「で、君はどうしてここに来ちゃったのかなあ」
「?名前に会いにきたってのは駄目なのか」
「いやそういう意味じゃなくてさ」
 
 あーあー私駄目だこのタイプ苦手。いや顔とかはめちゃくちゃタイプだし頭も良いはずなんだけど何と言うか手応えがないというかからかい甲斐のないというか。
 ここは2年サポート科の学生寮、3階。1階の共同スペースを使えばすぐ隣の男ばっかりの寮に入れるわけだけど規則は規則、時間になったら外出は基本的に禁止だ。なのに私の部屋、つまり女子寮の角部屋で開け放たれた窓、部屋着の轟くんが外からノックし身軽に入ってくるとなると乙女がこの状況を見れば心ときめくものがあったのかもしれない。しかしながらこっちはソシャゲにいそしむ高校2年生、イベント期間があることをすっかり忘れていて一生懸命魔力を消費しつつ攻略サイトを開いて効率よくアイテム回収をしている最中だ。正直かまっていられる暇などないぐらい忙しい。

 轟焦凍くんは年下の、しかもヒーロー科の男の子だ。私とは接点という接点は特になくサポート科のアイテムなんて不要そうだし話しかけたこともない。敢えて言えば食堂でたまに一緒になる程度。会話なんてしたことないしゲームしながらだから碌に顔も見たこともなかったけど気がついたら喋ってたし気がついたら名前も名乗ってていつの間にか名前で呼ばれるようになってたり、…いつの間にかこうやってたまに私の部屋に遊びに来るようになってしまった。
 来たものは仕方ないかと一旦魔力消化だけしておいてスマホをテーブルの上に置くと突然やって来たお客さんにお茶を用意する。私は行ったことないけど轟くんの部屋も私と同様和式風にチェンジしているらしい。家がそうだと落ち着くよねえ、分かる分かる。

「いつかバレたら怒られんの両方なんだからね」
「悪い」
「いや先に謝られたって困るし。こっちも1年上だから分かってほしいんだけど大学入試とかもあるからね?そういうのに響くと何かと厄介なわけ」
「バレねえようにする」
「…そういう問題じゃないんだけどなあ」

 まあ良いかと許したくなるのは多分、私も彼と会うこと自体を楽しんでいるからだ。それは認める。カリキュラムが全然違うし会うことはそうない。なら連絡先を交換して電話なりと考えたことはあるんだけど本人はそれじゃ駄目だと言うのだからどうしようもない。優等生くんの考えることはいまいち分からんなあ。

 お客さんが来た時用の良い煎茶を用意して横並び。これが私達のスタイルだ。今日は授業でどうだったとか、そういう話で大体1時間。私としてはヒーロー科の授業はとても気になるところもあるし有意義だったんだけどサポート科の授業の話をしたところで彼が本当に興味があるのかは疑わしい。用語ばっかりにならないよう言葉を言い回したりするもののやっぱりところどころで難しい言葉が出ると意味を聞かれたりするのは聞いてくれているんだなと思うと嬉しいんだけど。

「で、この前作った奴はどうだったんだ」
「あーアレね。大失敗。ちょっと飛んだんだけど思ってたより頑丈さに欠けているし体重制限設けないと駄目かもなあ。素材探しからやり直しかも」

 年頃の女性の部屋でするには色気がなさすぎる?放っておいて。私だって最初はもしかして…なんて思ったこともあったけどこの人はそういう感じもなさそうだなというのは何回目かの訪問で気がついたさ。
 どちらかがふわあと欠伸一つ。それが轟くんの帰る時間だ。今日は私が眠かった。試験明けだしやっぱ設計図作るのって目が疲れるし。ごちそうさまといつも通り立ち上がった轟くんを見送る為に窓際へ。1つ1つの寮も離れてるし多分どこかで見張りのカメラとかもあるんだろうけどそれを上手く潜り抜けるのってすごいよほんと。

「またね轟くん。いつでも一息つきにおいで」

 何というか、まあ慣れだ。懐いてくれているのは分かってるし、多分この家の様子だとか、お茶だとか、あとはまあ私も完全に下位互換とは言え似たような個性だし?向こうとしても何か親近感を持っているんだろうなっていう自覚はある。親戚関係じゃないのに不思議だよねえ、この感覚。思わずポンポンと轟くんの頭を撫でると驚いたように目を見開く彼がとても新鮮だ。

「っ、!」

 腕をグッと引っ張られたのはその時だ。
 予想もしていなかったことに足が絡まり意図せず轟くんの腕の中に飛び込むとそのまま力強く抱きしめられてしまった。ぐえっと瞑れた声が出たのは許してほしい。息なんてほんと出来なかったんだから。

「…とど、ろきくん?」
「俺が此処に来てるのは名前に会いてえからだ」
「?うん、ずっとそうやって聞いてるけど」
「…伝わってるならそれでいい」

 ポンポンと今度は私の頭が撫でられる番。どうしていいのか分からず頭を押さえ、轟くんが軽やかに去っていくのを見届けた。暗闇の中どう動いたのかは分からないけど彼の部屋らしいところに1度電気がついたところまで確認すると静かに窓とカーテンを閉め、そのままずるずると床にへたり込んでしまった。

 ダメだダメだ何を考えているんだ私は。

 深く考えちゃ駄目だ。顔が赤くなっているのを自覚しつつも思考を切り替える為に震える指でスマホのサイドボタンを押し、ゲームを起動する。
 やがて壮大な音楽が流れてくるけどちっとも頭に入ってこなかったのは言うまでもない。今度彼がやってくる時、私はどういう顔をして出迎えれば良いのだろう。
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