寝よう。そんなことを考えながら一生懸命欠伸を噛み殺しギィ、と開く扉に安心した瞬間だった。

「っ、下がって!」

 漏れ出る殺気に客人と依頼人の前に出る。
 扉を開けば並んでいるはずのボディーガードの群れから1人が異常な殺意をもってこっちに走り出してきていた。虚をつかれたかのように皆の動きが鈍い。

 使えない!
 私非戦闘員なんだけど、ほんとに。そう感じながら隠していたリングに炎を灯す。これで何が出来るかなんて知ったこっちゃないけどやれるだけやらなきゃ金は貰えないのだ哀しきかな。

 狙いは果たして誰だったのか。私が前に出たというのにそれでも変わらず笑みを浮かべたままナイフを突き出されたのと、命を守るためにリングで力を行使しようとしたのと、
そして私の目の前が真っ黒になったのが同時だった。

「…お前はいい」

 その声に安心して力をフッと抜くと、声の主は一瞬にしてその場を収めてしまった。
ザシュリという音と共に血飛沫が飛ぶ。私を庇うように目の前に出たスクアーロさんはそれをもろに被ってしまったらしい、綺麗なあの銀髪が赤に染まったけれどそれを失礼ながらとても美しいと思ってしまった。

「帰るぜぇ」
「っ、ヒッ、お前はヴァリアーの!」

 依頼人は勿論驚くことはない。ただ客人は何故ここにボンゴレの…というところはあったんだろう。当然の反応なんだろうけどね。
 剣をブンッと大きく一振り。血糊を振り払うとそのまま軽やかにどこかへと走り去った。

 …うーん、改めて思うけどスクアーロさんの気配とか全く感じなかったなあ。何だかんだこの人やっぱり作戦隊長なんだわ、すごい。


prev / next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -