Diary

今日の買出し当番である骸がたまたま手に入れた商店街の福引券。どうにも金額に応じてもらえるそれは4回回せるらしいが興味もない。捨てて帰ろうと考えてから、そんなことをすれば財政を担当するユキが五月蝿いことを思い出した。

何せ彼女は自分たちの財布をしっかりと握り、一円の狂いもなく把握し、そして福引券や割引券は必ず持ち帰るか使う事を強要している。
いつもは物静かなユキが目くじらを立てて骸を叱る様子も見たくないことはないが出来ることならあまり怒らせたくはない。

「…仕方ありませんね」

自分を慕う人間に極端に甘いことは十分わかっている。
それでも桃色の安っぽく「福引券!」と書かれたそれを手に握りしめ、片手では大根やらジャガイモやらをいれたスーパーの袋三つを提げながらいそいそと福引会場へと向かう彼はなかなかに日本の生活を楽しんでいるように見えた。




「はーい、残念!」

こういった時、大概にして幸運をつかむことがない。
見事全てをハズレである白玉を当てた骸は「黒曜町再興プロジェクト」のタスキを斜めがけた年老いた男の言葉に仕方ありませんねえと微笑んだ。
大体こういったものは外ればかりなので自分が運が悪かった訳では無いのだ。そんなことを思っていると次に並んだ主婦が商品券五万円分を易々と当てていてギリっと下唇を噛む。

「兄ちゃんここから4点選んでなー」
「…はい」

カゴに入れられていたものは何とも言えない文房具の類。明らかにハズレ枠だ。これではユキに何を言われるか…それでも何か証拠として持ち帰っておかないとそれ以上に分かっていた。
そう思って何か邪魔にならないものを。視線を巡らせそしてある1点で目を止め、穏やかに笑みを浮かべる。

「…これに、します」

そうして貰ってきたものを黒曜ヘルシーランドへと持ち帰ると早速、犬、千種、ユキの三人に分け与えた。
犬に至っては食べるものではなかったことにやや落胆を示したもののそれでも骸がわざわざ1人ずつ手渡ししたことは嬉しかったようでへへへと笑みを浮かべていた。その隣で無言の千種、そしてぎゅうと胸に抱くユキ。
ありがとうございます、と静かに礼を言う彼女の声を聞くと骸は目を細めてユキの頭を撫でた。

「大事に使ってくださいね」
「はい。ところで骸さん」
「……何でしょう」
「今日は福引券全部外れでした?」

理解りなさい。
そう目で訴えるとユキはまた物静かに哀れみの視線を浮かべるものだから骸は指で彼女の額をパチンと弾いたのだった。




最初のページ
筆者:ユキ
(ぐりぐりと一ページに渡って試し書きが行われている。ところどころ掠れたペンの文字も見える)

あ、やっと書けるペンが見つかった。
突然骸さんが私たちに対して1冊ずついわゆるスケジュール帳なるものを配った。犬は馬鹿だからきっとこれをお絵描き帳にするだろう。千種は多分賢いからこれの意図を汲み取ろうとして考えすぎて気持ち悪くなることだろう。常々思っているけれどふたりは色んなところを足して2で割ると丁度いい気がする。
ちなみにこれは骸さんの反応を見るに外れだったのだろう。この時期にスケジュール帳なんて多分あそこの文房具店の売れ残りだったのかなあ。作りは結構しっかりしてて私は気に入っている。

今のところは犬と同じように落書き帳か、それか取り敢えずメモ帳に使おうか悩んでいるところ。
それでもこの手帳には空白ページが多く、あと1日1日の何かメモしておくところも沢山あったので少し飽きるまでは日記でも書こうと思う。スケジュール帳だけど日記帳。きっと三日坊主も驚きの頻度になるだろうけど。それでも続いたら褒めてもらおう。そんなわけで今日から宜しく、私の日記帳。

ところでおでこが痛いんだけどしっかり指の跡が残ってて犬に笑われたから今から仕返しに行ってきます。
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