コレの続き


「お、また会ったな」
「おや、ホントだ奇遇だね!」

 轟くんと再会したのはあれからまた数日しか経っていない。
 中学校を卒業してから、正直会うのは気恥ずかしかったりする。告白とかしたわけじゃなかったんだけど私の個性は私の感情を周りに知らせすぎる。結果的に轟くんとお話をしている時にはずっと頭上にハートマークが飛び交っていたはず。バレバレだったわけだ。
 ところが彼、どうやら何も考えていなかったらしい。ハートじゃなくて赤い心臓と真顔で表現したのでその辺は間違いじゃないだろう。そう、轟くんにだけは私の片想いはバレていなかったのであった。嬉しいような寂しいような複雑な感情である。
 ともあれ、轟くんが好きなことには今だって変わりない。ちょっとは個性を抑制するコツをつかんだので最近は日常生活に支障ないようにはなっていたのに、どうしても彼の前では個性を抑えるのがかなり、…そう、かなり、厳しい。

「っと、」

 ポコン、と頭上に生まれかけたハートをむんずとつかみポイッと後ろに投げ捨てた。私からちょっと離れれば消えていくので轟くんには見えていなかったことだろう。まったくもって厄介な個性である。
 冷静に。冷静に。
 轟くんが私を見つけて近づいて来るまでに軽く呼吸を整えた。

「そう言えば中学の時は全然話さなかったな」
「そうだねえ、轟くん大人気だったし」
「そうか?」
「そうなんです」

 実を言うと怖がられ半分、興味半分。轟くんの周りはだいたいそんな感じだった。女子からは大人気だったけどお互い牽制しあっていたせいで彼に近付くことはかなり勇気のいることだったのだ。学校一番の美人でもフラれたとか噂になってたし。そして私はこの個性のせいで轟くんが好きなことなんてバレバレで、だからこそ余計に近付けなかったということもある。
 だからそう、轟くんがこうやって話しかけてきてくれるのも、私の個性のことを知っているのも本当はびっくり案件なのだった。喋ったことなんて…うん、挨拶とかそんな感じ。だからこうやって話せるのは奇跡だと思っているし、私は強運だと信じているのである。

「なあ、またアレ出してくれねえか」

 ぽやぽやっと中学の頃を懐かしんでいたら轟くんはまた私の頭に手を伸ばすところだった。何を言われたのか理解して、あっと思ったのも束の間、その手はぽすんと私の頭の上に乗せられわしゃわしゃと撫で回される。

(……っ、この人は、また!)

 意識しない、なんて無理な話だ。
 声はちょっと低くなっているし、背はたぶん、伸びたと思う。あと表情はずいぶんと柔らかくなって、私に笑いかけてきてくれる。さっきなんて私を見つけてわざわざ声をかけ、歩いてきてくれたのだ。なんというか、これは夢?自分に都合のいい夢を見させられているんじゃないかと思うんだけど、それでも触られる感触は本物だ。……撫でられるというよりは私の頭上から例のアレが出てくるように仕向けている、とも思えるけれど。

 ポ、ポ、ポン!

 なんて単純な私でしょう。個性を抑えるどころかものの数秒で頭の上から感情が形になって現れるのが自分でもわかる。現在、私と言えば怒っているわけでもなければ泣いているわけでもない。当然轟くんの手には私の、彼への気持ちが握られていたのであった。恥ずかしすぎて死にたい。今すぐ顔を背けて逃げたい。もしくは轟くんの手から奪い取って投げ捨てたい!!
 だけど小心者の私は轟くんに返して、とか、触れて奪い取る、とかそんな事ができるはずもない。轟くんの大きな手からちょっとはみ出たそれはまさしく彼への気持ちそのものだった。真っ赤な、ハート。これを心臓みたいなやつだと前回は言っていたっけ。見るのが好きだった、とも。

「……まじまじと見ないで」
「見たら、減るか?」
「へ、減らないけど。減らないけど恥ずかしい!」

 例え気付かれていないでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。なんで私がこんなにしどろもどろになっているか轟くんは知らないだろうけど。
 轟くんはやっぱりそれを興味津々といった様子でいろんな角度から見ている。確かに見える個性、触れる個性は珍しいけど……うう。

「やっぱおもしれえ」

 そんな風に楽しんでもらえると私も嬉しいんだけどそれ以上に限界が近いです。個性が出ないように我慢するのが精一杯だというのに轟くんはまだ止まらない。
 撫でて、触って、それから握って。挙句にそれにすりっと頬を寄せた。大サービスとばかりに満足気な微笑み付きで。

「なあ、これ持って帰っていいか?」
「っだめです! 絶対だめ!」
「…そうか」

 勘弁してください。とんでもない大きさのハートが出ちゃいそう。
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