物欲は他者よりも随分と薄いと思っていた。であるというのにいざ欲しいと声を出して言うものは大体が入手困難のもので。
 かといって他人から無理やり奪えるものではなく、つまるところ為す術がなかったというわけだ。

「…どうしたの、スクアーロ」
「いや、何もねぇ」

 変なの、と笑う夜は何も知らない。自分がどれほど恋焦がれようとも手を伸ばそうともするりと無意識の内に逃げ、そして手から遠退く。
 焦がれれば焦がれるだけ無駄だと己を律しても結局のところ根底的なところで彼女を欲しているのだから全てが無駄に終わってしまうのだ。ならば枯れてしまうまで何もしないでいよう、と思うのにそう考えた途端彼女がどうしてだか手に入りそうなそんな微かな期待を抱いてしまうのだからどうしようもない。まるで蜃気楼のようだと思いながらもこのわだかまった気持ちに折り合いをつけることなく今日も夜の隣にいるというわけで。

「私の事考えてたでしょう」
「っ!」
「…冗談だったのに」

 読心術でも習得してしまったのかと思うこの女はボンゴレ本部から定期的に配達や書状を持ってくるれっきとした仲間である。とはいえこの朗らかな性格に毒されたのかベルがたいそう懐き、夜がくるたびにデートを申し込み続け先日ようやくそれが叶ったのだと嬉しそうに報告しそれが発端で自分の心臓がじくりと痛み始めたことは記憶に新しい。
 そこからの進展は確かに気になるところであったが聞いたところで余計惨めな思いになるのであればとそれすら本人たちからは聞けずじまいで、全てが中途半端なところにあった。

「怒んないでよ」
「怒ってねえぞぉ」

 ぷに、とスクアーロの頬に触れる夜の指先を生身の手で掴む。
 目を見張るほどの、誰もが振り返るような、そんな美女ではない。ただ彼女は無邪気に、にこにこと微笑む。その笑みに囚われてしまっている。その笑みが、言葉が、スクアーロを縛り付けるだなんて夜は思ってもいないだろう。

「私もスクアーロの事、考えてたんだから」

 その後、ベルが相手にされなかったことを残念そうに話していたことも聞いてない振りをしていた。そうでなければ、少しでもまだ自分にも勝機があるだなんて、期待してしまうから。今日はベルがいないことを先に告げておいたのにも関わらずまだ自分の傍でゆっくりと話をしているだなんて、優越感に浸ってしまうから。

 するりと繋がった手が握りなおされ、指を絡まされる。手から伝わる熱が、鼓動の早さは自惚れてしまうのも無理はない。
 ああ、でも、これは、もしかして。

「…夜、俺は」

 熱っぽい彼女の瞳を見ながら、スクアーロはゆっくりと手に力を込めて彼女の恐らくきっと、望んでいるであろう言葉を投げかけた。

キラキラヒカル。
お前はいつだって、眩すぎんだぁ

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