身分違いの恋

李玖:りく
隆司:たかし

***

「りーく」
最初の一言目でこちらを向く李玖は、こっちおいでと手招きをすると素直に来る可愛い俺の恋人だ。
「李玖、また背が伸びたんじゃないか?着る服あるか?プレゼントするぞ」
「ん、いらない」
俺が室内用にと渡した服をきちんと着て、定位置である俺の隣に座る李玖。もっと新たに服を買えばいいのにとか、美味いもんでもご馳走するぞとか、散々いままで言ってはいるものの、李玖はそんな事ではちっとも振り向いてくれない。李玖に言わせればそれは「贅沢」になるらしく、服は背が伸びるのを見越して少し大きめのサイズを買うし、美味くなくても普通が一番だと笑う李玖。そんな李玖も好きだけれど、それでもやっぱり俺の側に居るときぐらいは、李玖の言う「贅沢」をさせてやりたくて、李玖が俺の家に来たとき用の服を買い、李玖が泊まるとき用のベッドを、部屋を用意した。もちろん李玖がそんな事を知れば、その可愛らしい顔でぷりぷりと怒るに違いないので、それらは悟られないようにしている。俺としては怒っている李玖も大好きなんだけれども。

ただ、今日は李玖と室内でじゃれ合いたい訳じゃない。いや、じゃれ合うのは楽しいから好きだけれど、今日は外に出かける計画を立てていた。何て言ったって今日は李玖の1年で一番特別な日。李玖の誕生日だからだ。
「隆司、どこ行くの?」
隣に座る李玖の服を脱がしていると、案の定李玖に訊かれる。いつも李玖は着替えは自分ですると言い張って、俺には手伝わせてくれないけど、今日ばかりは全部俺がやる。……やらせてもらっている。
「ひ、み、つ」
いつになく気合いが入っている。全身が強ばるくらいに力が入ってしまって、上手く抜くことが出来ない。らしくないことをしようとしているから、たぶん緊張しているのかもしれない。

「いつもと違う……」
今日のために買った黒塗りのポルシェに、李玖は首を傾げた。いつもは白のベンツかシルバーのBMWしか見ないため、目の前の車はもちろんはじめましてだ。俺はべつにポルシェなんて珍しくもないから感動なんてしないけど、李玖はこれってポルシェでしょ?と言うように、視線は車と俺の間を行ったり来たりしている。そんな可愛い李玖の腕を引いて、車に乗り込む。俺も李玖も未成年で車の免許も持っていないため、金持ちの常識、お抱え運転手が今日一日をガイドする。
「楽しみにしてろよ?俺が計画したんだ」
李玖はポルシェの名前に圧倒されながらも、座り心地のよさをとても気に入ったみたいだった。もちろん李玖のこの日のために買ったなんて言ったら、李玖は途中下車するかもしれないから口が裂けても言わないけど、李玖が気に入ってくれたのなら買った甲斐があった。静かに発進した車にこれからを委ねて、俺は可愛い李玖を見つめているとしよう。李玖はきゃっきゃ、わいわいしながらキョロキョロ落ち着きがなくて、いま見えるのは李玖の頭だけだけど。まあいい。それでこそ、俺の可愛い李玖だ。


――――――


隆司はどこに連れて行ってくれるんだろう?楽しみにしておけと言われてそれっきり。たぶん隆司が計画してくれたんだから、俺が今までに行ったことも無いような、素敵なところだとは思うんだけど。
「隆司、もうすぐ車に乗って1時間経つけど?」
「そろそろな〜」
相変わらず何も教えてくれなくて、気になって仕方がない。隆司を見ればニコニコして俺の髪を撫でてくれるし、まだこんな風に車の中でくっついて居たいかな、とも思わなくも無いけど。でもやっぱり気になる。

うわーすっごい!なんて単純な言葉しか口から出ない。もともとボキャブラリーに自信はない方だけれど、これはいわゆる「言葉にならない」というやつかも知れない。いやそうだ、きっと、絶対そうだ。


――――


李玖の顔を覗くと口を大きく開けていた。ポカン。そんなオノマトペが付きそうだ。たまに思い出したかの様に瞼をパタパタと上下させている。李玖ってば可愛すぎる。
「りーく、気に入った?」
そう聞けばコクリコクリと何度も首を縦に振る李玖。あんまりしてると頭がもげてしまうぞ。激しく振り続けていた李玖も次第に落ち着いてきて。勢いに酔ったのか、うっぷ、なんて声を出している。大丈夫か、李玖。……そんな李玖も可愛い。






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