Diary

「あれ、もしかして骸さん誕生日のこと忘れてました?」
「…誕生日、ですか」
「骸さんがそんなの覚えてるわけないびょん」
「犬」

犬の言葉をたしなめるように千種が声をあげた。
そうか、それで…全てに合点がいった。少し考えればすぐ分かることだったというのに。
カレンダーを突然用意した彼女のことも、3人がやけに最近自分のところへ来ては欲しい物のことを聞きにきたことも、そして昨日からユキがキッチンに入り浸っていたことも。

「私達ね、骸さんが何欲しいかって聞いてもよくわからなかったんで友達に聞いて一般的な誕生日会っていうものを開こうと思ったんです」
「金で買えないものって難しいんらよなー」
「揺るぎのないものっていうのも」

3人で相談し、考えた結果がこれというわけですか。
ちらりと彼らの後ろに目をやるといつもは犬が遊んで汚くなっているその部屋は幾分かマシになっており、そしてテーブルには昨日からの匂いの原因である料理が並んでいた。
そしてその料理の一番真ん中に置かれているものはケーキだろうか。
クフフ、と思わず声を漏らし未だ抱きついたままのユキが首を傾げた。

「お気に召しませんでした?」
「いいえ」
「きゃっ」

ユキの身体を抱き上げ、こつんと額を己の額と合わせた。その後ろで2人が気を遣って視線をわざとらしく外しているのが見える。

「良い思い出になります」

少し名残惜しいがそれよりも今日はユキがキッチンを独占していたため食事をとっていない。そろそろ犬も限界が来ているだろう。先程から彼の腹からは空腹を知らせる音が鳴り止まないのだから。

「では、いただきましょうか」
「腹減ったー!」

まるで子供のように喜んだのは寧ろ犬のほうだったのかもしれない。けれど空腹だったのは彼だけではなかったらしく千種も珍しく素早く椅子へと座る。
ユキも席に着いたことを確認すると、全員が手元にあるグラスに手を伸ばした。
期待に満ちた彼らの眼は何と心地よく、そして気恥ずかしいものだろう。いつもと違うのは骸自身でもよくわかっている。だが今年はいつもと違うのだ。
フ、と笑みを零しグラスを高々と持ち上げる。

「また来年も期待しています。それと、」

彼らしからぬ感謝の言葉に、戸惑いと、驚きと、そして3人の顔に深く深く笑みが刻まれたのは言うまでもない。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -