メイン
価値なき宝石に縋って


※ネタメモのこれを基盤とした話



土曜の夜、彼は毎晩うちにワインをもって食事をしにやって来る。
そうしようと言ったのは彼の方からだった。
曰く、わたしの顔があまりにも死にそうで、生きる希望も無さそうな目をしているから、約束を取り付けて生きる理由を課そうとした、とのことだった。
そうでもしないと今にでもあんたはレギュラスの後を追いそうだ、と言ったバーティも、死にそうな顔をしていた。

こうして、死にそうな顔をした男女二人の奇妙な付き合いが始まった。

わたしと彼の接点は、大事な人を失ったということ。
彼は友人としてのレギュラス・ブラックを失い、わたしは婚約者としてのレギュラス・ブラックを失った。
彼への思いは違えど、確かにあの場所でわたしたちの悲しみは共鳴したのだ。怖い顔をした大人たちの中で、彼だけがわたしと同じだと思った。

死に場所を求める猫のようなふらふらとした足取りの彼を、わたしは助けたかったのかもしれない。
もしくは、惹かれたのかもしれない。

レギュラス様との間には無かった感情がバーティに向けられている。
わたしはそれを見ないふりをして、彼を家に招き入れる。

深入りするなという声が、ずっと付いて回っている。
きっといつか彼も、レギュラス様と同じように何も言わずにわたしの前からいなくなってしまうような気がして。



「もう、一人でも大丈夫そうか」

もっと無口な人だと思っていた。
レギュラス様と同じように、わざわざ言葉で伝えない人だと思っていた。

自分の想像していた未来と違う幕引きに、胸が引き裂かれそうになる。
薄れていった悲しみが大波となり押し寄せ、声が出ない。笑顔が作れない。
バーティは視線を落としながら、息を吐いた。

「…恋人に、俺たちの関係がバレた。食事するだけの関係とはいえ、向こうからしたらいい気はしないよな。俺も詰めが甘かった。悪い」

彼の声を聞いているうちに、わたしの目から涙がこぼれた。
バーティは、わたしと目を合わそうとしない。あらかじめ用意していた台詞をつらつらと述べているようだった。

涙がとめどなく溢れ、わたしは顔を手で覆った。
分かっていたことなのに、嘘をついてまでわたしと離れようとしたことが、ひどく悲しかった。

ああ、最後まで優しい人。
恋人なんて本当はいないんでしょ。そう言っておけば、わたしがちゃんと怒れるから、そう言ったんでしょ。

でもごめんなさい。
寂しい気持ちの方が強くて、あなたの思い通りに振舞えない。

わたしはそのまま彼に近づき、胸元に額を預けた。
彼の香水の香りが涙を誘う。あれ以来泣かないようにと決めていたのに、この体たらく。せめて声は出さないようにと、唇を固く閉じた。

何も言えないわたしに、バーティは呆れているだろうか。怒っているだろうか。
泣く女は嫌いって、あなたは言っていたから、きっと鬱陶しいと思っているのでしょうね。

前に彼から言われた言葉を思い出し、ゆっくりと後ろへ下がった。
次の瞬間、バーティは腕を伸ばし、わたしの体を抱き寄せた。

「っ……」
「……」

さっきと同じように、わたしはバーティの胸元に顔をうずめた。
バーティはわたしの肩に頭を預け、わたしをここから出さないように、腕に力を入れた。

「…こいびっ…と…」
「…ああ」

恋人が待っているんじゃないの、と最後まで言えなかったけれど、バーティは観念したように声を漏らした。

「イリア」

肩から鎖骨、鎖骨から首、耳に彼の唇が移動してくる。
吐息と共に、わたしの名前を呼ぶ声がはっきりと聞こえてきて、わたしの涙がようやく止まった。
唇が頬へやって来て、舌が涙をすくった。

驚いて一瞬体が離れたけれど、それでもバーティはわたしを離さなかった。

バーティの顔がすぐそこにあった。一瞬目が合ったけれど、泣いているところを見られたくなくて、見られたら嫌われてしまう気がして、顔を背けた。

「そんなに泣くなら、もっと言葉にしろ。俺の事もっと欲しがれよ」

そう言うと彼はわたしの後頭部を手で押さえて、自分勝手にキスをしてきた。



title:ミポリを見て死ね

back

- ナノ -