メイン
嫌がらせ行為


「食べさせてあげましょうか」
「やめろ。クッキーは洒落にならん」

美味しいのに、と言ってクッキーを食べるイリア。
見舞いに来たレギュラスと入れ替わるようにやって来た。帰ると言って部屋を出たのになぜまた来たんだ、と聞いたら、クッキー貰ったの、と言ってまた俺が寝ているベッドに腰かけた。
そして冒頭に戻る。

「やることがないなら帰れ」
「あら、そんな口を聞ける余裕があなたにまだあったなんて。スープのおかわり、いかが?」
「結構だ。…だいたいお前、レギュラスになにを吹き込んだ?まるで汚いものを見るような目で見られたんだが」
「自分が綺麗だと錯覚していたなんて可哀想だわ」
「お前はおちょくりにきたのか看病しにきたのか」
「暇潰しに決まってるじゃない」

そう言ってイリアは動かない俺の腕を布団から出して、叩いたり撫でたりつねったりした。
感覚を失ったようで、赤くはなるものの痛みは感じない。

「痛い?」
「全然」

俺がそう言うと、イリアは腕を自分の顔の高さまで持ち上げた。
そしてまじまじとそれを観察したあと、噛んだ。がぶりという効果音が似合う。

口を離すと、血は出ていないものの歯形がくっきり残っていた。

欲求不満か。今日のイリアは大胆だった。

「なにも感じない?…ああ、腕だけでいいわよ」
「男の思考を深読みするな。今日はいつにもまして積極的だな。ん?」
「あなたもわたしの体、噛んだことあるでしょう」

イリアが手を離すと、俺の腕はベッドに落ちた。
手のひらが上になり、その上にイリアは自分の手を重ねた。
多分握ったと思うが、感覚がないのでわからない。

「痛いのよ。特に首は」
「…俺、首に噛みついたことあったか?」
「あら、違ったかしら。確かあなただと思ったけど」

そう言って、袋をあけてクッキーを食べ出した。
手はいつの間にか離していたらしい。

「あなたに噛んだ覚えがないなら、あなたじゃなかったのかも」
「聞き捨てならないんだが。そしてもし本当に俺じゃなかったとしたら、俺は噛まれ損だぞ」
「いいじゃない。痛くないし。痛かったとしても、あなたは興奮するクチでしょう。わたしになぶられるの、大好きなんだから」
「誰がいつそんなことを言った」
「言わなくても体は素直なのよ。認めなさい」

もくもくとクッキーを口に入れる。
聞けばマルフォイ婦人が作って、それをマルフォイ氏から貰ったらしい。

腕さえ動けば、そのクッキーを床に叩きつけて、今までの仕返しをここで全部発散できるのに。

というか、なにもしないなら本当に帰ってほしい。
期待させるなと、言いたい。

「のんきにクッキーなんか食いやがって」
「のんきじゃないわ。計算ずくよ」

イリアは少し口角を上げ、寝ている俺を見下すように、笑った。

back

- ナノ -