攻撃おもいっきり入った時ってサ、とーっても楽しいの。いや本当はこんなのヒーローが言っちゃ駄目なんだって分かってるんだよ?分かってるんだけどやっぱり嬉しいものは嬉しいし楽しいものは楽しい。特に私みたいなパワーでゴリ押しタイプの戦闘方法の人間はその傾向にあると思うんだよね。その逆もしかりっていうか。つまり、何ていうかさ。

 当たるとめっちゃ痛い。

「…いっででで、今ので絶対肋骨イったんだけど」
「悪い」
「本当に悪いと思ってる顔じゃないんだよなあ」

 パワー負けしたってどういうことだ。
 へっへ、笑える立てないぐらい痛い。まあこのあたりはさすがエンデヴァーさんとこの息子さんって感じ?ええどうしよう困ったなあ。まさかこんな大負傷するとは思わなかったし個性使用で怪我したは事務所に怒られるだろうなあ…うう、嫌だなあ。痛みに頬を引きつらせながら両手を挙げ降参のポーズ。いやはや末恐ろしいお子さんである。

 あ、私?別に彼にやられたからって敵ではございません。ええそうですとも。超肉体派なとあるヒーローの万年サイドキックをやっております夜と申します以後お見知りおきを。
 事の顛末は何かと言いますと彼・轟焦凍くんが突然我が事務所にやってきてさあ大変!あのエンデヴァーさんとこの息子さんがこんなボロ事務所に何用かと思っていればお茶汲み係の私を見て「こいつを借りたい」と申し出があり。まあびっくりしてお茶こぼしたよね。怒られたけど。
 どうやらどこぞで活動していたときに轟くんが私を見たらしい。まあ一応私もライセンスは云年前に取得してぼちぼちやってる訳なので有り得ない話ではないのだけど、だからといってまさか私の居場所を探し出された挙句連れて行かれるなんて誰が思おうか。

「ってマジで痛い。ごめん轟くん、タクシー呼んで欲しいんだけど」
「?」
「いや不思議そうな顔されても困るから。私今からもう帰るから」

 どうやら一目惚れだったらしい。まあね、ちょっとこの体術珍しいよね。私も父さん直伝だからそう言われると嬉しくなってびっくりするぐらい大きな家に連れて行かれてから殺る気になったものだ。まあでも続いたのはほんの数十分。主な敗因は情けなくも体力切れ。
 というかこういった手合わせだとかトレーニングって雄英高校の授業とかで組み込まれているようなものじゃないの?学校終わってからも私に指導求めるとか普通じゃないしそもそも彼ならば希望すれば最高で最強の教師が無料で教えてくれるのでは。…なんて言いたくもなったけどその辺りの家庭の事情は深く突っ込まないようにする。私だって命は惜しいし我が身は一番可愛い。
 とりあえず今日は帰ろう。1回負けたら終わりだって自分の中で決めていたし。元々この件に関しては私はお呼びじゃなかった。自分の実力なんてわかってはいるものでちょっと手合わせをしてみて余計に理解した。その辺りのモブはどう足掻いても、どう努力しても越えられない壁があるってね。

「で、あともう私は手合わせには役不足ですので辞退します。呼んでくれてありがとね」
「嫌だ」
「もう1度言うよ。”辞退いたします”。…今日1日で十分でしょう?」

 弱い者をいたぶるのが好きというのであれば相当いい性格していると思うよホント。彼もそれはわかっているはずなんだ。私じゃ全然役に立っていないことを。というか手合わせに呼ばれた意味とはって感じ。あーあ、自分が弱いことを身をもって分からされたって何と惨めなものか。事務所帰ったらもっと真面目にトレーニングに励もう…。なんて、何でこんな年下に学ばされなければならなかったのだろうか。
 痛みに前屈みになりながらもどうにか立ち上がる。事務所まで帰ったら治療受けよう。が、一歩歩んだ瞬間に痛みがズキンと体中を走りぐらりとよろめいた。無様に床へ転ばなかったのは自分でどうにか体勢を立て直した訳ではなく轟くんが腕を伸ばし支えてくれたからだった。あー、助かった。このまま落ちたら多分痛みで気絶しているとこだった。

「大丈夫か」
「…いやあすいません。お世話になります」

 何度か取っ組み合いしたから分かるけど良い体格している。最近の高校生って恐ろしいねえ。ゼエ、ゼエと息を吐きながら壁の方へと移動させてもらいゆっくり座り込んだ。ひんやり冷たい床が気持ちがいい。もう少し落ち着いたら帰ろう。今は休むのが1番だわ。

「夜」

 …ん、あれ、私いつの間に名前で呼ばれるようになってたんだっけ。ぼんやり隣を見上げると轟くんは何を考えているのかよく分からない表情を浮かべ私のことを見下ろしている。あのね、年上にはもっと気を使いなさい。あとお姉さんって呼ばないとぶっ飛ばすから。
 大体どうして私にここまで構うのか、とかちょっと近いから離れなさいとか、色々言いたいこともあったけど兎に角私は疲れた。会話の相手をするのも結構体力を使うのだ。だから弟にするようにポンポンと頭を撫でて私は壁に背中を預け、ゆっくり目を瞑る。…あ、そういえば私この前の現場でも誰かにこうやってあげたことあったっけな。あれ、誰だっけなあ。あの子、無事だと良いなあ。

ゆららかに恋 
きららかに春

 またその手。またその顔。どうせこの人にはまだ届いていない。どうせこの人はあの時のことを覚えていない。一目惚れだって伝えてんのに俺は脈なしか。
…だけど、まだ今はその手が心地いいから。今だけは未だ、

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