朝チュン


 深い深い眠りから目を覚ました時、一番最初に感じたのはまず痛みだった。
 あれ、私どうしてこんな場所が痛いんだろう。変な格好で眠ってしまったのだろうか。目を瞑ったまま手を伸ばしその箇所を確認するとどうやら打ち身などではなく筋肉痛のような痛みがズキズキと私を苛んでいる。主に太もも、あとは腰。寝すぎてしまったんだっけ。あれ、そもそも昨夜は何をしていたんだっけ。

「…ヒッ」

 昨夜のことを思い出そうとしながら目を開くとそこは思っていた私の部屋ではあったんだけど何かがおかしくて、いやそれよりも視界の半分以上を占めているのが彼氏である爆豪くんだったわけで喉からとんでもない声が漏れた。死ぬかと思った。心臓が、飛び出るかと思った。

 そうだそういえば昨夜はパーティだった。
 もうすぐ爆豪くんが寮生活になるとか何とかでそれなら最後お別れ会をしようだとかそういう流れになりしばらく両親が海外旅行で家を空けている我が家がその会場に選ばれた。とはいったって主催者は私で、参加者は爆豪くんただ1人という些細なものだったんだけどそれなりに頑張って作ったご飯とかも全部文句を言いつつ平らげてもらって。
で、…あれ、それからどうなったんだっけ。
 ご飯を食べて、片付けを一緒にして、…お風呂、も入って。レンタル期限ギリギリのDVDを見ようかって2人パジャマで私の部屋にあがって。…ええと、それから。それからは。

「いつまで見てんだ」
「!びっくりした」
「人の顔見てびっくりしてんじゃねえわ」

 急に目を開けたものだから本当にびっくりした。
 そして爆豪くんの顔を見た瞬間、昨夜のことを思い出してしまってじわじわと顔に熱が集まってくるのを感じ思わず身体ごと反転させ顔を手で覆う。

 爆豪くんも私も素っ裸だった。

 恋人として至って自然で、有り得なくはない行為をした。
 そうだ、そうだったじゃないか。爆豪くんはどうだか知らないし聞く勇気なんてなかったけど私は男の人と付き合ったこともなくて初めてだった。夜中ちょっとふざけて触れていたらそこから発展して、身体を繋いだ。痛いだとか聞いたことがあって終始怯えていたんだけど、多分爆豪くんはすごく丁寧に、待っていてくれたんだと思う。いつまで経っても力を抜くことができず縮こまった私の頭を撫でてくれて、至る所に熱く口付けられて。あれ、本当にこれ爆豪くん?なんてちょっと意外に思って力が抜けたところも覚えている。異物感に泣きそうになったときも、怖くて目を瞑ったときも大丈夫かと声をかけられて、……考えるのはやめよう、恥ずかしくなって来た。世のカップルはこんな恥ずかしい思いをしているのか。すごい。すごすぎる。私はきっとこれからどれだけ行為があったとしても慣れることはないのだろう。ましてやその相手が爆豪くんならば尚更、普段との差がありすぎてドキドキとしてしまう。今爆豪くんを見返す勇気を持てるはずがない。

「おい、こっち見ろ」
「…無理です」
「あ?」
「凄まないでよ。今ちょっと心臓落ち着かせているんだから」

 どうして爆豪くんはいつもと変わらないんだろう。昨夜はあんなに優しかったし、…名前も呼んでくれたし。そういえば私爆豪くんに名前を呼ばれることなんてそうなくて、いつもはボケだのモブだの散々な呼ばれ方だったのにあれって本当にずるい。私の名前を知っていたんだという今更ながらの感動と恥ずかしさと嬉しさが一気に来て身体がふるりと震えたなんて嘘みたい。本当はいたって一般的な恋人、…ううん、友達だって名前を呼ぶことなんて普通なのにそれにすら慣れてしまった私が怖い。

 おい、ともう一度身体を後ろから揺すられたけど色んな意味で怖くて振り向けることなどできはせず、ぐらりと視界が揺れたかと思うと何と爆豪くんが今度は私の上に覆いかぶさってくる有様で私はもう一度ヒイッと喉からか細い声を漏らす。

「俺を無視するなんざいい度胸してんじゃねえか」
「…あ、今のいつもの爆豪くんって感じで安心した」
「ざけんな殺す」

 素っ裸で言い合うには少し物騒だけどいつもと変わらない爆豪くんに本当に安心した
。優しくなってたらどうしようと思っていたところだったもん、ああ良かった。心配して損した。安堵したついでに手を伸ばし、脱ぎ散らかしたパジャマを手元に手繰り寄せようとするとその手を取られ絡め取られる。あ、あれ…?爆豪くんの様子がちょっとおかしい。絡んだ手は私もだけど爆豪くんも少し汗ばんでいて、それでいて離す様子は微塵も感じ取れない。むしろ骨を粉砕するつもりなんじゃないかと思うぐらい強く強く握られ私はまるで捕らえられた草食動物。

「あ、の」
「黙ってろ」

 ギラギラといつもよりも獰猛に赤い瞳を細め舌舐めずりした爆豪くんに誰が敵うだろうか。昨夜を彷彿とさせるぞわりとした触り方、近付いてくる顔。ああせめて明るい時間はやめて欲しいと抗議しようとする唇を塞がれた私に抵抗の余地などどこにもない。
「朝チュン」リクエストありがとうございました!
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