犬の首輪
「ほら、やっぱり赤がよく似合う」
「何それ、新しく買ってくれたの?高そー」
タバコの匂い、きっつい香水と、アルコール。化粧品の匂い。真っ赤な口紅が卑しく笑うのは、まるでピエロみたいで小さな頃から怖かったんだ。
「癖っ毛、カワイイわよね。犬みたい」
「ふふ、どんな?」
「ゴールデンとか」
真っ赤な革の首輪を首に嵌められて、結んでた髪を解かれてわしゃわしゃ細い指先に撫でられる。
「私の所にいない間、どのくらいの女の子と寝たの?」
「っあは、何聞いてんの」
「燃えるじゃない。苛めがいがあるでしょう?」
たまに自分に引くのを何とか飲み込んで覆い隠して、与えられるものに目を伏せる。隠すのは得意、嘘を付くのもポーカーフェイスもちょー得意。そりゃそうでしょ、望まれるままでいなくっちゃ失ってしまうって分かっていたから仕方なかったんだよね。
「…痛ってぇ」
やっとシャワー浴びさせて貰える頃になると、真っ赤なアザになった手首に思わず反吐が出る。首も擦りきれて赤くなってるし、明日ヤバイじゃん。シャツで隠れんのかなこれ。
「都、貴方その身体だけは親に感謝しなさいよ。折角そんな綺麗な顔に産んで貰ったんだから、もう少し身に付ける物にも気を配りなさい」
「あー…うん。ありがと、ちょー助かる。ていうか夏休みでさ、困ってんだよね。暫く泊まっていい?」
「ずっといてもいいのよ、好きになさいな」
その背中を抱き締めて、肩口にキスをする。中学の頃からこうやって媚売って尻尾降って、何とかやっと日々を一つ一つ乗り越えてきたもんだから、いつか擦り寄ることばっかり上手くなっちゃって反吐が出る。
いつか、凌ちんは『やるしかねぇんだ』ってそう言ってた。まぁ確かにそれはその通り、やらなきゃ生き延びられなかったんだから仕方ない。
他に行く宛も、居場所もなかったんだ。
たまに自分に反吐が出る。
でも飲み込むんで隠してしまう。
自分に嘘ついて騙して生きるのはもう慣れた。
むしろそれ以外に、出来る事なんてなかった。
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