「何故僕から離れようとするのですか」
「何故近付こうとするのですか」

 拮抗している。ジリジリとにじり寄ろうとする骸とそれを妨げようとする私と。

 私たちはいわゆる恋人同士なワケで別にいつ何が起こったとしてもおかしくはない。身体を重ねたこともあるしキスだってある。だけどまだそういったこと全てがこっ恥ずかしくて結局逃げてばかりの私に痺れをきらした行為であるということも…分かっている。分かっているつもりなんだけど恥ずかしいものは恥ずかしいからとりあえず自分の顔がいかに整っているのか知ってほしい。
 いやこの人は知っていて尚この行動の可能性だって否めない訳で本当に勘弁してほしい。厄介すぎるっちゃありゃしない。

 今日だってそうだった。
 2人して暑いねーって言いながらラ・ナミモリーヌで人気のチョコレートドリンクを飲んでテレビを見て。ゲームしようかっていう話になって。じゃあ犬たちも呼ぼうよと立ち上がろうとした時にそれが起きた。
 グッと手を掴まれ何事かと抗議の声をあげる前に引っ張られ、気が付けばソファの上に寝転がっている状況。その上にさも当然というように骸がのしかかってきていて、あ、これやばいってなっている訳である。悲鳴を上げてしまったところで彼らは骸の味方な訳で助けてくれるわけもなく、むしろ私の手助けをすることにより怒られることは分かっているはずで。じゃあどうするかと言われれば私が自分の力で逃げるしかないのだ。…そんなこと、出来るはずもないんだけど。

「も、ちょ、どいて!」
「嫌です」
「どうして!」
「君が逃げるからです」

 当たり前じゃないか。私の顔の横に置かれた骸の腕を退かせようとしたところでそれがどうにかなるわけでもなく、結果骸に楽しく遊ばれているという現状。
 私だって逃げたい訳じゃないんだけど骸にはそうとられてしまっているらしい。だからこそこう逃げないよう囲まれているということか。今日こそは逃しませんなんて怪しげに笑まれるとそれはそれで恐ろしい。

「あのね、骸」
「どうしましたか夜 、ようやく観念する気に「好き」…は?」
「…その、恥ずかしいの。骸とエッチなこと、した後から、…ずっと」

 どうして世の中のカップルというものは平気でいられるのか分からない。
 骸のことは大好きだけど、それ以上にああいういやらしい事をした後、彼と目を合わすことができず結果それを逃げられたと思わせてしまっていることは大変申し訳ないとは思っているんだ。一応ね。

「クフフ、そうでしたか」

 ちゃんと説明はした。言葉足らずであることは自覚もあるから後から言い訳は聞いてもらおうと思ったのに突然骸がいつもの調子で笑いだすものだから私は驚いて彼を見返すことになる。
 ずいぶんと近い距離、私は骸の顔を久しぶりに見た気がする。…その、何度も言うようだけど恥ずかしくて彼の顔を真正面から見ることもなかったから。

「そうですか、夜は恥ずかしかったのですね」
「あの、むくろ…?」
「では慣れればいいということでしょう?」
「……え」

 するりと服の下に手を入れられた事にはすぐに気付く。いや、これはやばい。この格好は、非常にやばい。ハッと骸の顔を見れば彼はいやに上機嫌で、クフクフと笑ったまま。ペロリとした唇を舐めるその動作の何たる色気。本当にこの人は私と同い年なのか。

 そのまま押し付けられる唇。
 自由に私の肌を這いまわる手。

 ぞわりぞわりという感覚に身を震わせると楽しげに笑う骸はきっとたくさん色んなオトナな事を経験してきたに違いない。そうやって私は振り回され翻弄されてきた。そう、だから今日だってそれは変わらない。

「…ね?良いでしょう」
「、ちょ、…っんん!」

 私の抵抗なんて一瞬で押さえ込んだ骸は疑念が晴れたこともあり強引に事をはじめてしまって、だけど私も何だかんだで欲望には素直な生き物な訳で。
 ああもうやっぱり私は骸には敵わないんだなと受け入れながらその大きな背中に手をまわすのでした。そしてまた冒頭に戻るのです。
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