翌日、学校に獄寺と雲雀の姿は無かった。
 昨日の今日でどうしても気になり獄寺の携帯を鳴らしてみるが電源が切られているようで無機質なアナウンスが流れるだけで。
 獄寺が言いかけた言葉も、レオンの切れた尻尾の事も気になったまま街には再び夜が訪れた。

「あの二人のどちらかが始祖の可能性がたけーな」

 山本と深夜の巡回をする中、沢田の脳裏にはリボーンの言葉が延々と繰り返され知らずに握る拳に力が入った。
 昨夜、あの場所には沢田達とそして雲雀と獄寺しかいなかった。
 そこでレオンの尻尾が切れた。
 その状況だけを見れば確かに雲雀か獄寺のどちらかが始祖だと考えるのが普通だろう。
 けれどそれを沢田も山本も否定した。信じたくなかった。友人が人間を殺しまわっている吸血鬼だなんて考えたくも無かった。
 レオンはあくまで近くにいる人外を察知しているだけだ。
 もしかしたらあの時気付いてなかっただけで近くに吸血鬼が潜んでいたのかもしれない。
 だからあの二人のどちらかだと決めつけないでくれとリボーンに訴えたが、山本も沢田も脳裏には闇夜に笑う雲雀の姿がちらついて離れなかった。
 友人であるにも関わらず恐怖を感じてしまった、あの笑みを。

 沢田達の訴えをリボーンは完全に受け入れたわけでは無かったが、確かにその線も捨てきれねえといつも通り吸血鬼捜しに夜の街へ出ていった。
 とは言っても雲雀達の家の場所を訊いてきたので、恐らく家の近くまで行ってレオンの尻尾が切れるか確認しに行ったのだろう。
 はっきりと住んでいる場所は知らないので大体の方角しか教えられなかったが。
 今頃リボーンはレオン片手に住宅街を飛び回っているのだろう。どうかレオンに何の反応も無ければ良いと願いながら歩く二人の空気は酷く重たかった。

「…大丈夫だって!あの二人が吸血鬼なわけがねえよ」
「うん…そうだよね」

 殊更明るく言う山本に沢田も何とか作った笑顔で返す。

 友達なのに、信じきれない自分が嫌だった。

 謎が多い二人だから尚更信じ切る事が出来ないのかもしれない。
 そう考えると友達のくせにあまりにあの二人の事を知らな過ぎて、そんな自分がまた情けなく、嫌になった。

「…ツナ」
「ん?」

 今の今まで明るく振舞っていた山本が突然がらりと纏う空気を変える。

「今、何か聞こえなかったか?」
「え?」

 考え事をしていたせいで沢田は気付かなかったが、山本には確かに聞こえたらしい。
 歩みを止め、真剣な表情で進行方向とは違う脇道を見つめる。
 そこは他の道と同じく所々にある頼りない光の街灯しかない暗い道で、奥の方は良く見えない。
 その道へ山本は突然走り出した。

「あっ、山本!」

 走り出した山本の後を慌てて追う。
 深夜の住宅街はあまりに静かだ。沢田達の走る足音が大きく響く。
 一つ二つと等間隔に設置された街灯の下を走り、いくつめの街灯だっただろうか。それはそこにいた。

「…っ…!」

 切れかかり、ぱちぱちと不規則に点滅する街灯の下。
 その下にいる存在を認識して沢田達は足を止めた。
 街灯の下には恐らく対人外武器であろう銃を片手に倒れる人であったもの…ミイラ化した死体と、そしてその脇に立つ黒い後姿。
 その後姿を沢田達はよく知っていた。
 昼の学校で、バイト終わりの夜道で、銀色の彼の隣を歩く姿を何度も見た。
 けれどすぐには理解できなかった。信じたくないという思いが目の前の光景を認めさせなかった。

 どうか違っていてくれ。こちらを振り向かないでくれ。

 心臓が激しく鳴る中願った思いはけれど呆気なく砕かれた。


「やあ。沢田綱吉、山本武」


 ゆっくりと振り返り、名前を口にした黒い男はやはり思い浮かべていた友人、雲雀恭弥だった。

「雲雀、さん…」
「今日も人外狩りかい?精が出るね」

 彼がこんなにも穏やかに話しかけてきた事があっただろうか。獄寺以外には話しかける事さえしようとしない男が。
 血で赤く染まる口元に笑みを浮かべ、こちらを見る。
 その姿に、背中に冷たい汗が伝う。足が縫い付けられたかのように動かなかった。

 一見その様子は友好的に見えるが身に纏い向けてくるものは明らかに殺気のそれだった。

「くっ…!」

 ただ立ち尽くす沢田の隣で山本が額に汗を浮かびながら背中に背負っていた刀を構える。
 それを見て雲雀が面白そうに笑みを深くした。

「戦う気かい?山本武」

 僕に勝てるとでも?

「ひっ…!」

 気温が数度下がった気がした。
 ぶわりと殺気が広がる。思わず仰け反るほどの。
 殺気に山本の額に浮かんでいた汗が伝い、顎から滴り落ちる。
 刀を握る手は震え、切っ先が揺れるがそれでも山本は構えを解かなかった。

 笑みを湛えた雲雀が一歩近づく。
 闇を震わす殺気。それを揺るがしたのは雲雀の背後から現れた銀色だった。
 雲雀の唯一の存在。

「恭弥…!お前また…!」
「獄寺くん!」

 雲雀を探しに来たのだろう、転がる死体とその傍らに立つ雲雀を見て声を上げる獄寺に雲雀はあっさりと沢田達に背を向け、獄寺へと近寄る。
 そして獄寺の腰を抱き寄せるなり、抱えたまま軽々と住宅のブロック塀の上へと跳躍した。

「なっ…!」

 男一人を腕に抱きながら何の助走も勢いも無しに自分の身長よりも高いブロック塀の上に飛び乗るなんて人間業じゃない。

 そんな、まさか、本当に雲雀さんが。

 そこに一発の銃声が響き渡り、ほぼ同時に雲雀が獄寺を抱えたまま後ろへ飛び避ける。
 銃声のした方向を向けばそこには硝煙漂う銃を構えたリボーンの姿。

「一足遅かったみてーだな」
「リボーン!」

 リボーンが二発目を撃とうと照準を再び雲雀に合わせる。
 それを見た雲雀はにやりと笑い、「またね」と言うなり走り去っていった。沢田の名を叫ぶ獄寺を腕に抱えたまま。

「獄寺くん…!」

 ブロック塀から民家の屋根へ飛び移り、人ひとり抱えてるとは思えない速さで去って行く雲雀に到底追いつけるわけも無く、突きつけられた現実も相まって沢田達の足は動く事さえ出来なかった。

「獄寺くん…雲雀さん…」
「これであいつが始祖確定だな」

 リボーンがハットから手の上へレオンを乗せる。
 レオンの尻尾はやはり、昨夜と同じように尻尾は切れていた。
 雲雀さんがいる時に切れる尻尾、ミイラ化死体の傍に立っていた姿、人ひとりを抱えて軽々とブロック塀や屋根へと飛んでいく身体能力。
 それら全てが指し示していた。

 雲雀が、始祖であると。

「獄寺は雲雀と一緒に暮らしてるって言ってたな」
「え、う、うん」
「なるほどな。じゃあ獄寺は雲雀の餌なのかもしれねーな」
「餌…?」

 訊き慣れない言葉に聞き返せばリボーンは銃を懐にしまい、ハットを目深に被り直した。
 そのハットの上へレオンが移動していく。

「吸血鬼は気に入った血の人間をいつでも食べれる餌として殺さずに囲って手元に置いておく事も少なくねえ。いつも一緒にいるってならそうかもしれねーぞ」
「じゃあ獄寺は雲雀に捕まってるって事か?」
「可能性はあるぞ」

 本当に、そうなのだろうか。

「…俺は、そうじゃないと思う」
「ツナ?」
「だって、獄寺くんが雲雀さんを見る目は、」

 憎しみとか、怒りとか、悲しみとか、そんな負の感情は無かった。
 雲雀さんばかりが獄寺くんに執着していて、獄寺くんは雲雀さんを諫める事が多かったけど。
 雲雀さんを見つめる獄寺くんの瞳には確かに愛おしむような色がそこにはあったから。










 人外を恐れる人間たちは夜が更けると極力外を出歩かなくなる。
 特に連日ニュースを騒がせている吸血鬼の存在で怯え切っているこの街の住人は。
 深夜一時を回る頃、人の姿が全く見えなくなった道を一人の人物が悠然と歩く。
 恐れるものは何も無いと言わんばかりに少しの張りつめた空気も無く、その黒い髪の男は大通りをゆっくりと歩き、脇道へと入っていく。
 一本脇道へと入ってしまえば周りは一層静まり返り、暗さも一気に増す。
 普通の人間ならば用があろうとも通りたがらないだろうその道を男は歩く。寧ろそういう道を求めていたと言わんばかりに。
 歩調を変える事無く歩き続けるとやがて小さなコインパーキングが道沿いに現れた。
 小さいながらも煌々と明かりを点す看板が備え付けられたその周囲は薄暗くはあるが他の場所と比べるとかなり明るく感じられる。
 そこまで来て、男はようやく足を止めた。
 そして弧を描く口元が開く。

「早く出ておいでよ」

 それとも僕から行くのを待っているのかい?

 そう言い、どこからともなくトンファーを取り出して後ろを振り向く。
 攻撃態勢に入っているわけでもなく、只両手にトンファーを握っているだけだがその放たれる殺気に促されるよう暗い脇道から三人が姿を現した。

「随分長い事ついてきてたね。さっさと襲ってくれば良かったのに」
「やっぱり気付いてやがったか」

 リボーンが手にした銃でくい、とハットのブリムを押し上げる。
 その前には沢田と山本が立ち、目の前の吸血鬼、雲雀に向けて武器を構えた。

「昨日は逃げられたが今日はそうはいかねーぞ」
「見逃してあげたんだけどね。まあ今日は僕も決着をつけたいと思っていたから」

 ゆるりと雲雀もトンファーを構える。
 それを見て三人の顔つきが一層緊迫したものへと変わったが、雲雀はすぐに気付いた。
 山本と沢田、特に沢田の目には迷いの色が濃くある事を。

 これは好都合だ。

 一番邪魔だと思っていた沢田は戦力外。赤ん坊はどういう訳かしらないが沢田と山本に僕を倒させたいようだし、なら山本を上手くけしかければ。
 全ては上手くいっている。笑いだしそうになるのを止められない。

 雲雀は笑みを浮かべたまま山本目掛けて地面を蹴った。

「くっ…!」

 雲雀が振り下ろしたトンファーを山本が刀で受け止める。
 金属同士がぶつかり合う音が響き、火花が散った。
 雲雀の攻撃はその細身から考えられない程重く、たった一撃受け止めただけで両手がびりびりと痺れる。
 そんな攻撃を間髪入れず連続で繰り出す雲雀に、山本は歯を食いしばって必死に受け止める事しか出来なかった。
 踏み止まる事も出来ず衝撃が来る度にずりずりと靴底がアスファルトを擦りながら後退していく。

「そんな防戦一方で勝つつもりでいるの?」
「っ、くっそ…!」

 まだ痺れが残る両手で刀を強く握り、トンファーを弾く。
 そのまま流れるような動きで切り上げるが、雲雀は飛び退き易々とかわしてしまう。

「何、友達だから殺せないとかそんな事考えてるの?だったら安心して良いよ。僕は君たちの事を友達なんて思った事無いから」
「っ、」
「ツナ、突っ立ってないで戦え!山本一人で勝てるような相手じゃねーんだぞ!」
「わかってる!わかってるよ!でも…!」

 煮え切らない沢田に未だ迷いの見える山本。
 よくこんな状況で戦いを挑んできたものだと雲雀は内心呆れた。
 けれどこの甘いとしか言いようが無い、世間一般で言う「優しさ」という部分を獄寺は好いていたのだろう。自分には理解できないが。

 しかしこのままでは埒が明かない。それなら。

「…戦う気が無いなら、死んでも良いって事だよね?」

 今まで山本に向けていた視線を殺気と共に沢田へと向ける。
 そして地面を蹴ってそちらへ駆ければ山本から沢田の名前を呼ぶ焦り声と共に刀を振りかぶる気配を感じた。

 これだ。これを待っていた。
 致命傷となり得る攻撃を。

 その瞬間、沢田と山本は見た。
 山本の刀が振り下ろされた瞬間。確かに彼が笑ったのを。

「!!」
「雲雀さん!!」

 彼ならば避けるなんて容易い事だっただろう。けれど彼は避けなかった。
 大きく振り下ろされた山本の刀は雲雀の肩から胸元までを大きく切り裂き、切り裂かれた皮膚からは血が飛び散る。
 薄暗い中でもわかるほどの大量の赤い血を。

「な、んで…!」

 雲雀が切られた衝撃のままブロック塀に背中をぶつけ、そのままずるずるとずり落ちていき横向けに倒れる。
 血は止まらない。地面を赤く染めていく。
 肺まで切られたのだろうか、喉からはひゅうひゅうと音を立て苦しそうに眉を顰めているのにその顔は笑っていた。

 態とだ。彼は態と致命傷になる傷を負ったんだ。

 それはその場にいた全員がすぐに理解した。けれど何故そんな事をしたかはわからない。
 ただ友人を傷つけ、その友人が目の前で大量の血を流し死にかけているという事実が沢田と山本に圧し掛かり動けなくさせていた。
 そんな中、リボーンだけが違っていた。眼前の光景に表には出さずに激しく動揺する。

 何故雲雀は山本の刀で死にかけている?

 山本は退魔の力を持っていない。だから始祖を切ったところでその傷は一瞬で塞がる筈だ。
 なのに、目の前の雲雀の傷は塞がる気配を見せず血を流し続け、それどころか死にかけている。

 どういうことだ?
 昨夜見た人間とは思えない身体能力、足元に転がっていたミイラ化死体と明らかにその血を吸ったであろう赤く染まる口元。
 そして何より近くにいた時に切れたレオンの尻尾。
 全てが雲雀が始祖だと示していた筈だ。
 ならば何故。

 リボーンは慌ててハットに乗っているレオンを手に乗せた。
 レオンがリボーンを見る。その姿は強い人外がいる時に見せる反応、体を震わせていたがその尻尾は、切れていなかった。

 雲雀は、始祖じゃない…!?

 なら、何故雲雀と遭遇した二回ともレオンの尻尾は切れた?
 あの場に他に始祖がいたって事か?
 あの夜いた人物で、そして今いない人物。

「…!」

 そこまで考えた時、目の前でレオンの尻尾が突然切れた。
 そして、雲雀の呼吸音しかなかった空間に震えた声が響く。

 あの夜いて、そして今までいなかった人物の声が。

「恭弥…」
「は、やと…」

 暗闇の路地から銀色が現れた。悲愴な表情の獄寺が。
 血溜まりの中横たわる雲雀を見て今にも泣きだしそうに顔を歪める。
 それを見て雲雀は本当に心から愛しそうに笑った。
 沢田も山本も、かける言葉が見つからない。頼りない足取りで雲雀の元へ歩く獄寺を只見つめる事しか出来なかった。

「恭弥…お前、ここまでして…」
「僕のねがいは、知っているでしょ…?」

 げほ、と雲雀が咳込む。口から血が吐き出される。
 今にも閉じそうな目で獄寺を見つめながら笑みを深くした。

「はやとが、きめて…僕をころすか、生かすか…でも、ぼくは、きみと生きたい」
「…っ」

 二人の会話の意味は理解出来ないし、獄寺の中で今どんな思いが渦巻いているかはわからない。
 けれどその表情は見ている方が胸が苦しくなるもので、目の奥が痛くなった。

「ほんと、馬鹿だな、お前…」

 雲雀のすぐ傍まで来た獄寺がそう言うなり自分の唇を強く噛む。血が滲み、唇が赤く染まる。
 そして雲雀の血で赤く染まったアスファルトに膝をつき、徐々に浅くなり始めた呼吸を繰り返す口元にゆっくりと顔を近付けた。
 まるで神聖な儀式のような光景。
 それを邪魔する事なんて出来なかった。

 一人を除いては。

「ツナ!獄寺を止めろっ!」

 リボーンの声が静寂に響き渡る。
 その突然の声に驚き、沢田達が振り向けば汗を滲ませたリボーンがこちらを見ていた。
 初めて見る切羽詰まった様子に言葉の意味を理解できず、戸惑う。
 そんな中続けられたリボーンの言葉はあまりにも強い衝撃をもたらした。


「始祖だ!雲雀じゃねえ!獄寺が始祖だ!!」


 何故気付かなかった。
 レオンの尻尾が切れた時、そこにいたのは雲雀だけじゃなかった。獄寺も必ずいた事に。
 始祖の特徴とも云える見目が良いのは雲雀だけじゃなく獄寺もだったというのに。
 あまりに敵意を向けてくる雲雀に、奴こそが始祖だと思い込んでしまっていた。
 雲雀が吸血鬼なのは確かだろう。けれど奴は始祖では無かった。奴はなりそこないだ。だから山本の攻撃が効いた。
 なりそこないは対人外武器でも殺せる。
 だが、なりそこないが始祖の血を飲んでしまえば、そのなりそこないは。

「くそっ…!」

 リボーンが雲雀に向け発砲する。
 退魔の力を持たないリボーンの攻撃は始祖である獄寺には効かない。
 ならば雲雀を攻撃するしかない。雲雀に止めを刺すしか。

 今一番避けなければいけないのは雲雀が獄寺の血を飲む事だ。

 けれど、リボーンの銃弾が届く前に雲雀と獄寺の唇は重なっていた。
 雲雀の舌が獄寺の赤い唇を舐め、喉が上下する。

 瞬間、膨大な魔力が二人を中心に渦巻いた。

 尋常ではない魔力が銃弾を消し去り、周囲の闇を深める。
 息が苦しい。寒くて堪らないのに汗が噴き出し手足に力が入らない。
 体が本能で身の危険を感じているのがわかる。

 人外の頂点である始祖が今この場に一人、誕生したのだ。



「ようやく願いが叶った」


 何事も無かったように雲雀が身を起こし、獄寺を抱きしめながらうっとりと囁く。
 その体にはもう山本に切られた傷は跡形も無くなっていた。

「これでずっと一緒にいられる」

 永遠に。

 幸せそうに、愛おしそうに、雲雀が獄寺の額に口付ける。
 獄寺は沢田達に背を向ける形となっていたのでその顔は見る事が出来ない。
 只、何も言わず動く事もせず、雲雀に抱きしめられている。
 そんな二人を見てリボーンは苦々し気に舌打ちをした。

「…成程な。それが狙いだったのか」
「え、どういう、」
「人間を食らう事も退治屋を殺す事も目的じゃなかった。奴の本当の目的は始祖の血を飲んで不老不死になる事だったんだ。その為に俺達を誘い出した」
「正確には隼人と同じ存在になって永遠に一緒にいる為、ね」

 獄寺を抱きしめたまま、雲雀が妖艶に笑う。

「種明かしをしようか」

 獄寺の銀色の髪を手で梳く。獄寺の体がぴくりと震えた。

「始祖は不老不死だけどなりそこないはそうじゃない。人間より寿命は長いがいずれは老いて死ぬ。それじゃあ始祖の隼人と永遠を生きれない。だから隼人の血が欲しかった。隼人の意思で。けれど隼人はそれを望まなかった」

 だから君達を利用した。
 吸血鬼である僕を倒そうと自らけしかけ、誘い出し、態と致命傷となる傷を負った。
 君たちと僕が一緒にいれば必ず隼人がやってくる事はわかっていたから。

「結果、隼人は僕を助ける為に血をくれた。望みは叶った」

 けれど実際の所、隼人が血をくれるかは賭けだった。
 今まで何度となく血が欲しいと望んだがその度に隼人は拒否した。僕を自分と同じ始祖という存在にする事を嫌がった。
 荒っぽい手段になってしまったが、それでもあの隼人が自らの意思で血を分け与えてくれたのだ。
 この先の永遠を共に生きる事を許してくれたのだ。
 それが嬉しくないわけがないだろう。



「…沢田さん、山本…」

 力ない、くぐもった声が名前を呼ぶ。
 雲雀に抱きしめられていた獄寺がゆっくりと振り返り、沢田達を見る。
 その顔は涙が出ていないのが不思議なくらい頼りなく儚げだった。

「…すいません…ずっと黙って、騙してて…」
「獄寺くん…」
「信じてもらえないかもしれませんが、俺は本当に楽しかったんです、人間として一緒に過ごせて…でも…」

 獄寺が悲しそうに笑う。見ている方が泣いてしまいそうになるくらいに。
 いっそ本当に泣いてしまえばきっと楽になるのに、彼は笑う。
 悲しそうに、辛そうに、けれど幸せそうに。

「俺は、恭弥を選んだ。恭弥と二人で永遠を生きる事を選んだ、だから、」

 お別れです。

 そう言い終わるや否や二人の足元の闇が動き、二人を覆っていく。
 目を閉じ、愛おしそうに、幸せそうに獄寺を抱きしめながら頭に唇を寄せる雲雀と、その腕の中すり寄るように身を寄せる獄寺を。

「獄寺くん!雲雀さん!」
「獄寺!」

 闇が全てを覆う。
 その後は何も残っていなかった。
 二人の姿も、地面の血の跡も。全てが幻だったかのように。
 友人達は、闇の中へ消えていった。










 男子生徒二人が突然消息を絶った事はすぐに学校中に知れ渡った。
 しかもそれがあの獄寺と雲雀というのもあり、様々な憶測が流れ暫くこの話題で持ちきりになっていたがひと月もすると人の興味も薄れ、その事を口にする人はいなくなっていた。
 時が経つにつれ薄れていく記憶。
 けれど沢田と山本の中では少しも薄れる事無く、はっきりとあの二人の事もあの出来事も全て胸に刻まれていた。

 信じていた友人は吸血鬼だった。
 その事実は言葉では言い表せない程の衝撃を与えたが、裏切られた、という気持ちは不思議と無かった。
 ただ、悲しいと思った。
 教えてくれなかった事も、いなくなってしまった事も。
 甘いと言われようと、やっぱり沢田と山本にとってあの二人は友達なのだ。
 それがたとえ、人を襲う吸血鬼であろうと。

 人外が現れたとの情報が来る度にあの二人なんじゃないかと淡い期待を抱きながら退治屋を続けていたが、やはり現れる事は無く。
 一年、また一年と経ち、沢田達は大学生となっていた。





「ツナ君、山本君」
「杏子ちゃん」

 講義を終え、山本と二人帰ろうとしていたところ後ろからかけられた声に笑みを浮かべ振り返る。
 そこには沢田が中学、高校とずっと想いを寄せている笹川京子が花のような笑顔で駆け寄る姿があった。

「杏子ちゃんも帰り?」
「ううん、私はまだ講義があるんだけど二人の姿が見えたから」

 ああ、やっぱり杏子ちゃんの笑顔は癒される。
 昨夜も人外退治で遅くまで駆けまわっていたがその疲れも吹き飛んでいくようだ。

 大学に入り一週間、山本とは学科が一緒なので会う事も多いが杏子とは学科が違う為会える機会はあまりない。
 なのでこうして会えて、しかも杏子の方から声をかけてもらえたという事が嬉しくて自然と顔が火照ってくる。

「そう言えばまだ入学してから一週間しか経ってないのにあの二人、もう噂になってるね。高校の頃思い出して懐かしくなっちゃった」
「え?」

 杏子がにこにこ笑いながら話してくる内容がよくわからず、山本の方を見るが山本も知らないようでお互い首を傾げる。
 一体誰の事を言っているのだろうか。
 噂になっている、と言っていたが少なくとも沢田達の耳にはそれらしい噂は全く届いていない。

「えっと、あの二人って?」
「あ…高校でツナ君達とよく一緒にいたからもう会ったんだと勝手に思っちゃってた…ごめんね」

 そこまで聞いて沢田と山本の脳裏にはあの友人達の姿が瞬時に浮かんだ。
 闇に溶けるように消えたあの銀色と黒の友人が。
 もしかして、まさか、と固まる二人に気付かず杏子が嬉しそうに話す。


「獄寺君と雲雀さん、この大学にいるんだよ。凄いかっこいいって女の子達の間で話題になってるの」





 帰ったら昼寝をして夜の巡回に備えようとか考えていたのはどこかへ消え去った。
 何事かと振り返る学生達の間を縫うように走り抜ける。
 さっき中庭で見たからまだいるんじゃないかな、という杏子の言葉で山本と二人、全力で走る。

 獄寺くんと雲雀さんが、戻って来てる。

 それを聞いた時の感情は自分でもよくわからないが、ともかく早く会わなくては、と思った。
 まだ入学して一週間、殆ど立ち寄った事の無い中庭へ走る。
 大学の中庭は木が何本も植えられており、結構広い。
 その中心、桜の木の下にその人はいた。
 時折舞い散る桜の中、立ったまま木に寄りかかり本を読む白い肌に銀色の髪の人物。

「ごく、でらくん」

 全力疾走で切れた息で名前を呼ぶ。
 すると彼はこちらを見て一瞬目を大きくさせた後、目を細め微笑んだ。

「…お久し振りです」

 戻ってきちゃいました、と笑う彼に、涙が零れそうになる。
 彼らが戻って来てると聞いた時は自分がどういう感情かわからなかったが、今ははっきりとわかる。
 ただただ嬉しくて仕様が無い。

 目の前で消えた友人が戻ってきた。
 もう二度と会う事はないかもしれないと思っていた友達が。

 それは山本も同じだったのだろう、少し潤んだ目で「戻ってくんのおせーのな」と笑う。

「…騙すような事をしていた俺達を許してもらえるとは思ってません。俺達は人外で、あなたは退治屋で。元のような関係には戻れないでしょう。…それでも、俺はもう一度この町で、あなたの傍で、人間として生活したかった」

 だから、戻って来てしまいました。

 記憶の中よりも成長した姿の彼が泣き出しそうに笑う。
 それを見て俺の涙腺はとうとう決壊してしまった。

「さ、沢田さん!?」
「お、俺はっ、騙されたなんて思ってないし、怒ってもない、よ。ただ、何も言ってもらえなかったことが、いきなりいなくなっちゃったことが、悲しかった。人外とか退治屋とか、そんなの関係ないよ。俺達は友達なんだから」

 この歳になって人前でこんな泣く事になるとは。
 若干恥ずかしさはあるが、止まらないのだから仕方ない。
 涙で詰まりながらも何とか目の前の友人にずっと思っていた事を伝える。
 そんな俺の言葉と様子に獄寺くんは驚き、翠の綺麗な瞳を大きくさせている。
 きっと獄寺くんはそんな言葉をかけられるとは思っていなかったんだろう。さっきの獄寺くんの様子はどこか覚悟を決めてるように見えたから。

「だからもう、何も言わずにいなくなるのはやめてね」
「…許して、下さるんですか」
「言ったでしょ、許すも何も友達なんだから。戻って来てくれて本当に嬉しいよ、獄寺くんも、雲雀さんも」

 その言葉に獄寺の瞳から涙が一筋、流れ落ちる。

 許されるなんて思ってなかった。
 怒りを向けられると思っていた。憎しみを向けられると思っていた。退魔の力を向けられることも覚悟していた。
 けれどそれらを一切向ける事無く、嬉しいと、友達だと言ってくれた。
 俺だけじゃなく、恭弥も友達だと。
 人間を殺し、食らった恭弥も友達だと。
 その言葉は何よりも嬉しかった。もしかすると自分が許されるよりも。

「二人して泣いて、おもしれーな」

 目をごしごしと拭いながら無く沢田と静かに涙を流す獄寺に山本が茶化すように笑う。
 けれどその山本の目も潤んでいるのは一目瞭然で。
 そんな山本に「うるせえよ、馬鹿」と口悪く言う姿は高校の時の光景を思い出させて沢田はまた涙を溢れさせた。





「で、雲雀はどこにいんだ?一緒に戻ってきたんだろ?」
「ああ、あいつ教師に呼び出されて。もうそろそろ来ると思う」

 ようやく沢田の涙が止まって落ち着いてきたのを見計らって言った山本の言葉に、獄寺が着けている腕時計を確認する。
 その何気ない仕草ですらとても綺麗で、沢田は泣きすぎて熱くなってしまった瞳で思わず見とれてしまう。

 出会った時から獄寺は綺麗だった。けれどそれが大人っぽくなって更に綺麗になったように思う。
 始祖は不老不死だから老いていく事はないけど、見た目を自由に変える事ができると聞いた事がある。
 だから今のこの姿も俺達の年齢に合わせて変えたんだろう。

 雲雀さんも変わってるのかな。

 そこまで考えてふと獄寺くんと雲雀さんはいつから一緒にいるのだろうかと何となく気になった。
 二人の間には強い繋がりが感じられるけれど、やっぱり昔から長く一緒にいるのだろうか。
 今まで二人の事を何も知らなかったせいか、色々と訊きたくなってしまう。

「あのさ、獄寺くんと雲雀さんって昔から一緒なの?」
「はい、昔あいつが人間だった頃に…人外に襲われて死にかけていたあいつを助けたのが切欠で…」
「あ…もしかしてその時になりそこないに…?」

 それを聞いてあの夜の光景が蘇る。
 山本に斬られ、致命傷を負った雲雀さんに口付けで血を与えて助けた獄寺くんの姿が。
 きっとその時と同じように獄寺くんは雲雀さんを助けたんだろう。

「…はい、そうです。あの時のあいつはもう虫の息でした。その時あいつと目が合って、何故か死なせたくないと思ってしまって…気付けば自分の血を飲ませていたんです」

 その時の事を思い出しているんだろう、獄寺くんの瞳が細められる。その瞳にはどこか切ない色が見えた。

「それ以来俺から離れなくなりまして…その内ずっと一緒にいたいから血が欲しいと言うようになって」
「…獄寺くん、俺が退魔の力持ってるって知った時、お願いがあるって言ってたよね?あの時は聞けなかったけど、それって…」

 俺と山本が人外退治をしている所を偶然獄寺くんが見て、その時に獄寺くんは俺に何かを言おうとしていたのを思い出す。
 あの時の獄寺くんは普段の様子と違って、とても神妙な顔つきをしていて、何かとても大事な事を言おうとしていると思った事を覚えている。
 結局その時は雲雀さんがやってきて獄寺くんを連れて行ってしまい、獄寺くんが何をお願いしようとしていたのか聞けず仕舞いになってしまったのだ。
 その時の俺は獄寺くんが何を言おうとしていたのか全くわからなかったけれど、今ならわかる。
 獄寺くんはきっと、雲雀さんを。

「…はい、恭弥を、人間に戻してほしかったんです」

 もう遅いですが。

 そう切なげに笑う。

 獄寺くんは雲雀さんを助ける為とはいえ、人間だった雲雀さんを人外にしてしまった事をずっと悔いていたんじゃないだろうか。
 なりそこないを人間に戻せるのは退魔の力だけ。
 だから獄寺くんはあの時、俺に雲雀さんを人間に戻してほしいとお願いしようとしてたんだ。
 雲雀さんにまた人間として生きてほしくて。
 雲雀さんは何度も獄寺くんに血が欲しい、同じ始祖にしてほしいと言ったが聞き入れてもらえなかったと言っていた。
 始祖の血を二度飲むと完全に始祖となってしまい、もう退魔の力をもってしても人間に戻る事は出来なくなる。
 獄寺くんはだから頑なにそれを拒否し続けていたんだ。全ては雲雀さんの為に。
でも。

「これで良かったんじゃないかな」

 退治屋の人間が言う事じゃないけど、友人としてそう思う。
 だって、消える直前、二人の顔は確かに幸せそうだった。
 雲雀さんが獄寺くんを強く想っているのと同じように、獄寺くんも雲雀さんを強く想っているんだ。そんなの、見ていればわかる。

「だって、幸せでしょ?」

 俺の言葉に獄寺くんが瞬く。
 そしてふわりと柔らかく笑った。

「…そうですね」

「…何やってるの」
「雲雀」
「雲雀さん!」

 硬質な低い声が届く。
 声の方に振り向けば雲雀が不機嫌顔でこちらに近付き、獄寺と沢田達の間に割って入るように立つ。
 その姿はやはり記憶の中の姿よりも成長していた。

「僕達を退治しようって?まあ僕は人間を実際に殺してるしね」
「そんな、退治なんてしませんよ!」

 ふんと鼻を鳴らし冷たい視線を向ける雲雀に沢田が手を振りながら慌てて否定する。

 退治なんてするわけがない。
 寧ろまたこうして会えて嬉しいと思っているくらいなのに。

 けれど雲雀はその言葉を完全には信じていないようで、腕を組みながら沢田達に向ける気を緩めようとはしない。
 どうやら雲雀はあの頃と変わらず、獄寺だけが特別な存在らしい。

「ふうん?一応言っとくけど僕が殺した奴らは僕を殺そうと攻撃してきた退治屋だからね、正当防衛だよ」
「そう、なるのかな…?あ、でも今後は人間を襲わないでもらえると助かるといいますか…」

 殺そうとしてきたから殺したというのが果たして許されるのかは疑問に思うところだが、退治屋というのはその仕事柄故、人外に殺されてもあまりそこまで騒ぎにならないという傾向にある。
 現に雲雀が殺したであろう何件もの退治屋の件も雲雀たちが町を去って被害が無くなった途端町は何事も無かったかのように平穏な日常に戻ったぐらいだ。
 過去の事を問うた所で雲雀が反省などするとは到底思えないし、人外に人間の法が適用されるわけでも無い。
 それならばこれからは人間を襲わないと約束してもらう事ぐらいしか出来ないのだが、それは人間の血を食料とする吸血鬼に食事をするなと言う事だ。
 そんな事可能なのだろうか、受け入れてもらえるのだろうかと恐る恐る言った言葉に対して雲雀は驚くほどあっさりと返した。

「ああ、もう必要ないからしないよ」
「え?」
「始祖は不老不死なので食事をしなくても生きていけるんです。だからもう恭弥は血を飲まなくても大丈夫なので人を襲う事も無いです」

 なりそこないは中途半端に始祖の血を入れたせいで体が足りない始祖の血を求めるのか、それとも人間に戻りたいと血を求めるのかわかりませんが血を飲まないと生きていけないんですが、と獄寺の説明を聞いて納得する。
 全ての吸血鬼がその名の通り人間の血を飲んで生きているとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。
 そもそも吸血鬼という名前自体人間が勝手につけた名前だ。
 きっと昔の人が血を飲むなりそこないを見て吸血鬼と名付け、そのなりそこないを生み出す始祖も同じように血を飲むのだろうと決めつけてまとめて吸血鬼と呼んだのだろう。
 人外自体まだまだ謎が多いとされているが、その中でもとりわけ始祖やなりそこないは数が少なく、どこまでが真実かわからない噂ばかりだ。

 これからそういう事も含め、訊いたら教えてくれるだろうか。
 以前は二人の事を何も知らなかったけれど、これからは人外の事も、二人自身の事も。

 そんな事を考えている横で山本は頭を掻きながら雲雀へと向く。
 山本もあの出来事からずっと雲雀に言いたい事があった。謝りたかった事が。

「雲雀、あの時は悪かった、斬っちまって」

 あの日の出来事を忘れた事なんて一度もない。
 雲雀から攻撃してきたとはいえ、そして雲雀が沢田に向かっていったからといって、友人を斬った記憶を。
 あの斬った感触は今でもはっきりと覚えている。
 思い出す度に血の気が引いて、体が震えた。
 その後知っての通り雲雀は獄寺の血を飲み、始祖となった事で傷はすぐ塞がったのだが友人を斬ったという事実は消えない。
 山本はずっと気に病んでいたのだ。
 けれどそれを聞いて雲雀は本当に驚いたようで目を大きくさせ、そしてすぐに心底呆れたような表情になった。

「…馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だとは思ってなかった」

 そもそも雲雀にしてみればあの時山本に斬られる事こそが狙いで、態と斬られたのだから謝られる意味がわからないのだろう。
 獄寺こそが唯一の存在である雲雀にとって友情だとかそういった類のものは全く理解出来ない。
 けれどきっとこれからゆっくりと獄寺以外の存在を認め、受け入れていくようになるんだろう。
 今の雲雀と山本のやり取りを見てそんな気がして獄寺と沢田は笑った。

「隼人、もう行こう。何か用事があるんでしょ」
「ああ、そうだった。沢田さん、すいません」
「ううん。…明日からも、また会えるんだよね?」

 何も無くたって会って、他愛もない話をして、笑い合って。
 そんな友達として当たり前の毎日がくるんだよね?

 不安になり訊ねた言葉に獄寺くんは眩しいくらいの笑顔を返してくれた。

「勿論です!」



 寄り添うように獄寺くんと雲雀さんが歩いていく。
 その後姿を山本と二人、見つめる。
 高校の時も見ていたその姿はけれどあの時とは確かに違って見えた。

「…良かったな」
「…うん」

 結局俺達は退治屋である前に友人で。
 リボーンには怒られるかもしれないがあの二人が幸せであればそれで良いのだ。

 これから永遠の時間を寄り添って生きていくであろう友人二人の幸せそうな後姿に沢田達は目を細めて笑った。

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