いつもは猫の手も借りたいほど忙しいっていうのに、時折こうやって暇な日がやってくる。電話もなければ任務もない、なんてことのない一日だ。
 ボンゴレファミリー。そこに所属している以上、何というか暇なのは良いことだ。平和ということだ。マフィアに入っている以上血なまぐさい日常っていうのも悲しきかな慣れてきていたし、当然だと思ってはいるのでこういう日は逆に落ち着かない。慣れとは本当に恐ろしい。

「…で、お前は何でここに居んだ」
「瓜と遊びに来たんだよん」
「……あのなあ」

 本当の本当に恐ろしいのは、時間が空いた場合、何をしていいか分からなくなることだ。元々私たちに規則正しい就労時間というものは備わっておらず、基本的に電話が鳴った時から仕事が始まり、電話が鳴らなくなれば仕事が終わる。そんな感じになる。つまり今日はとても珍しいことに電話が鳴らず、また任務もない。だけどこれで仕事が終わりっていうわけじゃなく、結局はこの本部に居なくてはならないということになる。私としては突然休みを得たとしてどこかに行く宛があるわけでもないのでどっちでも良かったんだけど。じゃあ獄寺の部屋へ向かったのは何故かと言われれば特に他意もなく”何となく”だったのだった。どうせ皆が居ないのも知っていたし。
 というわけで今日は電話が鳴るまで獄寺の煙草くさい部屋で過ごすことを本人の許可なく決めたのだった。こうなってしまえば私を追い出すことも不可能であると知っている獄寺はハアと私にしっかり聞こえるよう演技がかった大きさで溜息をついて、「あっち行ってろ」と促す。これで私の勝利は確定した。

「やったー! じゃあお菓子とジュースは後からでお願いします!」
「んなモンねえよ!」

 ところで私と獄寺は中学時代からの同期だ。いやはやびっくりしちゃうよね、ダメツナって言われてた沢田がマフィアのボスで、獄寺がその右腕。あ、自称なんだけど。見た感じ逆と言うか何というか。そこに並中のメンバーがごっそり所属しているって変な感じ。だから私も緊張しないというか何というか。テストで1、2位を争っていたあの頃と態度が一切変わらないのは仕方ないっちゃ仕方ない。
 でも10年も経てば色々変化もある。主に容姿。元々整った顔をしているなと思っていた獄寺なんて割と顕著だ。廊下を歩けば女性陣が盛り上がる程度にかっこいい。わかる。残念ながら私は目が肥えてしまったのか特に何も思わなくなってしまったんだけど。

「あ、瓜寝てる…」
「さっきまで遊んでやってたからな」
「うわ何でそんな自慢気なの? ずるくない?」
「悔しかったらお前もリング使えるようになりやがれ」

 ぐぬぬ。そう言われたら私に何も言い返すことはできない。
 悔し紛れに獄寺の足を踏ん付けベッドに眠っている瓜を起こさないよう端の方に座り込んだ。基本的にここはペット禁止なんだけど匣アニマルは禁止にできない。死ぬ気の炎なんてものを出すこともできない私はこうやって動物と触れ合いたかったら誰かの元に行かなくちゃならないのだ。ハリネズミも触りに行きたいんだけど雲雀さんは怖すぎて却下。しばらく開いていない風紀財団の扉の向こうへ単身乗り込む勇気はない。そうなると常時瓜を出している獄寺のところに自然と足を運んでしまうのだ。獄寺も別に文句を言うことなく遊ばせてくれるし。
 …はあ、でも今日はもう遊んでもらえそうにないなあ。

「仕事はどうしたんだよ」
「今日電話一切鳴らないんだよね。ひま」
「あー、そういえばそうだったな」

 獄寺は多分、悪い人じゃないと思う。
 何だかんだ構ってくれるし、瓜と遊ばせてくれるし、こうやってジュースくれたりするし。勝手に漁ったことはないから知らないけど多分冷蔵庫の中には私が好きって言ってたジュースをストックしてくれてるんじゃないかな? 持ってきてくれたジュースは冷えていてとてもおいしい。
 どうやら獄寺も今日は暇な日らしい。仕事に戻れとか言われることもなくただいつものように机に持たれて煙草を吸うその姿はさまになっていて正直悔しい。中学時代ならともかく今はちゃんと成人済みだもんね。誰も注意する人は居やしない。実は獄寺と喫煙ルームで一緒になりたいが為に吸えない煙草を手にウロウロしている人も居るらしいんだけど私は優しいからその辺りは告げ口しないであげよう。獄寺が実はモテモテっていうことも言ってあげないよ。悔しいから。

「なー夜」
「んん?」
「お前、今夜空いてっか? ラーメン食いに行きてえ」
「そりゃ喜んでだよ獄寺さま! わーい奢り!」

 あ、騒いだから瓜が起きちゃった。ごめん。クアアと人間くさいアクビをして私の膝に擦り寄る姿はやっぱり猫で、とても愛らしい。ぐりぐりと頭を指の腹で撫でながら突然のお誘いに口元を緩まってしまうのは仕方がない。色気より食い気? あ、うんそうかもしれないね。だけどそれだけじゃないんだよなあ。

「……ハア、別にいいけどよ」
「へへへ、やったね!」

 ね、獄寺。私、獄寺のこと結構好きなんだけど、獄寺もそうだったらいいなあ。でもそうじゃなかったらこれもまた悔しいから言わないけどね。
(未確認愛情報)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -