「知ってるか、最近スクアーロ隊長機嫌めちゃくちゃ良いらしいぜ」
「ああ、良すぎる所為で張り切って任務も先陣切って行くんだとか」
「生存率は上がるけど…何ていうか、分かりやすいよなあ。ありゃ絶対近々夜さんとデートだぜ」
「今日なんて任務が終わった後、猛ダッシュで帰ったから多分今から会いに行くんだろうなあ」
「はあ、良いなあ。俺も彼女欲しい」



「おそようスクアーロ。こんな時間に何か用?デートなら明日なんだけど」
「そんな事言うなよ。可愛いお前に一刻も早く会いたくて来ちまったってんのに」

夜は元々ヴァリアーに所属していた嵐属性の精鋭部隊の人間である。今は誰かさんの懇願もあり前線から退き一般人と変わらぬ生活をしているのだが当の本人は刺激が足らぬ血が足らぬと恐ろしいことを言っては困らせていることを精鋭部隊の人間は誰でも知っていた。

直属の上司である怠惰の王子の代わりに何でも仕事を率先してやってきた夜は他の隊員からも非常に好かれ、且つ腕も立つという事で女性隊員からの信頼も厚い。性格はどちらかと言うと大雑把なところが見られたが任務時においてはそのようなところは微塵も感じさせることなくこなしてきた彼女は全隊員にとっては憧れの的であったもので、故にヴァリアーから抜けることになった時は動揺が走ったものだ。
しかも理由となれば完全に彼女の意志ではなく恋仲であるスクアーロが願ったからだということだし、辞めたくないと駄々を捏ねた彼女に対して頭を下げ、また上司であるベルには彼女がしてきた仕事の一部を自分が受け持つと申し出たぐらいだ。元々仕事には真面目に取り組んできていたスクアーロだったがいざ夜の持っていた仕事を肩代わりすることになった暁には彼女がどれだけ有能な人物であったかをまざまざと思い知らされ苦しいのに誇らしいという複雑な感情を抱いているのだが当然それは夜が知る由もなく。


「任務はどうだったの」
「お前が担当してたファミリーの裏を取った。殲滅は一瞬だったぜえ」
「…どうせスクアーロがやったんでしょ。それじゃ意味ないのはあんたが一番分かっているのに」

そうだ、彼女は任務の成功率もだったが隊員全体の育成も視野に入れた行動をしていたか。確かに今回自分が先陣切って突入したのは任務成功率を考えると一番確実だった。それでいて不正解なのは自分でもよく理解っている。寧ろスクアーロが出張ることもなく時間さえ掛ければ彼らだけで終えることの出来た案件だ。
夜の少し機嫌が悪いのは大まかに分けて2つだと長年付き合ってきたスクアーロは想定できた。まず1つはこの夜分に突然やって来たということ、もう1つが上述の件、――即ちスクアーロほぼ1人で任務を終えさせてしまったことにある。精鋭部隊を抜けているのだ、今となっては彼女がそれを口出しする権利など何処にもないのだが如何せん前線から外れた理由は自分にある。


「…夜」
「ああもう、そんな顔しないで。ごめんね、私が口を挟むのを許してくれてありがとう」

彼女はいつだって優しすぎる。スクアーロの感情など、思考など夜にはお見通しなのだろう。するりと彼女の腕がスクアーロの身体へと伸び、走ってきた所為で冷えた頬を温かな指がなぞる。いつだって彼女に敵うことはなく、それでいて甘やかされている自覚はあった。


「私に早く会いたくて、なんて部下に知られたら恥ずかしいよ?」
「簡単にバレるかよ」
「どうだろうね。結構スクアーロって分かりやすいから」

鼻を摘まれた後、噛み付くように下からキスをされるとすぐにスクアーロも自分から腕を伸ばし腰を抱き深く口付けた。
彼女には直接言ったことはなかったがこういう時間を得ることができるのであればいつだって任務を率先してするつもりだった。彼女には今はもう精鋭部隊との連絡を禁じている。もしもの可能性があるのであればベルかXANXUSだろうが彼らも一旦抜けた人間のことをどうこうしようと言うつもりは恐らくはない。ベルに限っては仕事が溜まれば可能性も否めないのだがその辺りは念入りに隠しきってしまうとして。

ン、と彼女の口から上ずった声が漏れ強張っていた身体から力が抜けたことを確認するとそのまま後ろ手で鍵を閉め服の中へと侵入し身体をまさぐった。くすぐったそうに身を捩ったものの嫌がる素振りはみせない彼女に先程までの機嫌の悪さは感じ取れない。また自分がさっきまで抱いていた申し訳なさも何処かへふっ飛ばし、唇は彼女の額、頬、唇、そして項へと。風呂上がりだったのかいつもより柔らかな香りが鼻孔をくすぐり、すんとそこで匂いを嗅ぐとぽんぽんと後頭部を撫ぜられる。


「お風呂に入ってらっしゃいな。ご飯、温めておくから」
「……」
「嫌そうな顔をしないの。明日はどうせ1日オフなんでしょう?」

この生活は随分慣れてきている。きっと夜だって最初こそ機嫌が悪そうだったのだが実は風呂も既に用意されていることだって、スクアーロが任務語すぐに空腹でやって来ることを見越し食事を作ってあることだって知っていた。何だかんだ言って一刻も早く会いたかったのは自分だけではないのだ。そう考えることにすれば今すぐ愛し合いたい気分であるのだがせっかく用意されたものを無下にすることなどできるはずもなく。

全て済ませ、最後のデザートまで喰らわなければならない。

「愛してる」「私もよ」そんなやり取りをした後、風呂場へと向かいながらこの至福のひとときだけは何にも代えがたいものなのだと思わずにはいられなかった。彼女が用意した全てを1つ1つ、丹念に隅から隅まで味合わなければ。それが自分が今日まで頑張った褒美。思わず頬を緩ませながら足早になるのを止めることなど誰ができよう。ともあれ時間は有限、待ってはくれぬ。明日の休みをじっくり堪能する為、スクアーロは廊下を歩くのだった。
(同じ夜を並べて眠れ)

「休日のデート」リクエストありがとうございました!
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