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 依頼人に呼ばれたのは突然だった。
 彼女がどう思って己に触れてきたのかは分からない。しかしそれであっても、逃すつもりはなかったにしても、逃げる素振りがなかったことは…そして、彼女からもスクアーロに触れてきたということは…。そう考えれば今回の依頼はなかなか楽しいもので終わりそうなそんな気もしないでもなかった。
 問題は今後の彼女との付き合い方法かもしれない、と。そんなことを考えていた彼に対し依頼人である男は「突然お呼びたてして申し訳ない」と先に頭を下げた。
 白髪のこの男が頭を下げることは珍しい。確かにスクアーロはボンゴレに所属しており、この男よりは高い地位にいるには違いないが現段階においては依頼人と、依頼された側である。

「ユーリアの件で話がしたくてね」
「…あいつがどうした?」

 しょうもない話であれば断ってもいいと思ったが彼女のことになると話は別だ。
 ギロリと睨みかかると依頼人は顔を引きつらせる。
 もう依頼最終日であるパーティの日は明日へと迫っているというのに今更何の話があるというのだ。

「実は彼女は、僕の娘ではないんですよ」
「……は?」

 ああ、そうかそういう設定だったか。
 スクアーロにとって割りと初期の方から知っていることだったが逆にその彼の表情は依頼人にとっては、たった今ようやく知ったというものに取れたようで満足気に口元に笑みを浮かべた。
 今まで黙っていたことを話す程度にはスクアーロのことを信用したのだろうか。それともやはり、今後この情報が漏洩し騙していたことがバレることを恐れたのだろうか。
そういえば彼女の話は、何も知らなかったことに今更ながら思い出した。

「彼女の名はシャルレ。クラリッサファミリーの術士なんです」
「…クラリッサ、だぁ?」

 どこかで聞いたことのある名だった。それも直近で。
 そうだ、確かマーモンと話をした時に、その名前を聞いたような。しかしその話の前後を思い出しても既に壊滅に追い込まれたファミリーの一つだと、言っていたような。

「先日、僕の、それからボンゴレの同盟ファミリーが潰えたことはスクアーロ様はご存知ですかな?」
「…あぁ、ヘルリング関係で、とは聞いたが」
「ええ。その中心にいたのがクラリッサファミリー。そして、彼女の持つヘルリング。スクアーロ様は恐らく化かされているか話されてはいないでしょうがあの娘はアレを持っているのです」

 …何を、言っている。
 あんな女がそんな大それた事件の中心にいれる訳がない。だというのにどうしても、それを聞けば聞くほどこの男の不可思議な行動はようやく納得できるものにとなっていた。

 ――いつかの、この依頼人と客人の前に現れた刺客。
 結局死体を調べても誰を狙ったものかは分からなかったがアレがもし、そもそもシャルレを…いや、シャルレが隠してきたヘルリングの所在を知るための作戦だったとしたら?それであればあの時の彼女を見る異質な視線は理解できる。
 彼女を見ていたわけではなかった。ただ凝視していたのはシャルレの、ヘルリングだとすれば。

「…ヘルリングを狙ってやがんのか?」
「いえいえ、僕達の中に霧属性の人間はいません。それにあれは力ある者が持つべきもの」

 とんでもない、と仰々しく身振り手振りで反応するこの男はどこまでが本音なのか。
 シャルレはあれを模造品と言っていたがどちらが正しいのかなんてそういうことは霧の属性でもなければリングに詳しいわけではないスクアーロには判断が出来なかった。

「ようやく探しだし、依頼とうそぶいて彼女をこちらに呼び出したはいいものの…結構、やり手でね。逃げてしまうんですよ、するりするりと。ですから僕達は考えたのです。彼女が逃げぬよう檻を作ろうと」」

 ここまで持って来るのは大変だったんですよと漏らす男とスクアーロの前にスルスルとスクリーンが落ちてくる。
 何事かと思うとそこには2人のまだ幼い男女がすよすよと眠っている。どこかのカメラでリアルタイムで映し出しているらしい。「シャルレ」と女の方が小さく呟き、その目尻には涙が浮かんでいた。ハッとスクアーロは目を見開く。…これは、まさか。

「人質ってわけかぁ」
「もちろん一切手は上げていませんよ。何しろ僕達はボンゴレの同盟ですからね!」

 人間というものは多面性を持っていると、スクアーロは知っている。
 このにこやかな笑みの裏に何かがあるとは思っていたがこれを今までずっと隠し黙ってきていたというのか。
 そんなスクアーロの内心など気にもしていない男は大きく笑い、そして楽しげに目を細め「ここからが本題です」と話し始めた。

「明日、パーティにてあの女からリングを手に入れそして至高のアレは本来あるべき方へと謙譲したい。…ボンゴレにはアルコバレーノの崇高な術士様がいらっしゃるとか」

 ちらりとスクアーロの顔色を伺うその様子がひどく、不愉快だった。
 男の目は、野心からギラギラと輝いていた。

「スクアーロ様。シャルレが気に入ったのであれば女ごと差し上げましょう…その代わり、」

 つらつらと並べ立てられる、己の立場の格上げの話。そして、それの条件に捧げられるのはヘルリングと、シャルレの生命。
 片や無機物、片や生き物だ。それをまるで道具のように話す男はスクアーロの秘めた殺意にまったくもって気がついていない。

 ひどく、ひどく、苛立った。


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