あと数日で夏休みが終わろうとしているある快晴の日。
 獄寺は今やすっかりお気に入りとなったジェラートピケのルームウェアをベッドの上に脱ぎ捨て、チェストから下着を取り出した。
 今日は商店街に新しく出来たというカフェに京子達と行く予定となっている。
 自分のキャラではないと思っている為、恥ずかしくて表立って言った事はないが獄寺は甘い物が好きだったりする。
 女性とは敏い生き物だ。獄寺自身が言わずとも何度か一緒に食事をした際の反応からすぐにそれを察したらしく、友人達は度々カフェやスイーツショップに誘ってくる。
 一人ではそういう店に行く勇気は無く、だからと言って雲雀を誘うのも恥ずかしくて出来ない獄寺にはそれが嬉しく、そして有難く感じていた。

 今日行く予定のカフェは何でもフルーツをふんだんに使った色鮮やかなパフェが売りらしい。
 事前にカフェのサイトを覗いてみたが、どれもこれも美味しそうで獄寺は内心今日を楽しみにしていた。
 今日は何を食べようか。苺やラズベリーが沢山乗ったベリーパフェか、それとも旬のフルーツが使われた季節のパフェか。白玉や餡子が乗った抹茶パフェも良いかもしれない。
 昨日サイトで見たメニュー写真を思い浮かべながら鼻歌混じりにブラジャーのストラップに腕を通す。そして背中に手を回しホックを留めた所で獄寺は違和感に気付いた。

「あれ…?」

 ブラジャーのカップの上に胸が乗っている。
 以前は綺麗にカップに収まっていた筈なのに、今視線の先にある己の胸はブラジャーに窮屈に収められ、上の部分が盛り上がってしまっている。
 明らかにサイズが合っていない。

「…ブラジャーが縮んだ?」

 いや、そんな訳が無い。
 ニットと違い、ブラジャーは洗濯して縮むなんて事は無い筈。なら考えられる理由は一つ。

「…太った…?」

 自分で言ったにも関わらず、獄寺はその言葉にショックを受け固まった。
 確かに夏休みに入ってからは態々暑い外に出たいと思えず、獄寺は殆どの時間を家で過ごしていた。
 日本の夏はイタリアと比べかなり湿度が高く、息苦しい。その上イタリアの血が濃い獄寺は肌が白く、日差しに弱い。日焼け止めも塗らずに強い日差しの下過ごせば短時間で肌が真っ赤になりヒリヒリと痛み始めてしまう。
 その為極力家から出ないようにしていたのだが、雲雀もその事を理解しているので外へ誘うような事はせず、会う時は大半が獄寺の家だった。
 蒸し暑い夏に毎日家の中。
 そうなると態々ブラジャーを着けたいとは思えず、着ける必要も無いとカップ付きインナーを多用するようになりブラジャーの着用頻度は一気に減った。
 実際今着けたブラジャーも一体何日ぶりだろうというぐらい久し振りなのだが、その所為で体型が変わった事にも気付けなかったらしい。

「いやいやいや…気のせいだろ…」

 いくら引きこもって以前より動かなくなったからって、一か月くらいでそんな。

 ふるふると頭を横に振りつつ、今日着る服を取り出そうとチェストを再び開ける。
 きっと浮腫みか何かだろうと自分自身に言い聞かせながら無理矢理思考の片隅へと追いやり、スキニーデニムを取り出す。
 そして先程ルームウェアを放ったベッドに腰掛け、手に取ったスキニーデニムに足を通した。
 するりと通っていく足。太腿まで履いたところで立ち上がり、腰まで一気に引き上げる。いつもの流れ。だったのだが。

「…うそ、だろ…」

 信じたくない現実に呆然と獄寺が力無く呟いた。










「隼ちゃん、どうしたの?何も食べないなんて…」

 京子、花、ハル、クロームとやって来たカフェは可愛らしい小物が至る所に飾られた如何にも女性が好みそうな店だった。
 案内された窓際の席に座り、友人達が色鮮やかなパフェを目の前にしている中、獄寺だけが只一人据わった目をしてレモンスカッシュに刺さった赤いストローを咥える。
 ストローから吸い上げたレモンスカッシュは程好い酸味と甘みで、強めの炭酸も相まり本来ならば爽快感を与えてくれるだろうが今の獄寺には何の爽やかさも与えてくれない。
 それもその筈、獄寺が今口にしたいのはこの飲み物ではない。友人達の前にあるフルーツが盛り沢山に乗ったパフェだ。
 自分で注文したとはいえパフェへの未練が捨てきれない獄寺の口からは溜息が漏れた。

「どうしたんです?もしかして具合でも…!?」
「あんたあんなに楽しみにしてたじゃない」

 直接楽しみにしているといった言葉を口にした記憶はないが、約束した時の反応でどれだけ楽しみにしていたかばれてしまってたらしい。
 友人達は心配しているが、体調は断じて悪くない。精神的な気分の方は良くないが。けれどこのまま黙っていれば、友人をもっと心配させる事になってしまうだろう。
 本当は内容が内容なだけに恥ずかしくてあまり言いたくなかったが言わなくてはいけないだろうと獄寺は俯き加減で口を開いた。

「…太った、みたいで…」
「え?」

 決して大きくない声だったのだが、四人にはしっかりと届いたらしい。
 太ったという言葉に全員の視線が獄寺の顔や体に注がれた。

「…どこが?」
「隼人、細いまま…」
「…でも、ブラが合わなくなってて…パンツもきつくて…」

 そう、今日履いて行こうと出したスキニーパンツ。
 それに足を通し、腰まで上げたところで今までと違う違和感を感じたのだ。
 いつもと違う履き心地。太腿まではすんなりと通ったのに尻の所で余裕がなくなりぴたりと貼り付く生地。
 スキニータイプなのでぴったりしているのは当然なのだが、今までと感覚が違う。
 どこか窮屈さを感じ、「いや、まさか」と信じたくない思いのままファスナーを上げて、そこでその信じたくなかった現実を突きつけられた。
 前よりきつくなっている。確実に体型が変わった、と。
 ファスナーが上がらない、釦が留まらないという程ではないが、明らかに今まで感じた事の無い締め付け感にショックを受けた。
 そしてその時に決意したのだ。

「…俺、ダイエットする」
「はぁ!?」

 獄寺の宣言に花が立ち上がらんばかりに驚き、声を上げる。
 その声は店内に響き渡り、周りの客は何事かと視線を向けるが獄寺達にそれを気に掛ける余裕は無い。
 花だけでなく他の友人達も獄寺の発言にスプーンを持つ手も止まり、驚きで目を大きくさせている。

「あんた、それ以上細くなってどうするの!?骨にでもなるつもり!?」
「そうですよぉ!今より痩せたら倒れてしまいます〜!」
「隼人、充分痩せてる…これ以上痩せるのは良くないと思う…」

 全員が口々に否定し寧ろ太った方が良いと進言するが、獄寺はそれに対し首を振り、素直に聞き入れる素振りを見せない。
 獄寺は胸は平均よりかなり大きいが、体は細い。その体でよく男相手に戦えるなと周りにいる人間が常々思う程に。だから少しくらい太っても、というより太った方が良いのだが、獄寺は頑なにそれを拒んだ。

「なんでそんな痩せたがるのよ」

 獄寺が頑固で思い込みが激しいところがある事は皆が知っているので簡単には説得出来ないとは思っていたが、それでもこの頑なさ。
 そしてこの落ち込みように、何か痩せなくてはいけないと思う理由があるのではないだろうかと考える。
 そう思い至り訊ねた友人の言葉に対し、獄寺は俯いたままちらりと視線を向けた後、その視線を右へ左へと彷徨わせた。

「…雲雀が…」

 耳を澄ませていないと聞き取れないくらいの声量で獄寺が呟いた名は並盛にいるものならば知らない者はいない、今年高校を卒業していった元風紀委員長であり、獄寺の恋人である男の名前だった。
 正直その名前が出た事は予想の範囲内だった為、友人達にそこまでの驚きは無い。
 何故ならば獄寺にここまで影響を与えられるのは彼女が敬愛して止まない十代目こと沢田綱吉か、恋人である雲雀恭弥の二人しかいない事は周知の事実だからだ。
 今回は恋人の方だったかと内心思いつつ、ここで何か口にしてしまえば話すのを止めてしまいそうな様子に四人は黙って獄寺の言葉を待つ。
 四人が見守る中、獄寺は体を一層縮こまらせ、微かに震える声で言葉を続けた。

「太ったら嫌がる…」
「雲雀さんがそう言ったの?」
「いや、言ってない…」
「でしょうね」

 即座に言う。
 何故ならあり得る訳が無いのだ。あんな誰が見ても大切にしているとわかる程恋人に惚れ込んでいる男がそんな事を言うなど。

「でも、その…雲雀が好きになった時の体型から変わっちまったら愛想尽かすんじゃ…」
「絶っっっ対無い」

 自信を持って言う。なんなら命を懸けても良いと強く否定する友人にそれでも獄寺は自信無さげに眉尻を下げ、ハの字にした。
 好きになった時、というのは雲雀が獄寺に告白した時の事を言っているのだろうが、そこから少しでも体型が変わったからと言って愛想を尽かすような男ではない。
 周りはそれがわかっているというのに、何故一番近くにいる筈の彼女がそれをわからないのか。どれだけ自分が愛されているのかという事を。
 それは近いからこそかえって気付けないというのもあるのかもしれないが、それよりも彼女自身の自己評価の低さや愛されるという事に未だ慣れていない事が一因としてある気がした。

「雲の人、隼人の事とても好きだから嫌いになったりしない…」
「気になるんだったらそれとなく訊いてみたらどうかな?雲雀さんなら答えてくれると思うよ」

 優しく声をかける友人達にけれど獄寺は曖昧に頷くだけで、結局その日彼女がパフェを口にする事は無かった。









 どれだけ友人に言われようとパフェを食べる事無く気落ちしたまま過ごしたその翌日。
 自宅でボロネーゼパスタを食べ終わった後の食器を前に、獄寺は雲雀から向けられる胡乱な目に身を縮こまらせていた。

「隼人」
「…んだよ…」

 雲雀が何を言おうとしているかなんて聞かずともわかる。
 どうにか誤魔化すか、もしくは逃げれる方法はないだろうかと思考を巡らせつつ視線を彷徨わすが、目の前の男相手にそんなものが思いつく筈も無く。
 ちらりと視線を上げ窺った先、向けられる決して逃がしはしないといった黒い瞳に獄寺は背中が汗ばむのを感じた。

「朝食、何を食べたか言ってごらん」
「…なんでんな事…」
「朝食を食べ過ぎたからあまりお腹が空いてないと言っていたね。何を食べたのか教えてよ」

 手作りのボロネーゼパスタを皿に盛り付け、テーブルに並べた時点で引っ掛かっていたのだろう。
 それもそうだ、雲雀の方が遥かに食べるとはいえ獄寺が自分用に盛り付けたパスタは雲雀の物の半量とかいう物ではなかった。
 まだ小さな子供の方が食べるのではないかというような、小皿にちょこんと盛られた少量のパスタ。いくらお腹が空いていないと言っても怪訝に思うのは当然だろう。
 何も食べないよりは怪しまれないのではないだろうかと用意した少量のパスタがかえって怪しさを増長させてしまったらしい。
 けれど、それでも獄寺には以前と同じ量を食べるという選択肢は無かった。痩せなくてはいけないと決意した獄寺には。

「…トースト二枚」
「隼人」

 誤魔化そうと吐いた嘘はあっさりと見破られる。
 有無を言わさぬ響きに獄寺は逃げられないと膝の上に乗せた拳をきゅ、と握り、小さく呟いた。

「………珈琲を一杯…」
「………」
「い、いや腹が減ってねえのは本当だし!ほら、さっさと片付けて出掛けようぜ!」

 正直に答えた途端、額に手をやり大きな溜息を吐いた雲雀に獄寺が汚れた皿を手に取り慌てて立ち上がる。
 逃げられるとは思えずとも、悪足きしてしまうのは人の心理だ。
 二人分の食器を手に、キッチンへと文字通り逃げ込む。
 常日頃から自分の事を蔑ろにしがちな獄寺を気に掛けている男だ、黙って見逃してくれるとは思えないが僅かな可能性に懸けたい。
 けれどその可能性はいとも容易く、あっさりと崩れ去る事になるのだが。

「で、理由は?」

 キッチンのシンクに食器を置いたところで背後から腕が伸び、獄寺の体を囲うようにその手がシンクの縁を掴む。
 目の前にはシンク、両サイドには筋肉の付いた男の長い腕、背後には男の体。
 囲われる形となった今、もう獄寺に逃げ場は無い。

「な、なに、」
「正直に言わないと逃がしてあげないよ」

 正直に言ったって逃がしてなんかくれないくせに!

 耳に唇が触れるぐらいの距離で囁かれた言葉にきつく目を瞑る。
 分かり切ってはいたが、結局観念するしか道は無いのだ。

「……太った、から…」
「太った?」

 俯き、か細く呟くように発せられた獄寺の声に雲雀が首を傾げる。
 そして囲うようにシンクについていた両手を離し、何の前触れもなく獄寺の腰を掴んだ。

「どこが?」
「うぎゃあっ!?」

 突然掴まれた腰に、獄寺が体を跳ねさせ悲鳴を上げる。
 腰を掴む手を剥がそうと身を捩るが、見た目の割にがっちりとした力強い手は離れる事無く腰を掴んだままだ。
 細く華奢に見える外見とは裏腹に人間離れした身体能力を持つ雲雀にとって女である獄寺を抑え込む事はとても容易く。そのまま細さを確かめるように撫でながらまた首を傾げた。

「何も変わってないけど。気のせいじゃないの」
「気のせいじゃねえよ!太ったんだって!!」

 離せよ、と獄寺が暴れるが雲雀には離す気は無く、しっかりと掴んだままだ。
 その掴んだ腰は両手の指がくっつきそうな程細く、凡そ自分と同じ内臓がここに入っているとは思えないと雲雀は不思議に思う。

「体重が増えたって事?」
「…量ってねえからわかんねえ…」
「じゃあ何で太ったってわかるの。何度も触れてる僕が太ってないって言ってるんだから太ってないよ」
「っ…!太ったの!!」

 雲雀の言葉に直に腰を触れられた時の記憶が思い出され、獄寺の肌が赤く染まる。

 何も纏わない腰を逃がさないとばかりにそのかさついた大きな手で掴み、肌を密着させて、そして。

 その時の熱を思い出し、恥ずかしさのあまり水の膜が張った翠の瞳で男を振り返り、睨み付ける。
 けれどそんな情事を思い出し動揺している獄寺とは逆に、男はいつも通りの様子で只不思議そうに赤く染まった顔を見つめる。
 獄寺とは違い雲雀には情事に対しての羞恥という感情が一切無いというのがその様子の一因なのだが、それが更に獄寺の羞恥を煽り、何とも居心地の悪さを覚えさせた。

「だから何で君がそう思ってるのか教えてよ」

 本当にわからないといった様子の雲雀に、増していく一方の居た堪れなさから睨み付けていた瞳は再び下へと落ちて行ってしまう。

 目の前の男に嫌われたくなくて太った事に気付かれる前にダイエットをしようと決意したというのに。
 白状させられ、更にはどれだけ太ったかという事を言わせられるなんて、こんな最悪な展開。

 もう、泣いてしまいそうだ。

「………下着が、きつくなった…」
「下着?」
「スキニーも、前よりきつくなって…」
「ふうん」

 惨めだ。いなくなってしまいたい。
 怖くて顔も上げられない。嫌われて、別れる事になんてなってしまったら。
 逃げたくて、全てを遮断したくて、きつく目を瞑る。
 けれど暗闇の中、かえって目の前の気配や息遣いを敏感に拾ってしまう事になり冷え切った心臓が大きく音を鳴らしだす。
 無音が、辛い。

「見せてよ」
「…へ…?」

 獄寺にとってとてつもなく長く感じられた一瞬の静寂の後、頭上から落ちて来た言葉に驚き顔を上げる。
 見上げた先には笑みを浮かべる恋人の顔。
 その黒い瞳から覗く色に、獄寺は逃げられないとわかっていながらも後退りをした。
 裸足の踵が背後のキッチンのキャビネットに当たり、止まる。シンクの縁が腰に当たって反った。

「そのきつくなったって言う下着、見せてよ」

 何言ってんだよと笑って躱す事も、この変態と怒鳴る選択肢もあった筈なのに、その何れも出来なかった。
 笑みを深め近付く顔に、胸元の釦に触れる伸ばされた男の右手に、まるで魔法でもかけられたかのように体が固まり動かない。
 上の釦が一つ、外される。
 そのまま流れるように二つ目の釦へと手が掛かり、そこもゆっくりと、見せつけるように外されていく。
 そうすれば大きく開いたシャツの間から胸の谷間が覗いた。白いレースの下着と共に。

 いつもならばこんな暑い日に出掛けるなんて事はしないし、ブラジャーだって着けない。今やすっかりお世話になってしまっているカップ付きインナーを着ていた筈だ。
 けれど今日は違った。もうすぐ訪れる自分の誕生日のプレゼントを買いに行こうという話で、けれど少しでも人混みと暑さを避ける為家で昼食を食べてから出掛ける予定になっていたのだ。
 だから今日はいつもと違い、ブラジャーを着けた。サイズの合わなくなったブラジャーを。高校を卒業し、以前と比べ会う時間も少なくなってしまった恋人。その恋人と久し振りに出掛けるのだから、カップ付きインナーよりもちゃんとブラジャーを着けた方が良いかと思って。
 それがまさかこんな形で仇となるとは。

 気付けば留めていた六個全ての釦が外され、左右に開かれたシャツから白い肌が覗く。
 それを更に開こうと雲雀がシャツの前立てを掴んだところで獄寺がはっと我に返り、慌てて両腕で胸元を隠した。

「隠さないで」
「…っ…、」

 優しく、けれど有無を言わさぬ声音で囁く。
 胸を隠す両腕の手首を柔く掴み、退けさせる。その手首を掴む手には殆ど力が入っていない筈なのに、獄寺には抵抗が出来なかった。
 退けられた腕。弾みで開かれたシャツが肩から滑り落ち、絶対に見られたくないと思っていた胸が晒された。
 ハーフカップのブラジャーから溢れ、零れ落ちそうになっている白く柔らかな胸が。

「成程ね」

 雲雀の呟く声に反応出来る余裕は獄寺には無い。
 小さく震え俯く獄寺の細い手首を離し、雲雀は手を下へと移動させる。そしてそのまま獄寺の太腿へと触れた。
 柔らかな太腿を撫で上げ、感触を確かめるように尻を揉む。
 その手つきはどこかいやらしく、情事を彷彿とさせて獄寺は体を跳ねさせた。

「ひぁっ…!?」
「ああ、やっぱり」

 正面から抱き込まれ、包まれるようにして尻を揉まれる。
 密着する体から伝わる体温、顔を埋める肩口から香る雲雀の香り。
 それら全てで否応なしに熱が上がっていき、縋るように二の腕を掴んだ。
 けれどその掴んだ相手の腕は止まる事無く尻を撫で、柔く、緩やかに揉んでいく。その手つきに獄寺の口からは思わず熱い吐息が漏れた。
 獄寺の赤く染まった耳に雲雀の唇が寄せられる。

「きつくなったのってお腹周りじゃなくてお尻の辺りじゃないの」
「え、」
「太腿はそこまできつくなってなかったんじゃない?」

 違う?

 そう訊く雲雀に獄寺は思わず肩口から顔を離し、すぐ横の顔を見上げた。
 驚きの表情を見せる獄寺に、雲雀が確信を持った笑みを向ける。

 そう、その通りだ。
 太腿まではいつも通りすんなりとスキニーは入った。それが腰まで引き上げたところでお尻の辺りだけいつもより生地が引っ張られる感じがしたのだ。
 けれど何故それを触っただけで。

「わかるからね」

 そう笑い、頬に口付けを落とす。頬が、熱い。

「君の体型が変わった理由」

 太った訳では無いよ。安心しなと、額と額をくっ付け、雲雀が笑う。
 大きく開かれた翠玉に捕食者の顔が映り込む。

「僕が変えたんだよ」

 吐息を多分に含んだ低い声が鼓膜を震わす。
 下半身に触れていた雲雀の右手が持ち上げられ、中指で獄寺の白い鎖骨に触れる。そしてそのままゆっくりゆっくりと下っていく。
 酷く淫靡な手つきでなぞるように胸へと下り、胸が溢れ食い込むカップとの境目でカリ、と爪を立てた。

「んっ…!」
「どれだけ君の体に触れたと思う?愛したと思う?」

 耳へと注ぎ込まれる声は最早愛撫だ。漏れる吐息を止められない。
 肌を軽く引っ掻いた爪先がカップの縁に引っ掻けられる。内側へと爪先が入り込む。
 全身が熱を帯びていく。ぎりぎり隠れていた胸の頂が見えそうになる。

「僕の手で変えた、僕だけの体だ」

 欲の限り、愛の限り触れて来た愛おしい体。
 それに応えるように体が変わったのだと思えば雲雀の内に狂おしい程の歓喜が込み上げ、濁流のように暴れだす。
 これだけ愛されたのだと、もっと愛してほしいと示すかのように女の体へと変わった彼女が。

「全部、見せてよ」

 卑猥で、淫らで、いやらしい、僕だけの体を。
 幸い時間はあるしね。

 そう笑った肉食獣が唇へと口付けたのと、ブラジャーがずり下ろされたのはほぼ同時だった。
 水音が聞こえる程激しく舌を絡ませながら、露わになった胸を揉む。
 口内を犯されたまま冷たいキッチンへと押し倒され、大きな手で溢れる胸を揉みしだかれ。反対の手ではスキニーの釦を外し、膝の辺りまでずり下ろす。
 それを手で脱がすのも面倒だと言わんばかりに雲雀が右足で踏んで下まで一気に下ろした瞬間、獄寺は熱で犯されていく思考の中今日は一歩も家から出られず終わるだろう事を悟った。

 結局獄寺への誕生日プレゼントがサイズの変わった下着やパンツとなった訳だが、固く決意した筈のダイエットがその日を境に終わった事は言うまでもない。

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