Diary

ユキが消えた。少しキッチンに続くドアから離れたその瞬間に、彼女の姿はキッチンから消えていた。
ギィと力なく開く扉から中を覗き込むと、そこには色々と混ざった不思議な匂いがしたものの料理の後や何もかもが無くなっていた。ぴちゃん、とノズルから水が滴る音だけが響いている。

「一体、どこへ」

気が付くと犬も千種も見当たらない。まるで謀ったかのように彼らは忽然と姿を消してしまったのだ。そこで焦りが生じることは流石に無かった。自分より力が劣るとは言えこの数分の間で連れ去られたりするような柔な2人ではないことは骸自身が知っていたからだ。
だが、と疑念は晴れない。もしユキに何かがあり、2人がそれに勘付いて出て行っているのだとすれば。それならば有り得ない状況ではない。常々2人には骸の事よりもユキの命を最優先にしろと命じてあるのだから。

「…ユキ」
「はい」

気が付けば、背後にユキがキョトンとした顔で立っていた。彼女は一般人だ。骸に見つからないよう気配を隠すなんて芸当が出来るはずはなく。
つまりはユキが後ろに立っていることに気が付かないほど焦っていたというわけで。

「クフフ、僕としたことが」
「…骸さんどうしました?」

手を伸ばしユキの小さくほっそりとした身体を抱き寄せた。ふわりと香るこの甘い匂いは確かに昨日から骸とユキを引き離していた原因のものだ。
思わず身体を強張らせたユキの額に口付けると途端に顔を真っ赤にするその様子に多少機嫌は戻り、千種と犬の所在を尋ねるとユキは嬉しそうに「こっちです!」と骸の手を引っ張って誘導を始めた。


連れてこられたのはいつも皆が集まる部屋だ。そういえば昨日今日とユキの事もあり足を運んでいない場所でもある。


―――パンッ!

足を踏み入れた瞬間、乾いた音と共に何かひらひらとしたものが頭上から降ってきた。
何事かと見渡すとそれの原因はすぐに見つかり。

「…何のつもりですか、犬、千種」

怒るつもりは毛頭ないがそれでも先程まで少し心配はしていた分、若干責め立てたくなるのは仕方のない事だろう。しかしいつもならば直ぐに謝罪する2人は未だに動きが無い。


――パンッ!

油断しきったところから、もう一つ。
へへ、と彼女の笑顔を久々に見た気がする。そのままユキは手に持つクラッカーを投げ捨て、骸へと抱きついた。いきなりの事に固まり、反応できずにいるとユキは更にぎゅうぎゅうと腕に力をこめてくる。
彼女が今までこんなスキンシップをとったことがあっただろうか。一体、どうなっているのだ。
完全に動揺している骸の姿を見て一番最初に噴出したのは犬だった。

「お前達、一体これは」
「骸さん、あのね、あのね」

ユキが骸を見上げた。少し頬が赤らんでいる。


「「「誕生日、おめでとうございます(らびょん)」」」

3人からの言葉に、今度こそ骸はどうしていいのか分からなくなってしまった。
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