セックスした翌日は大体夜は腰が痛いだの激しすぎるだの遅漏だのとぶつくさ文句を耳元で呟きその不愉快さに起きるのが常になっていた。
この女は知りもしないのだ。XANXUSが満足した後に隣で眠ることを許しているのは彼女だけであることを。そして自分に対してそんな文句を垂れて、殺されないのは夜だけであるということに。
「ふへ、ざんざしゅう…」
今日も今日とて文句を漏らされそうな激しい情事後ゆっくりとした時間を過ごしていたら例の如く耳元で何かが聞こえXANXUSは目をうっすらと開いた。元々眠りは深い方ではない。
目の前には幸せそうに惰眠を貪っている夜の姿がある。
こう見えて仕事などは滞りなくこなす出来のいい部下ではあるつもりだったがXANXUSと個人的な場になると途端に普通の女になってしまうのも最初はなかなか差があって面白いところだと思った。
「ん、…」
すうすうと静かに寝息をたてて眠る夜の姿を見るのは随分久しぶりな気がした。
大体起きれば彼の耳元で恨み言を述べるか、さっさと仕事へと行っているか、もしくはシャワーへ行っているかのどれかでその目が閉じられているところなんて殆ど見られるようなものではなかったのだ。
人の睡眠を邪魔しておいて夜は余程楽しい夢を見ているらしい。XANXUSの名を呼んでおいて多少可愛げもあったかと思えば今度はそのケーキ私の…なんて食い意地の張ったものに変わっていて呆れて声も出ない。
視線ははだけた彼女の胸元へ。
彼女といわゆるただの肉体関係のみにあった時分ではやはりこんな事もなかったのだろうが、首筋から腹にかけてXANXUSによってつけられた噛み跡やら何やらが痛ましく残っている。変わってしまったのは自分の方かもしれないと己に対し嘲笑った。
手を伸ばし彼女の唇へ。ふにふにと弾力のあるそれはいつ噛み付いても柔らかくXANXUSを誘った。夜の誘いも、憎まれ口も、快感も全てこれから得られるのだと思うと不思議な気にもなる。暫くそれで遊んでいれば彼女には不快になったのかはたまた夢へとそれが伝達されてしまったのか苦しげに眉を寄せるがそれでも起きない辺り張っているのは食い意地だけではないらしい。
「はっ…んむぅ、」
可愛さが足りない。淑やかさも色気も乳も足りない。
――だというのに。
身体を動かし夜の上へと移動するとその唇へと深く口付けた。
流石に気配やベッドが揺れたことに気がついたのだろう、緩やかに目を開きながら、それでも珍しいXANXUSからのキスを受け入れ口を開くと舌がねっとりと絡みつく。その合い間に漏れ出る声はいっそ己を誘っているのかと聞きたくなるほど艶かしい。
「…おはよう、XANXUS。どうしたの」
ようやく意識がハッキリしたのだろう。ぱちくりと目を開く夜は、けれどもう遅い事に気がついた。自分の上にのしかかっている彼はもう臨戦モードであるということに。
「うるせえ寝言だな」
「えっ私何言ってたの!?」
色気よりも食い気。今まで抱いたどの女よりも普通で、しかしそれでも良いのだと。
胸中で思ったことは恐らく一生口にすることはないのだろうと、言葉にしないその代わりに夜の柔らかい肢体へと手を伸ばした。
ネゴト
何もかも寄越せ。
命も、深いところにあるものも、てめえが謳う生暖かい愛ってやつもだ。