わたしは壊滅的に料理ができない。
 何でできないの?と聞かれれば何でかわからないけど出来ないのだと答えるしかできない。火を指先から出す個性が邪魔をしているに違いないと思うんだよね。

「個性のせいにすんじゃねえわ」
「ごもっとも」

 言ったら怒られました。まあそうですよねー。私がそれで出来ないっていうなら爆豪くんなんて人間生活が送れる訳がないんだもん。あ、彼の場合普通にその個性関わらず結構ぶっ飛んだ性格しているからだから友達なんて「聞こえてんぞボケ」…まじか、独り言のはずだったのにおかしいな。爆豪くんったらいつのまにそんな新手の個性を手に入れたんだろう。今度は爆豪くんも何も言わなかったけれどその代わり通学鞄で頭をボスンと一殴り。

 いやもう頭を爆発させられなくてよかったけどこれはこれで幼馴染に対してひどい扱いだとおもうんだ。DVだDV。
 容赦のない一撃にくそうと思ったけど残念ながら私がこの人にやり返すことなんて生まれてこの方できた試しがない。勝てる訳がないのだ。生まれた頃から爆豪くんの横で下僕みたいな扱いを受けながら生きている私に完全根付いてしまった下僕根性は今更修正しようがない。高校が一緒だけど私は普通科、彼はヒーロー科。これでやっと解放されると思いきや気が付けば登下校を共にしているというわけで、寮生活になった今でも寮までのめちゃくちゃ短いあのルートを一緒に歩いているという有様。
 緑谷くんがたまに挨拶してくれるけど隣の爆豪くんを見次第ヒッて言うものだからあれ以来あまり目が合わなくなってしまったのは悲しい出来事として私はしっかり覚えている。

「飯も作れねえんかよ」
「簡単なのはほら最近色んなアプリあるじゃん?あれで自分の個性が邪魔しないようなものを何とか探せばできるんだよね。だけどあれなんだよ、問題なのか氷とかね、ああいうのが駄目。溶かす」
「例えば」
「例えば?うーん、そうだなあ今だとチョコレート作りとか最悪だね。切ろうと思った瞬間から溶けちゃう」

 嘲る言葉か単語しか出ていない彼に対し私ったらすごい。ちゃんと会話になってる。これも幼馴染パワーというやつだ。
 はあしかしどうしたものかな。個性を今から鍛えるとかそういうことは難しそうだしこれは今年も諦めるしかないのだろうか。せめてその間だけでも手から無意識に火が出てくるのを抑えられるような道具があればいいんだけどなあ。そんな便利な道具ないんだろうなあ。あとで楽○で調べて類似道具があったらポチろうかなあ。
 そんなことを考えながらぼちくら歩いているといきなり後ろから服を掴まれ首がしまる。ぐえっと情けない声を出してしまった私は悪くない。突然のことに呼吸ができなくなって涙が出てきたけどそれも全部爆豪くんが悪いのだ。

「何すんの爆豪くん。おなかすいた?買い食いする?」
「しねえ」
「え、じゃあ今何で止めたの。さっきやっぱりコンビニ入ればよかった?」
「ちげえわカス」
「えー…」

 じゃあ何だ。早く爆豪くんの求めている答えを導き出さないと彼がどんどん不機嫌になるのは目に見えてわかる。っていうか今も着々と眉間のシワが増えていっているから結構やばい。カウントもう始まってる。どうでもいいけど若いうちからそんなクセがあったら将来そのシワ消えなくなっちゃうからね。
 ううんううんと唸ったとしても私には爆豪くんが不機嫌になる理由が何一つ思い出せない。最近なら本当に登下校の短い時間ぐらいしか共通の時間がないのだ、会話だってほとんどないに近いし何だったら今日はまだ話が弾んだ方なのである。だいたい9割が私が喋っていて爆豪くんが相槌、もしくは人への煽り。喋りが得意だっていう訳じゃないのにこれはなかなかすごいことだとおもうんだよね。

「菓子作れんのか」
「うん?一応ホラ、せっかくだしクラスメイトには配ろうかなって思って」
「あ?」
「え?」

 ヒーロー科の子達もそういうのあると思うんだけど流石に男の子にはそういう話、きっとわからないよね。私は面倒だしタッパーに詰めて1人1個、1欠片でいいから食べてもらおうという予定にはしているんだけど前述の通りいい具合で止めることのできない個性のせいでここ数日練習している菓子作りを失敗に終えている。これじゃきっと作れないだろうなと諦めてはいるんだけど。
 …え、もしかして今の聞き方、って。

「ねえ爆豪くん、もし作ったら食べてくれる?」
「何で俺が」
「そうですよねー」

 そんな訳ないですよねートホホ。私が悪うございました。自意識過剰になって誠に申し訳ない。あまりにも的外れな答えに怒る気力すら失ってしまったの私よりも先に歩き始めた爆豪くんの顔がどうか般若のようになっていませんようにと祈るばかりだ。

「不味いモン寄越したらしばく」

 …祈る、ばかりだ。
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