パーティーに出るつもりなんかさらさら無くて、それでも兄である綱吉が女心なんてまだまだ分かってないながらに私のために用意してくれたドレスにアクセサリーの数々を見せられてはああもう仕方ないなあって半ば諦めていたわけです。三日前ぐらいから言わなくなってしまったから漸く私が人前に出るああいった行事が嫌いなことを分かってくれたものかと安心していたのに彼ったら裏で準備するのが忙しかったとかなんとかで、

「夜!ああやっぱり可愛い!俺の自慢だ」

そうやって柔らかな眼差しを送って喜んでくれる綱吉の好意を無碍に出来るわけがなかった。
薄い青のワンピースは胸元が割りと開いていて無性に虚しくなったけど。やめてよイタリアの御仁も多い中、発育の悪い私にこんなものを着せるんじゃない。視線で訴えたというのに肝心の直感だか何だかは働かなかったらしく綱吉は馬鹿みたいに私にカメラを向けた。シスコンといえば聞こえはいい。ただの馬鹿だ。
最初の綱吉の挨拶を聞き終えたら絶対に帰るからねと念押しして、仕方なくこの場に立ったというのが、今から30分程前。

―――バシャリ。

気分よくワインを飲んでいた私の胸元に、冷たいものがかかった。じわりと肌に吸い付く不快感を感じてから、一応念のために目でも確認する。お水であった方が如何にマシだったか、と思えるそれはさっきまで私が口にしていたものと同じく赤ワインで。

「ボンゴレの守護者に囲まれて良い気になってんじゃないわよ!この雌猫が!」

血の色を髣髴させるようなそんな真赤で胸元もスリットも大胆に入ったセクシーなドレスに身を包んだブロンズ髪の美女が私に向かってそれをぶちまけたのを漸く理解した。大方守護者の誰かに話しかけてにべもなく断られた腹いせに近くで彼らと談笑していた私に八つ当たりしたというところかしら。顔が赤いしきっと飲みすぎてしまったのだろう。可哀想に。
どよめく周囲は私がまさかホストの妹だなんて分かってもいないみたいでどうしていいのかと狼狽えているのがわかる。こういう時に限って綱吉に全く似ていないこの容姿も、今まで毛嫌いして社交の場に出てこなかった事を少しだけ後悔した。さてどうしよう、まだ挨拶を聞いてはいないし守護者達は綱吉の周りに居るからここは見えていないだろう。
そんなことを考えながら何気なく周りを見渡し、何とも幸運にもこの場をどうにかしてくれそうな人間を見出して私は彼に声を掛けた。

「ごめんなさい、貴方に送ってもらったドレス濡らしちゃったわ」
「…あ?」
「やだもう、怒らないでよ…XANXUS」

目線で色々と訴えながら私は一番近くにいた信頼のできる人の逞しい腕に自分の腕を絡ませた。スゥ、と目が細められたのを感じて私に合わせてくれることが分かってへらりと笑みを浮かべる。

「…誰かにやられたんじゃねーだろうな?」
「いいえ。零しちゃったのよ。つい、うっかりね」
「ハッ、そうだな。流石にボンゴレ10代目の妹君に手なんて出す奴は居ねえだろうよ」

赤くなっていた女性が見る見るうちに青ざめ震えてきたのがわかった。周りも今度こそ誰を敵に回しかけたのか分かったらしい。美人って青くなっても綺麗なのね。まあ何て羨ましい。
知らずとはいえ、ボンゴレの、それもボスの妹の、そしてヴァリアーのボスであり9代目の息子の恋人を雌猫扱いしてワインをぶっかけた。どこのファミリーのお嬢様かは知らないけれど、私は取り敢えず許しましょう。兄の顔に免じてね!
XANXUSはそれを見届けると私の腕を絡めたままその場をあとにした。綱吉には悪いけれどここで私は退散ですよ。





そして連れていかれたのはXANXUSの用意された部屋だった。入ったと同時に腕を払われて不機嫌そうにソファへ座り込む。

「俺を巻き込むな」
「どうせXANXUSも女の人に囲まれまくって面倒くさかったでしょ?雰囲気で分かったわ。これでギブアンドテイクって事で」
「…いい性格してやがる」

グラスにウイスキーと氷を入れてXANXUSに渡しながら私も前のソファへと座ろうとしてふと彼の座る2人用ソファの端が僅かに空いているのに気付いてにっこりと笑ってそこに身体を滑らせた。綱吉には相変わらず厳しいけれどその分私には何かと甘い彼の事は私は大好きだ。

「…さっきの」
「え?」
「あそこでお前自身が罰を与え退席を与えなかったことであの女は今頃どうなってんだろうな?」

ああ、何だそんなこと。私はミネラルウォーターをぐいっと一気に流し込んでXANXUSの顔を見た。彼はきっとわかっている。分かっている上で聞いてくるものなのだから尚更性質が悪い。少しだけ手すりの方へと身体を寄せてXANXUSの綺麗な顔を見るといつのまにか彼もウイスキーを持っていたグラスを前のテーブルに置いて此方を見返している。

「綱吉は私を見ていたわ。私が挨拶を聞かずに去ったことも、折角買ったドレスを汚されたことも、それから退席の相手にXANXUSを選んだことも、何もかも気に食わないでしょう?」

それは決してXANXUSの事が嫌いだとかそういうのではなくて、勿論綱吉はこの綺麗で強い人が好きだし信頼していることも知っている。ただそれ以上に私の事を大事にしてくれているから、綱吉をではなくXANXUSを頼った事が気に食わないとただそれだけのことで。
残された場で、あの美人なお姉さんを唯一擁護できる私が先に退散したのだからまあ、それなりに色々とあるでしょう、ね?
言外の言葉だってXANXUSは気付いていたに違いない。だろうな、といった表情を浮かべて私の事を見ながら大きな手が私の頭を撫でた。

「お前は本当に兄に似てねえな」
「…あら残念」
「褒めてんだ」

後頭部からゆっくりと首筋、顎、頬へ。
指の腹でつつつと撫でられながら移動するそれにぞくりとしたものを感じながら私はXANXUSの空いた方の手に自分の指を絡める。
ふと重なる唇は仄かにアルコールの味がして、次いで口内へと侵入してきたそれは私を酔わせる目的か。折角ワインの味を水で流したというのに今度はXANXUSの味で一杯になった。

「…ね、ドレスが濡れて気持ち悪いの」
「そうか」

くつりと笑った彼の顔は、私しか見れないとびっきりのそれ。横抱きにされたまま私は彼の広い胸に頭をすり寄せこれがパーティー参加のご褒美ならばたまには参加してもいいかなあなんて場違いなことを考えていた。
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