後ろの正面だあれ


たまの家族揃っての休みに何処にいこうかと悩んでいたら、翔がひいお爺様のお家に遊びに行きたいと言うからあまり乗り気ではないものの、暫く行ってなかったしと晴明の家に向かう。

かの大陰陽師の生まれ変わりの晴明の家は、この平成の御時世にそれはそれはどの権力を使ったら平安時代のあの屋敷を再現できたのか、何れにせよ狸爺っぷりを発揮している。

青龍の運転で自宅からそんなに離れていない距離の晴明の家につき、翔は真っ先に晴明の部屋に駆け込む。子どもって凄いと思いながら昌浩と青龍がその後に続いた。



「ひいお爺様!!遊びに来ました!」
「おお、翔か、また大きくなったかのう」
晴明は、はい!と元気よく答える翔を膝にのせ、よしよしと頭を撫でる。


「それはそうと昌浩や、この間の幽霊団地に行かせたはいいが隙を突かれて宵藍に助けてもらうとはのう。じい様はお前に一通り教えたつもりじゃったが…まだまだだとは、情けない、情けないのう」
よよよ、と泣き真似をする晴明にひいお爺様、泣かないで下さい!と一生懸命心配する翔を他所目に昌浩は苛々を隠せない。だって仕方がなかったのだ、あの日は用意した札が突然のゲリラ豪雨で台無しになりどうしようかと悩んでいたところを襲われ、間一髪のところで青龍に助けられたのだ。
「宵藍も宵藍であまり昌浩を甘やかすでないぞ。まったく、神将のくせにGPSなんぞ使いおって」
「……………」
押し黙る青龍をほっほっほと笑い終わると、まぁゆっくりしていけと言われ晴明の部屋を後にする。



「あ!もっくんだ!!」
そう言って駆け出した翔の先には木陰で休むものの怪の姿があった。翔のタックルを勢いよくくらうとものの怪はぐぇっと間抜けな声を出すと、状況が良くわかっていないまま翔に頬擦りやらわしゃわしゃとふわふわの毛並みをなすがままに触られている。


翔が晴明の家に来たがる理由はこのものの怪に会うためである。本性が騰蛇であることは理解していないようだが、その本性の方にも大変慣ついているのである。終いには紅蓮お兄ちゃんなどと呼ばせしょっちゅうお菓子やら玩具やら翔に渡している。
以上の理由が頗る気に入らない、特に我が子が慣ついているあたりが気に入らない青龍は先程から苛々が収まらない。
昌浩が弄っていたなめこを収穫しきったり、昌浩の見ていたチャンネルを変えたりと地味な八つ当たりを繰り返していた。

八つ当たりに半ば呆れながらも買ってきたクリームパンをビリビリと開ける
「一口寄越せ」
「いいけど…って、あーーー!!」
横から食べられた一口はようやくありついたクリームを丸ごと食べられた。だって回りの分厚いパン生地からのようやくようやくのクリーム部分だったのだ。これには流石に堪忍袋の緒が切れた。
「なんで一口で食べちゃうのさ!!」
「よくこんな甘いものを食べるな、それだから一キロ太るんだ」
「?!なんでそのこと知ってんだよ!!」
気にしていたことをぐさりと言われるわ、楽しみを食べられるわでぐっと青龍を睨む

「……そんなに食べたかったのか?」
「当たり前だろ!」
「なら口移しでいいか」
顎を持ち上げられ顔を引き寄せられてようやく意味を理解した昌浩は抵抗を試みるも力の差では到底かなうあいてではなくて、じりじりと整った顔立ちだとか長い睫毛が近づいてくるわけで…

「ぬぁにしてんだこらァアアアアア!?」

白い毛玉が音速の領域で青龍の脇腹に強烈な蹴りをお見舞いする
「さっきから黙ってみてりゃ何してんだお前は!!」
「嫁に何しようが夫の自由だろうが」
「大体な青龍!俺はお前と俺の昌浩が結婚したなんざ認めてないからな!」
「別に貴様に認められんくらいどうでもいい」
「上等だ表に出ろ」


お互いに神気を迸らせ青龍は大鎌を構え、もっくんは紅蓮に姿を変える。
昌浩は大きく溜め息をついて、毎回毎回のこのやり取りを眺める。とそこへぱたぱたと足音を立てて翔がやってきた。


「母上ーもっくんがどこかに行っちゃいました。あ、紅蓮お兄ちゃん!」
そう呼ばれた紅蓮は先程の殺気は何処へやらにこにこと人柄の良さそうなお兄さんに早変わりして何して遊ぼうかなんて話ながら庭へと向かった。




(紅蓮お兄ちゃん!次はかくれんぼしたいです)
(よし、十秒以内に隠れろよー)

(まったく、毎回毎回喧嘩になるんだから…ほんと紅蓮と青龍って仲良いんだか悪いんだか)
(最悪に決まってるだろ)
(それより早く新しいクリームパン買ってきてよね!)
(………チッ)

 

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