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傷付き合うまで愛でよ
「今は、耳障りの良い言葉だけ聞いていたいな」
リーマスは力なく微笑みながら、わたしの太もも目掛けてソファーにダイブした。
その様子を見ていたシリウスたちはわざとらしく冷やかしの声をかけてきたが、リーマスはお構いなしにわたしの太ももに顔を埋めてくる。くすぐったい。
後からリリーも戻ってきて、わたしたちの姿を見てぎょっとした。そんなリリーを見たジェームズは一目散にロッキングチェアへと駆け寄り腰を下ろし、自慢げに自分の太ももをぱんぱんと叩いた。
リリーは迷惑そうに「行かないから」と言い、その顔のまま、わたしたちを見た。
「2人とも、もっと節度を持ってちょうだい。ジェームズが真似したがるから」
「ごめん。で、この人はどうしたの?」
「新任の先生、事情を知らないから人狼についてああだこうだと話し出してね。それで気をやられたみたい」
「ああ…なるほど。おつかれさま」
リーマスは返事をすることなく、わたしの太ももの柔らかさを堪能している。
付き合った当初は人目を気にして手をつなぐのも腕を組むのも嫌がっていたのに、ここ最近は大胆になってきた。
今だって、動物のグルーミングみたい。
冷やかしの声とリリーの怒った声を聴きながら、リーマスの頭を撫でると、嬉しいのか気持ちが良いのか満足したのか、彼はくるっと回転して、わたしの太ももを枕代わりに仰向けになった。
しかしその目はまだ疲れが残っているようで、もっと、と次を所望してくる。
わたしはそのまま手を彼の額に当て、前髪を梳かすように撫でた。
「仕事はどうだった?」
「仕事自体は、簡単だったんだけどね…。話が長いうえに内容が内容だったから、辛くて」
「そっかそっか。監督生ってホント大変ね。リリーもお疲れ様」
「ありがと」
リリーはにこやかな笑顔で恋人のジェームズを素通りして部屋に戻っていった。
その後姿を名残惜しそうに見送るジェームズに笑っていると、ねぇ、と下からムスッとした声がした。
視線を下げると、リーマスはわたしの手を掴み、指と指の隙間から瞳を覗かせていた。
「もっと」
「…はいはい」
自分の他に気があるのが不服だったらしい。
可愛いと怖いの中間の気持ちを抱きながら、彼の頭を撫でた。
独占欲は無いほうだと思う、とはにかんだリーマスは一体どこへいったのだろう。
今やわたしより嫉妬するし、見せつけたがるし、一緒にいたがる。全然良いけど。
一連の流れを見ていたシリウスが、ははっ、と笑った。
「イリアもリリーを見習えよ。甘やかしすぎると付けあがるぞ」
「ですって、リーマス」
「うるさい、って言っておいて」
「聞こえてんだよ」
「今のシリウスの声は耳障りみたいね」
「その右手がリーマスの股間に行く前に退散するわ。見てらんねぇ」
行くわけないでしょ、と反論したわたしとは裏腹にリーマスは笑った。
そしてまた、さっきの目でわたしを見ている。
「…期待した目で見ないで」
「見てないよ」
「…あっそう」
「あのさ、イリア」
「なに?」
「好きとか愛してるとか…そういう言葉が欲しい」
この台詞を言うのは流石に彼も恥ずかしかったらしい。
頬を少し赤らめ、瞳にあった威厳は薄まっている。
何かをねだるときの彼は、付き合った時から変わっていない。
わたしは彼のこういうところが、一番好きだったりする。
「好きよ、リーマス。大好き」
「…うん」
「わたし以外にこんなことさせちゃ駄目だからね」
「まさか。しないよ」
リーマスは少し笑ってから、わたしの手を自分の頬へと移動させた。
「ねぇ。もっと聞きたい」
わたしが答える前に、シリウスが舌打ちしながら「他所でやれよ」と呟いた。
けれどリーマスには聞こえていないみたいで、わたしの声を今か今かと待ち続けている。
今キスしたらどうなるんだろう。周りのみんなも、リーマスも。
そんなことを思いながら、わたしはリーマスの頬の傷口を撫でた。
リーマスはくすぐったそうに身じろぐ。
動物みたいで可愛かった。
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