Diary

「…わたし酔っ払っれなんかいませんからね」
「はいはい」

食事はたいへん美味しく、あっという間に時間は過ぎていった。
空腹時にアルコールを摂取すればどうなるかなんて理解りきっていたことだというのにユキの顔は心なしかほんのり赤い。犬はソファで腹を出して寝てしまっているし、千種は夜風に当たってから寝ると言ってさっさと席をはずしてしまった。

ゆっくりと食事をしながらワインを口にする骸に対して最初は甲斐甲斐しく注いでいたユキもグラスに数度口につけただけで目が据わっているという有様だ。
最近は彼女の色んな表情を見られてつくづく幸せだと思ってしまう辺りそろそろ末期だろうか。別に自分の誕生日なんて何の感慨もないものだったがユキとこれだけ近付けるのであれば悪くはない。

「ユキ」
「はい、何れすか」
「今日という日を終えても、君は僕の隣にいてくれますか?

酔っている彼女にこういう問いをすること自体、卑怯であることは分かっている。
明日には忘れ去られても構わない質問だ。しかしそれでも、いつか自分の中に疑念と、不安として残っているシコリのようなものでもある。いつまで彼女は自分の傍にいてくれるのだろうと。ユキは決して強くはない。
いつだって血塗られた世界にいる彼らにとって非戦闘員である彼女を傍に置いておくということは両者からしてもいずれ負担となる日がくるだろう。

それでも、そうであっても。こうやって彼女が、そして犬と千種が文句もなくついてきてくれているという自分の我侭はいつまで続くのかと。

「くふふ!」

突如ユキは奇妙な笑みを―それが自分の真似だとは認めない―浮かべ、骸へと頭を寄せた。ふわりとシャンプーの香りと、それからアルコールの匂いが押し寄せる。
何事かと目を見開く骸に対しユキはトロンとした目で、だけどしっかりと口を開く。

「だーいすきです、骸さん」
「…ユキ、」
「犬も千種も好き。だけど、もっともっと大好きです」

温かいユキの両手が骸の手をやんわりと包み込む。とくん、とくん、とゆっくりと、しっかりとした脈動が伝わってくる。その手を繋ぎなおし彼女の指へと絡めても、ユキは逃げない。へらりと笑みを浮かべながら、繋がれた手を力強く握った。

「ずっと、お隣においてください」

そのままゆっくりと骸の肩へ頭を預けると静かに眠ってしまったユキに対し、また一人でワインに口をつけた。
これは、これは。


「…とんでもないプレゼントをいただいたようです」


繋がれた手は、未だ尚振りほどくことはなく。
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