「あいつ、弁当にタコさんウインナー入れると喜ぶんすよ」
お昼休み、目の前でお弁当を食べている獄寺くんがタコさんウインナーを箸で摘まみ上げながら言う。
彼の前にある誰から見ても美味しそうで色どりもバランスも良いお弁当は彼自身が朝起きて作った物だ。
あれだけ料理が苦手だった彼がここまで作れるようになるとは、昔の彼を知っている分、驚きだ。
そしてそのお弁当を恋人である、あの恐怖の風紀委員長にも作ってあげているという事実も。
「タコさんウインナー…」
「意外と子供っぽいとこありますよねー」
そう言って彼は綺麗に足が開き焼き目が付いたタコさんウインナーを口の中に放り込んだ。
その姿を見ながら思う。
「…多分雲雀さんはタコさんウインナーに喜んでる訳じゃないと思うよ」
「…?」
「俺もそう思うなー」
口をもぐもぐ動かしながら訝し気な顔をする獄寺に沢田と山本は笑いながら顔を見合わせた。
「こんな時季に風邪ひくなんて普段の不摂生が祟ったんじゃない?」
「…うるせー」
決して高熱な訳では無いが、体調を崩し寝室で布団に包まる獄寺の元に雲雀が嫌みとも小言とも取れる言葉を口にしながら近付く。
その手には白い皿があり、上には切られた林檎が並んでいた。
どうやら病人には林檎という考えの元持ってきたようだが、その林檎を見て獄寺は目を丸くする。
「…これ…お前が切ったのか…?」
「僕以外に誰がいるっていうの」
それはそうだ。この家には獄寺と雲雀しかいないのだから。
けれどそうとわかっていながら思わず訊いてしまう位に、その皿の上に載っている果物は獄寺に驚きを与えた。
その兎の形に切られた林檎に。
「兎…」
「何、鳥とかハートの方が良かった?」
林檎の切り方に兎以外があったのか。というかハートとか止めてくれ。雲雀にハート形の林檎なんて出された日には恐ろしさで熱が更に上がってしまいそうだ。
「兎で良い…」
「そう」
手を伸ばし、兎林檎を一つ摘まむ。
そしてしゃくりと歯を立てれば口の中に甘酸っぱさが広がった。
林檎は酸味が強く、普段ならば決して美味しいとは思わなかっただろう。
けれどあの雲雀が自分の為に兎形に切ったそれは、何故だかとても美味しく感じられて。
それと同時に気付いてしまった。沢田達が言っていた意味に。
『多分雲雀さんはタコさんウインナーに喜んでる訳じゃないと思うよ』
そうか。こういう事だったのか。
なら、俺もこいつと同じだ。
「…ヒバリ、ペンギンと蟹、どっちが良い?」
「何それ」
「弁当に入れるウインナー。いつもタコばっかじゃ飽きるだろ?」
にやりと笑って見せれば雲雀は一瞬驚いた表情をして、そして嬉しそうに笑みを浮かべる。
きっと次作る弁当には色んな動物のウインナーが並ぶ事になるのだろう。
女子でもそんな可愛い弁当持ってきてないだろと思うけれど、それを雲雀が喜びながら食べるのかと思うと何だか面白かった。