昔から六道骸の事は気に食わなかった。今でもそうだ。
何があっても自分のラインというものは守ってきたし、最近は彼とぶつかると沢田が煩いから一応この屋敷内だけでは武器の使用を堅く禁じられていることも大人しく受け入れているというのに。


『もし守らなければ、夜は俺のところの秘書になってもらいますから』

10年という月日は良くも悪くも人を変えた。軟弱だった少年はいい意味で狡賢いボスへとなっていた。雲雀の、唯一の弱点であるものを的確に突く程度に。



「また眉間に皺」
「ちゃんと戻るように思ってくれるならあのぐうたら共をどうにかして」

周りの人間に対しては一線を引いて、それでいて自分の前でのみありのままの表情を浮かべる彼女のことを特別視しない訳がなかった。中学生時代からその気持ちは何ら変わっていない。次世代の風紀委員長として彼女を選んだ根底にはそれも含まれては、いる。
夜は知らず知らずのうちに雲雀の敷いた通りの未来へとゆっくり歩んでいるのだ。風紀委員になった者は大概にして風紀財団へと就職し、そして雲雀と共にいる。ただ唯一誤算だったのは、あまりに雲雀に近しくなってしまったが為に沢田の目に入ってしまったことだろう。
それでも、選ぶ権利はある。日本を離れる前、雲雀が夜に意志を確認しイタリアまでついてくると言い切った時は柄にも無く喜んだわけだが今はまだ、不安が残る。

ここには、まだ特大の不安で、不快な要素があるのだ。


「あの六道骸の毒牙にかかっていないのはもう君だけだよ」

その人物名に思い切り嫌な顔をしたのを確認して雲雀はほくそ笑んだ。結局は自分と彼女は似ているのだ。
任務の帰りで少し疲れていたけれど夜の姿を見て少しそれが和らいだのも事実。このまま土産にと夜の為に買った紅茶を共にしようと声をかけようとしたその時だった。

バタン!

夜が先程出てきた扉から、やけに衣服の乱れたメイドが此方へ向かって走ってきた。彼女が一瞬こちらを見てたじろいだようにも見えたがそれでも自分たちの隣を通り過ぎようとしていた。
目を細め、彼女の肢体を一瞥。首筋、背中、いたるところに所有の証である紅い華が散らされていた。情事の途中に逃げ出すだなんてどういうことだろうと思いながら夜を再び見ると彼女も珍しくメイドの姿に夢中になっていて。汚れを知らない夜にあんなものを見てほしくなくて「見すぎ」と頭を掴んだ。


「クフフ、成程君たちはそういう関係でしたか」
「あらあら六道さんって結構早いんですね」
「誰かさんが電気を消したことで彼女、驚いたみたいで突然乾いちゃいまして」
「うっわ生々し。最低」

メイドの後を追うようにして骸が姿を見せ、雲雀は夜を掴む手に僅かに力をこめた。
本当は彼と言葉も、視線も交わしてほしくもないが此処にいる以上それは不可能に近いだろう。

もう10年も経つのだというのに、雲雀と骸は変わらずの仲だった。この屋敷内で顔を合わせる度に当時は何度武器を抜いただろう。今は人質がいる以上何も出来なかったが。


「雲雀恭弥。色恋沙汰に興味のない男だと思っていましたがこんなじゃじゃ馬が良かったのですね」
「君みたいに節操無しじゃないっていってくれる?」
「失礼な、僕だって人は選びますよ」

最近は互いの気配を読んで顔を合わせないようにしていたというのに、自分たちを引き寄せるのはこの、今自分の手にいる彼女の所為だ。
雲雀の知っている限り、夜と彼が殆ど話しをすることはないというのに、骸が夜を見る目がとても優しいのも、それでいてなかなか近づけていない事だって、知っている。
要は同族嫌悪なのだ。こんなにも性格は真反対に近いというのに、根底にあるものは似ていて、そして惹かれる女は一緒なのだと。


「おいおい何言ってんのこっちだって選ぶ権利があるしそもそ」

それは一瞬の出来事だった。睨みつけたその瞬間、瞳に刻まれた字に気をとられたその数秒間、僅かに自分は骸の術にかかったのか自分の動きが止まった。
その間に夜に近付く骸。


「…キスの時ぐらい目を瞑ったらどうです?」

リップノイズの音で、彼が彼女に何をしたのかが分かった。
血が逆流するようなそんな感覚に囚われる。思わず自分の手にあるトンファーを取り出しそうになったがそんなことをすれば夜が自分の元を離れてしまう。否、そんなことはもう今どうでもいい。
炎を灯すべく指先に集中しようとしたその時、凛とした声がその場を支配した。


「委員長」

久しぶりに聞く言葉に動きが止まる。


「何だい」
「武器の使用許可を」

殺気だった夜が骸を視界に入れることすら本当は嫌だというのに。
それでもこの言葉尻から、先程の彼の行為に関して何も思っていない事に不謹慎ながら安心した。


「それでは挨拶はこの辺にしておきましょう」
「もう君の顔も見たくない」

夜を自分の腕の中に閉じ込めながら去っていく骸を睨みつけ、漸く彼の気配が消えたことがわかるとごもごと動く夜を解放する。
文句がいいたそうな夜の頭を撫でた。こんな醜い気持ちはまだ彼女に知られたくない。だけど彼には絶対渡したくない。けれど、この自分の腕の中で大人しくしている彼女にもっと触れたいと思うこの気持ちは早く彼女の中でも芽生えてほしいものだと矛盾した思いを描く。


「…君は、変わらないでね」
「?良く分からないけど私はいつも雲雀、あなたの傍で風紀を守りますよ」

当然ですから。
そうにっこり微笑む夜に雲雀は目を細めると、彼女に嫌われないよう、且つ消毒するにはどうすればいいだろうと策を練り始めた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -