百味ビーンズ「どこか空いてるコンパートメントはないかなって歩いてたらさ、車内販売が回ってきて、カエルチョコを買ったんだよ。いつもなら逃がすなんてヘマはしでかさないんだけど今日は片手が塞がってたからね。クソッ…」
最後に汚らしい言葉が聞こえたのは幻聴だと信じた。
引きつった笑顔で僕とピーターがリーマスを見る。
二人の視線に、ん?と笑顔で小首を傾げてみせる。
怖いよルーピン先生。
僕はリーマスの中に初めて本物の狼を見た。
「僕はピーター・ペティグリュー、こっちがハロルド・ホルター。」
「僕はリーマス・J・ルーピン。リーマスでいいよ。よろしくね、ピーター、ハロルド。」
「よろしくリーマス。」
自己紹介するときにはもうリーマスは普段の優しいルーピン先生に戻っていた。
こっちのほうがいい。
ずっとこっちでいて下さい。
そしてまた、自己紹介が終わったときガタンッとコンパートメントが開く音がした。
今度は隣のコンパートメントだった。
「リリー、待って」
「セブ、早く」
知っている名前が聞こえた。
コンパートメントの窓から廊下を見ると、真っ赤な赤毛の女の子と、その後を追いかける黒髪の男の子がいた。
母さんとスネイプだ…。
ってことは、隣のコンパートメントには父さんとシリウスが居るの?
見たいような見たくないような…。
「ねぇもう直ぐで学校に着くよ。ローブに着替えようよ。」
見に行かない。
だって、行ったところで何をしていいかわからないし、事態をややこしくはしたくない。
「そうだね、着替えようか。」
ピーターがトランクからローブを引っ張り出す。
でも何故かリーマスは動かない。
その理由が、きっと体にある傷を見られたくないからじゃないかと僕は悟った。
リーマスは眉を下げ、どうしたもんかとおろおろしている。
それに気付かずにピーターは着替えを済ませていた。
僕もさっさと着替え、ピーターに声をかけた。
「ねぇ車内販売買いにいこうよ。僕お腹空いちゃった。」
「え?うん」
「リーマス、その間に着替えておいてね」
きょとんとこちらを見るリーマスを置いて、僕らはコンパートメントを後にした。
「あれ、ハロルド?」
後ろから聞いたことのある声が聞こえた。
振り返るとジェームズがいた。
あの笑顔でこちらに向かってくる。その後ろにはシリウスもいた。
「ジェームズ」
これはよかったのかな、悪かったのかな。
二人共もうローブに着替えていた。
「もう友達ができたの?」
「ああ、紹介するよ。こちらシリウス・ブラック。新グリフィンドール生!」
「やめろよ、まだ決まったわけじゃねぇし」
ジェームズの言葉を否定しつつも、顔では喜んでいた。
「よろしくシリウス。僕はハロルド・ホルター。そしてこちらはピーター・ペティグリュー」
「よ、よろしく…」
ピーターも人懐こい笑顔を見せた。
人を信じ込ませてしまう、あの笑顔。
案の定二人もピーターを直ぐに受け入れていた。
「何か買いに来たんだろ?」
ジェームズが言った。
「うん。百味ビーンズでも買おうかな。」
「俺あれの箒味ってのに当たったことあるぜ。」
「ど、どんな味だった?」
「藁の味だった。」
「僕はバタービール味が好きだな。一回しか当たったことないけど。」
「そんなのもあるの?」
「へー。知らなかったな。」
三人でビーンズの味について盛り上がってるので、あえて水を差すようなことはせずに一人で車内販売を探した。
「ジェームズとシリウスって面白い人達だね!な、仲良くなれるかなあ?」
「なれるよ。ってもう結構仲良かったじゃない。」
「そ、そう?同じ寮だといいなぁ。きっとリーマスも気に入るよ!」
「へぇ、僕も行けばよかった。」
車内販売を買って戻ってきても、まだ三人は話し込んでいた。
今度は自分がどの寮に入るかについて語っていた。
新入生は大体この話になると11年話し込めるのだ。
楽しそうだったけど、ピーターにもうコンパートメントに戻るよ、と声をかけると二人との会話を切り上げてついてきた。
もっと話してても良かったのに、と言うともう十分話したから、とはにかんだ。
まだ光の中にいることに慣れていないようだ。
笑顔には自虐と自信と期待が混ざっていた。
そしてコンパートメントについたピーターは早速リーマスに新しい友達の報告をしているのだった。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」
車内に声が響いた。
懐かしいな、と僕は聞いていたが新入生二人はそれどころではなさそうだった。
二人共顔が不安で引きつりそのまま固まっている。
その顔に思わず吹き出してしまった。
「ひ、ひどいよハロルド!君は不安じゃないの?」
「ごめん…。何が?」
「だから、その、ホグワーツには入学試験があるって…」
「もしかしたら僕、ここで家に帰らないといけなくなるのかな………?」
そんなちっぽけなことを気にしていたのか!
そういえば僕もそんなこと考えたっけ。
ロンと一緒に。
「あのね、入学試験は頭に帽子を乗せるだけだから。安心していいよ。」
「本当に!?よかった………でも、どうして知ってるの?」
「あ、ああそれは…学校に知り合いが居るんだよ。」
嘘は言ってない。
ダンブルドアがいるし。
へぇ、と言って二人は納得したようだ。
そしてほっ、と安心のため息をついた。
「ほら、通路出ようよ。最後になっちゃうよ。」
僕は二人を連れて、列車の通路に出た。
なんか引率の先生になった気分。
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