公共の場で個性使用は駄目って確かに言われてた。ずっとずっと言われてた。私も小学校の時はそれを先生のあとに復唱したし覚えているよ、もちろんね。だけど無自覚発動の場合はそれはそれでどうしようもないよねっていうのが私の中での言い訳である。特例中の特例、超イレギュラーな私の個性は先生であっても思わずふふと笑わせて終わるぐらいで注意されたことがないっていうのが自慢というか何というか。

「また出てんぞ。今日は疲れてんのか」
「まあこれ制御できないから大目に見てよ。それと今日は試験明けで寝不足です」

 私の個性は自分の感情がスタンプのように頭上にポンっと出てしまうこと。すごいよね、笑うよね。それ以外何もできるわけないよね。お陰様で怒ってる時はすぐにバレるし笑えば太陽みたいなのが出てくるし今日みたいにちょっと疲れたなって時は雲のマークが出ている。もちろんこれは誰からも見えるというわけではなく私と話している人間という範囲に限られるんだけどこれの所為で人間関係やりにくいったらありゃしない。

 困ったのはやっぱり恋愛関係、かなあ。
 小学校の時は轟くん一筋だったから彼と話すときはもうダメだったね。途中から諦めたけど頭上に大きなハートが飛んでいるのを帽子を被っていたとしても隠し通すことは出来なかった。こりゃもう心を読める個性を持っていなくたってお分かりの通りでしょう。私は彼に恋をしていたのだ。言う前からバレてるんだしどうしようもない。でも敢えてそれを突っ込んでくることもない轟くんって本当にありがたい。私の事なんてどうでもいいと考えているんだろうけど。

 ともあれそんな私も高校に入ってからは個性を抑えることを学習した。やっぱり人間生活、いつまで経っても自分の個性を把握できずコントロールできないのは不味いからね。いずれ社会人になった時に嫌いな上司にムカつきマーク飛ばすわけにもいかないし。

「そういや轟くん久しぶり。中学の卒業以来だね」
「そうだな」
「ちょっと雰囲気変わった?」
「そうか?」
「ん、やっぱり変わった気がする。さすが雄英だねえ」

 私の高校は雄英から程近い私立高校。雄英は受けたけど私の個性ではヒーローを目指せることもなく、偏差値では普通科も掠ることもできなかった。たまにすれ違う雄英生の制服を見るたびに良いなあと思ったり、きっと轟くんはこの制服似合っているんだろうなあって思うこともあったりして。
 元々彼の髪色は目立つ。遠目から見てもしかして、と思ってたけどまさか本当に轟くんに会えるなんてね!嬉しくなったけど感情をコントロールして、頭上に浮かばないよう意識。表情豊かだねと言われる私にはかなりの苦行なんだけど息を止めて踏ん張れば何とかなる。そっと頭に手を伸ばして感情マークが浮かんでいないことに安堵すると轟くんはこてんと小首を傾げてこっちを見た。

「個性、ちょっと扱えるようになったのか」
「まあね!昂ぶった時は全然駄目だけど平常時ぐらいなら何とか、かな」

 当時の轟くんには大層迷惑をかけた自覚はある。お陰様で私は轟くんが好きな女子から牽制されるし、クラスの男子にはからかわれるし。ムカつくからムカムカマークを頭上から取ってぶん投げたこともあったっけ。あ、言い忘れてたけどこの感情マークは触れます。投げてぶつけることもできるよ。いざという時の武器になるね便利だね!ちなみに数分したら消えるけど。ぽぽぽと出てきそうなハートマークを何とか抑えることに成功しているのは長年の努力の結果。
 もうこれで好きな人と話をしたって悟られることはない。迷惑がられることもない。今も変わらず轟くんのことが好きだけど、やっぱりこういうのを見せつけられるの、困ると思うし。

「そうか」

 不意に呟いたかと思うと轟くんは突然私の頭にポンと手を置いた。何事か反応もできることもなくカチコチに固まる私の身体、思考。轟くんが近い。何かを確認するかのようにわしゃわしゃと撫で回されポカンと情けなく口が開く。

 …え、今何が起きてるの。
 どうして私、轟くんに頭を撫でられているの。

 まるで私のことを犬か何かでも思っているんじゃないかと言わんばかりの雑な撫で方に完全硬直した私のことなんて気にすることもなく一通り撫で終わるとふむ、と納得したかのように轟くんは頷いた。

「じゃああれはもう出ねえのか?」
「あ、アレ?っていうか今どうして轟くん、私のあたま…」
「あの赤い心臓みてえなやつ。結構見るの好きだったんだけどな」

 あ、駄目。もう感情コントロールできそうにない。
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