夜と久々に共闘する任務が言い渡された。幹部候補として最近スカウトした新人ではあったがこいつは剣士でもなくどちらかというとマーモンの補佐的な役割を担っている。フランも決して遠くはない未来でヴァリアーに来るかもしれないがまあそうなりゃ幻術を使える人間が3人にもなって色々と大変そうだと思うわけだ。
 とは言ったってこいつは何も戦えない。幻術はまあ使えるだろうがそれぐらいで体術の方はからっきし。つまり俺との相性は最悪だった訳だがそろそろ任務でも使い物になれるようになってもらわねえと色々と下にだって示しがつかねえ。そういう訳で日本にやって来たのはいいものの。


「スクアーロ、コンビニ行きたい」
「…ったく」

 任務は無事に終えた。つっても結局は俺がゴリ押ししたようなものでもあったがまあ成功は成功。これでやっと帰れるかとジェットで迎えを要請した後の待ち時間は確かに何をしてもかまわねえだろうと頷くと夜は嬉しそうな顔をしてコンビニの中に入っていく。
 監視カメラなんぞに顔を堂々と映すことを許すバカが何処に居る。なんても思ったが「大丈夫、ちゃんとその辺りは姿変えてるから」とガキの姿になって嬉しそうに小銭を握りしめ入っていくその様子はこんなところだけ頭が回るんだろうなと思わず苦笑した。 

 どうにもこいつと居ると調子が狂う。一般人を相手にしたことは人生の中で然程なかったがこいつは認識も覚悟もまだ一般人ギリギリ、或いは人を殺したこともあるし暗殺者の中でも一般人により近い思考を持っているのかもしれない。ヴァリアーにスカウト―という名のほぼ拉致だ―する前は普通の大学生ってヤツだったからまあそんな感じだったんだろう。


「お待たせ!」

 やがて戻ってきた夜と共に歩み出し、ガキの姿が解かれた頃俺はようやく隣を見た。ガサガサと出してきたのは温かい飲み物と何やら見たことのない白い物体。何だそりゃ。パンなのかとも一瞬思ったがそれにしては何でそう白いのか。それもどうやら温められているらしくホカホカと湯気が出ていたもののあまり食欲をそそられなかったのは匂いがあまりしなかったからだ。


「え、スクアーロ肉まん知らないの?引くんだけど」
「勝手に引くんじゃねえ」
「冬の買い食いは肉まんですよ肉まん。ほら齧ってみ」

 グッと俺の前に突き出されたが何が入っているのか分からない以上それを口にすることは躊躇われた。肉まん?肉が入ってんのか。食い物に関して特に好き嫌いはなかったが味の想像が出来ないものはやはり考える。それをどう捉えたのかは知らないが一度、夜はふむと唸った後俺の前でその肉まんとやらを半分にちぎった。思ったよりも柔らかいパンだったしく大した力を込めていないのに離れるそれは途端に人の嗅覚をこの上なく刺激するものへと変化する。
 正直腹は減っていた。もう少しすりゃジェットにも乗り込めたし我慢が出来たかと思っていたのだがこの匂いは相当腹にクる。はい、ともう一度渡され今度はそれを受け取った。温かいものを持ち続けていた所為なのか一瞬触れた夜の手は温もっている。


「……」

 日本って言えば魚料理ばかり食ってきた気がするが、そういやコンビニに入るヤツなんて今まで居なかったな。ベルだってあんな庶民的な場所は行かねえなんて豪語していたし、そうなるとああいった場所が夜にとって普通なのだろう。
 半分に割られると中に入っていたものが明らかになる。が、俺の思っていたようなデカい肉が入っていた訳ではなく何らかの具材がみじん切りにされていた。野菜だろうか。そればかりは匂いを嗅いだところで、目を凝らしたところで分かることはなかったがとにかくメインとなっていたのは肉。精々それぐらいだった。

 俺がまじまじと見ているのが面白かったのか横で夜が目を細め、ふふと笑う。
 そりゃ夜にとっては今までよく食べていたものを不思議そうに見つめる人間なんざ珍しいに違いない。いつの間にか夜の手元にあった、半分にされた肉まんはさらに小さくなっている。元々1個がそこまで大きな訳じゃねえし、半分にされりゃ2口3口で平らげるだろう。

 難しいことは考えずに俺もそれを頬張った。小洒落た言葉は出なかったが悪くない味だ。酒もあうかもしれないな、と思うような程よい濃さ。感じられる肉の味に、玉ねぎだか何だかの野菜。なるほど、確かにコレは冬には最適の食い物だった。


「美味しいでしょう」
「まあ、悪くねえな」
「じゃ次はピザマンね」
「……今のパンにピッツァが入ってんのか」
「うーん、そこまでハードルあげられると困るんだけど」
「よこせ」
「了解です作戦隊長」
「……どう?」
「ふざけんなどこがピッツァだ!」
「ひええ」
「ピッツァとは別物だと考えて食えば美味い!だがピッツァじゃねぇ!だが美味い!それは認める!」
「ふっは、お気に召したようでよかった」

 いつの間にか冷え切った身体は内側から温もっている。

ネタ by ゆちゃん
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -