novel
11/2(土)
最近公園近くのマンションに引越してきた。
最寄りの駅は公園内にあり、自転車で駆け抜けると5分もしないで辿り着くことができる。
ーーこの公園は紅葉が綺麗なの。
そんな言葉がここに越してきたきっかけであった気がするけど、誰が言っていたか覚えていない。
「ーー薄情な人だね」
公園はとても広く、マンションのベランダからその綺麗な紅葉を見ることができた。
「ずっと、一緒にいるつもりだったんだろうに」
手渡されたカップは暖かく、甘い香りが漂っていた。
「そうかな」
「そうだよ」
少し咎める声に目線を移す。
「でも、だから僕らは一緒にいるんだよね」
ゆるりと微笑む唇に目が奪われた。
目線を合わせるとそこには、咎める視線は無く、秘密を共有し満足そうなそれがあった。
「誰か分からない人の上に、僕がいるんだ」
良い大人な僕らには、まっさらな人間関係なんて無い。
紅葉について教えてくれたのはきっと昔の彼女だろうし、この綺麗な人の言葉の中にはかつての恋人達の影がある。
今、一緒にいるのは僕らだけど、移りゆく紅葉のように終わりがあるかもしれない。
「ーー薄情な人だね」
胸の内が零れていたのだろう。
ふわりと微笑みながら頬を撫であげる彼の手が、ほんの少しだけ冷たかった。
「ーーでも、そんなキミが好きだよ」
一緒にいるのは決して永遠じゃない、永遠を一緒にいたいから。