「夜」
「私の事は放っておいてください」

 楽しげな骸くんの声、布団の上から私のことを揺さぶる手。きっと布団の外側では私の事を笑っているに違いない。まるで丸太のようですと布団にくるまった私の事をあざ笑うつもりなのだ。
 世は8月。正直こんな暑い時期に分厚い布団にくるまっているなんて気でも狂ってしまったのかはたまた自殺するつもりなのか。干からびて死んでしまう何分前だろうと思うぐらいに私の身体からは汗が流れてベタベタして気持ち悪いことになっているけど私はそれでも出る訳にはいかない。ましてやそこに骸くんがいるのであれば尚のこと。

「昨夜は可愛かったのにどうして出てこないのです」
「昨夜のことが恥ずかしかったので是非忘れてください」

 どうして言わされなきゃならないのか。泣きそうになりながらもそう返し私はまた布団に顔を伏せる。

 そう、私は骸くんと昨夜身体を重ねた。初めてだった。あまりの痛みに汗も流れたし泣いてしまったし、途中で痛いと叫んでしまったけどそれでも骸くんは私に対してずっと優しくて、紳士的で私の頭をずっと撫でてくれた。大丈夫ですよと、きっと彼も気持ちよくなりたかっただろうにずっと待ってくれて、キスの雨を降らせて。

 何だか慣れてるなあと思ったけど骸くんぐらい恰好いい男の子だったらとっくに経験済みなのだろう。私のクラスでは好きな子と手を繋いだとかそれぐらいで騒ぎ立てているのに世界が全然違った。だけど一部の女子だともうエッチをしたことがある子もいて、気持ちよかったとか、血が出て痛みでこっちもやる気なくなったし相手も萎えたとかいう聞いているだけで怖いような事も聞いたあとだったから私はリードしてくれる側が経験者で良かったんじゃないかなあって思ってる。

 ともあれ私は無事にそういった状況に陥ることはなかった。一度骸くんを受け入れた身体は最初こそピリピリとした痛みで何も感じることはなかったけれど彼が腰を揺らし出し入れをする度に、奥でゆるりと弧を描き動くような感覚に、空いた手が私の胸に触れだしたその辺りから鈍痛も無痛もどこへやら、自分の声とは決しておもえないようなものが漏れ出した。
 いつかこうなるかもしれないと少し勉強もしたし自発的にエッチな声を出そうとしたという意思もちょっとはある。だけどほとんどがそんな余裕もなく骸くんの律動と共に出て、いつも涼やかな骸くんの表情から汗が垂れ落ち、薄い身体がとても色気づいていてもう私も気持ちよさと骸くんへの感情とその色気にやられてしまって気が付けば意識を飛ばしたという有様だ。

「僕の想像した朝とは全然違うのですが」
「…それはごめんなさい」

 本当は2人そろって生まれたままの姿で、布団の中。骸くんの腕に抱かれてああ幸せな朝だなあとそういったものを私も想像していたのに実際起きた後にやってくるのは喉と太腿と腰の痛みと、それから多大な羞恥心。

 死にたい。

 好きな人との初めてのエッチだったし嬉しかったけどそれ以上に何て破廉恥な声を出していたのか、特に私は経験もなかったのに乱れすぎだったんじゃないかという恥ずかしさ。隣にあるゴミ箱には寿命をコンドームが3つ、骸くんから吐き出されたものを受け止め括って入れられてあることを知っている。それがたまらなく恥ずかしい。
 結果骸くんの顔を見ることもできず布団にくるまっているという情けない状態というわけだ。骸くんは少しだけそれに対しては残念そうだったんだけどこの状況を楽しんでいるらしい。早く出てきなさいという声はやっぱり楽しそう。

「夜」
「…うう」
「早く出てきなさい、夜」

 熱い。早くここから出てお風呂に入りたい。昨夜のこともあるしベタベタしてるし気持ち悪い。だけどそこに骸くんがいるから出ることはできない。せめてこのまま冷たいお風呂に突っ込んでもらえたら…ってそれは私が溺死するか。でもどうしよう。
 仕方ありませんねえ、と骸くんが布団の外でため息をついた。嫌われたらどうしよう。なんてそう思ったときだった。

「君の顔が見たいという僕の願い、聞いてくれませんか?」

 ――それは、狡すぎるよ骸くん。
 
 きっと私の扱い方なんて分かっているに違いない。恐々と顔を出してみるとしてやったりとばかりに口元を歪める骸くん。そのまま布団を引っぺがされ朝から濃厚なキスをお見舞いされるとクラクラと酸欠のような状態で骸くんの方へとしなだれかかった。
 この人には勝てやしない。
 
 気が付いていなかったけど骸くんはまだ服を着ていなくて私と同様裸のままだった。
 昨夜、暗がりだったとはいえ間接照明があったから彼の身体を全く見ていないわけではない。少しは恥ずかしかったけどそれは私も同じ状態だし、とくっついてみるとどうやら様子がおかしいことに気付いたのはその後すぐ。太腿をするりと触られたかと思うと私の片足を挟み込んだ彼のものは、どうやらお元気そうで私の腹部に何やら硬いものが擦り付けられる。
 …これは、まさか。

「ちょ、骸くん私は今からおふろ…んっ」
「赤い顔の君もまた、美味しそうですねえ」

 私の意見など聞くこともなく第2ラウンド、開始。そして冒頭にまた戻るのです。
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