Diary
昨夜からどうにもユキの姿が見えない。昼間からキッチンに入っているのは知っていたが、犬が駄々をこねて少し難しい料理をリクエストしたからだと千種から説明を受けて成程と答えたものの、また熱でも出して倒れられたらどうしようかと視線は定まらず。
ユキ以外の入室を許可しません!と大きく書かれた彼女の手書き用紙を見ていれば少しは落ち着くが、それでも気になるものは気になるのだ。

「ユキ」
『だめです』

ノックをすればすぐさま返ってくる彼女の声。
思いのほか元気なそれに安心するも、やはり顔が見えないのはどうしてこうもそわそわしてしまうのか。恐らく今は犬のリクエスト通りのものを作っているのだろう。
それでも今までこうやって誰かを追い出してまで引きこもることはなかったというのに。
何か、あったのだろうか。それとも犬に特別なものをつくっているのだろうか。
ギッとユキがキッチンに入り浸る原因を睨みつけると一瞬ビクッと身体を震わせたが視線を泳がせ口笛を吹く犬。
最近少しずつユキと近付いてきていた気がしていただけにこの仕打ちはなかなかもどかしいものがある。早く話したい。早く触れたいというのに。

「…ユキ」
『何ですか骸さん』
「いいえ、何もないんです」

しかし今は声を聞いて逸る気持ちを落ち着かせるしか方法がなく。
先程からドアの向こうでは慌しい音が絶えない。
音だけではない、何やら甘い匂いもしているような気もすれば香ばしい匂いもするような気がする。このよくわからない匂いの中彼女一人で戦っているのだろう。

「早く出てきてくださいね」
『頑張ります』

律儀に返しながらも一生懸命食材に向かっているだろうユキの姿が目に浮かぶようで、骸はドアに背を預けながら穏やかに笑みを零した。




ヤバいヤバいヤバい!食材はちゃんと揃えていたっていうのに私ったら肝心の調理時間の計算を忘れていただなんて本当に笑えないんだけど…。どうしよう間に合わなかったら。今すぐ犬をキッチンに呼び込んで手伝わせたいけど何故か骸さんがドアの向こうにいるんだよね。開けた瞬間色々とバレちゃうから千種か犬かどっちかが骸さんの気を引いて少し離してくれるとありがたいんだけど…分からないよね。そうだよね伝わらないよね。君達もきっとおなかすいてるもんね。ご飯すぐ作るから待っててね!

っていうか私もいつも通り日記帳に今のことを書いている場合じゃなかったんだ。早くお肉焼けて!早送り!早送り!
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -