押し倒された執務机の上、手の中程までしかない黒い革手袋の指先を噛んで外す雲雀を見上げながら獄寺は床に散らばった書類へと思考を向ける。
 そんな獄寺の翡翠を覗き込み、雲雀は口角を持ち上げた。

「僕が目の前にいるっていうのに何を考えてるの」
「お前に落とされた書類の事」
「僕よりも書類だなんて、妬けるな」
「言ってろ」

 重要度と内容別に積み上げられていた書類が全て落とされたのだ。この後あれらをまた一から整理しなくてはいけないのかと気が重くなるのも当然だろう。

「お前、此処に来る度に床に落とすの止めろ」
「じゃあどこでヤれって言うの。床でしたら軍服が汚れるから嫌だって言ったの君じゃない」
「ヤる事前提で来るな!」
「君に言われたと通り咬み殺してきたっていうのにご褒美もくれないの?」

 酷い飼い主だ。
 そう言いつつも酷く楽しそうに雲雀は獄寺のハーフグローブに指先を潜り込ませ、カリと爪を立てる。
 己と同じその白い軍服には血痕は見当たらないというのに微かに男からは血の臭いが漂う。
 恐らく体に染み付いてしまっているのだろう。それだけ多くの人間を目の前の男は葬ってきたという事で、それを命じてきたのは他ならぬ自分だ。

「…お前、何で俺の言う事なんか聞いてるんだ」

 ずっと思い続けていた事を今更ながら訊く。
 お前は人の指示に従うようなそんな人間ではないだろう、と。

 そう問えば男はより一層笑みを深くし、顔を近付ける。
 闇色の瞳に自分の顔が映っているのが見えた。

「僕は君が言う夢物語の先が見たいだけさ。争いの無い平和な世の中にしたいって言うね」

 争いを無くす為に人を殺し続ける道を選んだ獄寺を咎める事も嗤う事もせず、男は只愛おしそうに底の見えない黒い瞳を細め笑う。
 肩口に埋められた顔。首に歯が立てられるのを感じながら、鼻を掠める血の臭いの中獄寺は目を閉じた。

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