贈りもの | ナノ

※時期外れのブン太誕生日話

プレゼントはお前がイイなんて、ちょっと出来過ぎてるかな?



4月20日は丸井の誕生日。
日頃から彼に憧れる者は勿論、この日を忘れた事は無い。
それどころか、本人に聞かずとも仕入れた情報で好みを熟知し、贈り物を選ぶ時には的のど真ん中を得ようと必死だ。

想う人の隣に居る存在になる為に。

しかしダブルスパートナーであり、ある意味常に隣をキープしているジャッカルは、そういった事に興味が無かった。身近な存在故に、誕生日プレゼントは迫られて購入するけれど、特別丸井に好いてもらおうと思って選んだ事は無い。だから、あっても困らないような物を選んだりしていた。主に部活関係で、消耗するような物を。

だが今年はどうだろう。

ジャッカルは一人苦悩していた。
丸井とは出会って数年程度だが、これまでの誕生日のようにはいかない事ぐらい、恋愛経験のあまり無いジャッカルにだって分かっている。
ただの友人で無く、今の彼は恋人だった。手の指を絡めたり、唇を触れ合わせたりした事もある。
いつも先導するのは丸井だが、多少強引にされた方がジャッカルの気は楽だった。自分からはどうしても行動する気になれない。よって受身になりがちなのだけれど、プライドを傷付けられたような気になった事はあまりなかった。
丸井は本当に自分を必要としているのだと、思い込んでいるからかもしれない。それはジャッカル自身が丸井に心酔している事の表れでもあった。





「ジャッカル!逃げられないって分かってんだろぃ!?」

怒鳴り付ける丸井はにじり寄りながら目の前の獲物を見据えている。
最早後ろに逃げ場は無いと気付いたジャッカルは素早く立ち上がって別の方へ行こうとするが、腕を捕らえられてテーブルに押し付けられた。腰が角に当たって軽い痛みが走る。

「…あ、あのなぁ…だから、その…」

しなくてもいい言い訳を、もごもごと言おうとしている内、丸井の手はジャッカルの上半身を強く押し始めた。そうはいかないと抵抗を試みるが、腕力勝負ではっきりと決着が着いた事は今までに無く、押し合いになってしまう。

ジャッカルは今更になって、丸井の様子がおかしかった事に気付いた。
自分の誕生日に、自分の為のケーキを作りたいから手伝ってほしいなんて、思ってみれば妙ではないか。確かに今年はレギュラー陣から果物や調理器具、お菓子に関する本なんかが贈られていたけれど、女子なんかからは手作りケーキの類だって貰っていたのだ。わざわざ作る必要なんて無いだろう。
騙された。
素直に微笑ましく思った自分を後悔していると、油断した所為でテーブルの上に倒されてしまった。

テーブルというのは所謂ダイニングテーブルで、丸井家の人間も恐らくはここで団欒したりしているはずだ。そんなところへ背を預け、ジャッカルは申し訳ない気持ちで余計に焦る。

「ま…待てよ!なんでこんなとこで、こんな…っ」
「だから言っただろぃ?ケーキ作って食べんだって」
「はぁ、まぁ、そうだな……じゃなくて!!なんでそれで俺がテーブルに寝るんだ!」

思わずノリ突っ込みをしながら圧し掛かろうとする丸井の身体を押すと、彼は思いの外簡単に退いてしまった。が、すぐに何かを持って意地悪く笑んだ。手元に見えるのは、リボンのようだ。

「まずはコレだな」
「は…?」

訳も分からず困惑していると、丸井はジャッカルの腕を頭の上で合わせ、リボンで纏め始めた。危険を察知した時には既に遅く、テーブルの足へそのリボンを巻き付けられた所為で腕は少しも動かせなくなっていた。
丸井は丁度手首のところで蝶結びを完成させ、己の手際の良さに満足そうに笑う。

「どうすんだよ…!家族が帰ってきたら!」
「今日は遅くまで帰って来ない」
「お前の誕生日なのにか…」
「そ。俺が帰って来ないようにしたんだから、間違い無い」

得意気な表情に呆れ、ジャッカルの怒りが少しだけ減った。

「足あんまりバタつかせんなよ?テーブル壊れたら流石に怒られるから」
「あのな…こんな事しなきゃいいだけの事だろ」
「そうはいかねー。俺今すっごく楽しいし」

そう言いながら、丸井はジャッカルの制服を脱がせ始める。まずはエプロンの下のシャツのボタンを外し、皺くちゃになるのも気にせず二の腕まで引き上げる。次にベルトのバックルに手を掛け、もぞもぞと身を捩るジャッカルを諌めながらズボンと下着を落とす。靴下はそのままでいいか、と手を離し、出来上がった姿に改めて目を輝かせる。

「うっわー…最高」
「俺は最低な気分だ」
「裸エプロンだぜ、ジャッカル。男の夢」
「…俺も男だ」

真っ赤になって呟くところがまた胸を擽るのだ。丸井はともすれば漏れそうになる笑いを堪えて、喉を鳴らしながらテーブルに乗った。
ジャッカルは腿から上を横たえているので、そうでもしないと届かない。膝を着いて腹の上に跨り、両手をテーブルに着ける。
思っていたより冷たくて、裸で寝ているジャッカルはきっと、もっと冷たく感じているんだろうなと思った。

「ぶ、ん…っ」
「もう文句言う気もしねーだろぃ?」

エプロンの上から胸の突起をぐりぐり押してやる。薄い布を隔ててもぷっくりといやらしく勃ち上がっているのが分かった。恐らく寒さによるものだが、刺激してやるとその身体はあっという間に熱くなる。

「ふ…ぅ…」
「可愛いなぁジャッカルは」

声を抑える唇に舌を這わせ、催促するように何度も啄ばむ。

「口開け。…キスしようぜ。くちゅくちゅ音するようなやつ」
「や…っ」

うっとりと見つめてくる瞳から目を逸らせない。卑猥な事を囁かれるのが嫌でジャッカルは遮ろうとしたが、思わず開いた口は丸井の要求する通りとなってしまった。

合わされた唇から熱い舌が侵入してくる。
探るような舌使いに吐息が震えた。
まだ明るい室内に響く濡れた音が更に羞恥を煽る。

「ぁ…ぁ…ん…ム、ぅ…」

息を吐く度に漏れる喘ぎ声に、ジャッカル自身は嫌悪しか感じなかったが、丸井は一層興奮した。

「ジャッカル…」

耳朶や軟骨に舌を辿らせ、低い声で囁く。
欲しい気持ちがどんどん高まる。手を繋いだ時やキスをした時のそれを上回る充実感が待っている気がした。

実質上、これが彼等の初めての性交になる。
ジャッカルは勿論、こんな事をされるのは初めてだったが、強張る身体が、緊張によるものなのか、快感によるものなのか分からなくなっていた。

耳の後ろから首筋に掛けて軽く吸い上げながら、胸の突起を指先で揉む。粒があまりにも小さくて、潰してしまいそうだと思う。

(やっぱ女とは違うよな…)

いちいち比べてしまう自分に苦笑しながら、上体を起こしてジャッカルの丸い頭を撫でる。女でなくとも、ジャッカルのあられもない姿を見て下半身が既に熱を帯びているのは自分で分かり切っている事。

「ど…した…?」
「いや、気持ちいいのかなーと思って」

なんとなく、本当の事を告げるのが恥ずかしくて、からかう様な言葉を囁いた。ジャッカルは眉間に皺を寄せて目を細める。

「…分かってるだろ」

声が漏れていたのだから。

丸井は片手をするりとエプロンの中に忍ばせて、弄っていた突起を撫でた。

「あ…ッ」
「ジャッカルって、胸も感じるんだな?」
「ちが…、」
「舐めたいけどエプロンは外したくないしな…」

呟いて、丸井は胸の部分の布を握り、片手で中心に寄せた。思い切り引き絞られた布は歪んで不恰好になってしまったけれど、浅黒い肌に溶け込みそうな色をした突起が丸見えになった。

着替えや水泳をすれば見られ放題なそこが、今は見られるのがとても恥ずかしい気がしてくる。いつもと違って、見た目がいやらしくなっているような気さえした。ジャッカルはそんな動揺を悟られないように丸井を睨んだが、行為を留まらせるような効力はまるで無かった。

「いただきます」
「あっ…!」

舌を出して近付かれると、鳥肌が立って妙な寒気を感じた。特に狙いを定められた胸の辺りは触れられていない段階でも熱かった。
舌先でねぶられるところはとても見ていられなくて思い切り目を閉じる。

丸井は味わうようにたっぷり唾液を絡めてしゃぶる。片方を捏ね回しながら、ジャッカルの様子を見た。

声を出すまいとしているのか、唇を噛んでいる。

そっちがそうなら、と、丸井は気付かれないように舌を動かしながら、空いた手をそっと下へ向かわせる。本人は気付いているのだろうか、自身が布を僅かに押し上げている事に。

突起を溶かされそうな勢いで嬲られて意識をぼうっとさせていると。
頂の部分を、丸井の手が覆った。

「ヒっ!!!――あ、あっ!」

突然の事に驚いた脚が軽くばたついたが、丸井は構わずに手を動かす。ジャッカルが上半身を起こそうと躍起になるのを抑えて、手を筒状にしながら上下させる。布の上からでも分かる熱さを掌で堪能しながら、完全に勃起するのを見つめた。

「あ…っあ、…あぅ…っぶん、た…ぁ…」
「気持ちよさそうじゃん」
「ャ…ぁ…あぁ…っ」

濡れた瞳が切なげに細められて、快感を訴えてくる。丸井はたまらず口付け、そして口を離すと、息も掛かりそうな至近距離のままに手の動きを早める。

「あぁ…あ…もう、っ…も…っ!!」

扱かれるのも然る事ながら、布が敏感な先端を刺激して、先走りを溢れさせ始めていた。あまりの快感に呟かれたジャッカルの言葉に、丸井自身も余計に昂ぶる。

「待てよ…今、もっと気持ち良くするから…」

一気に上り詰めさせたいという欲望を押し留め、手を離して床に置きっ放しにしていた袋を漁る。中にはケーキ作りの材料が入っている。それ等から簡易のホイップクリームを取り出して、ビニールを剥がしながら立ち上がった。

あと一息で達しそうになっていたジャッカルは身体をヒクつかせながら空ろな瞳で丸井の動きを追う。

「まずは、デコレーション」

露出した肌に、プラスチックの口金から白いクリームを絞り出していく。

「な…っ何、してんだよ…!」
「だから、デコレーションだって」

待ち侘びる子供のようにペロリと唇を舐めながら、丸井はジャッカルの肌を汚していった。そしてシミの出来たエプロンを捲り上げ、勃ち上がる性器の下生えにも絞る。臍の側等にも乗せながら、最後は快感に膨らむ先端にちょんと絞った。
その間も微かに震えていたジャッカルの身体は、冷める様子も無い。

「ふ…、お前…最悪…っ」
「そう言う割にはまだ元気だな。萎えてない…」

丸井は身を屈めて、クリームの乗った場所に舌を這わせる。甘みが口に広がってきた。

「あ…っく、…ん――ッ!」

大きく口を開け、ぱくんと先端を咥えると、ジャッカルの腰が跳ねてそれに応えた。クリームが溶けて先走りや唾液と混じり合っていく。甘いような、そうでないような、不思議な味で口内が満たされる。クリームを塗り付けるようにして下生えを撫でながら、丸井は夢中でしゃぶった。

「あ…あっ…やめ、…っブン太、ぁ…はな、し…」

下腹部にせり上がるものを感じ、焦って訴えるが丸井はやめるどころか一層頭を上下させ始めた。ぐぷぐぷと音を立て、吸われたり緩められたりを繰り返される。
なんとか耐えようと力を入れて歯を食い縛るが、目も眩むような快感には勝てなかった。

「はぁっあぁッ―――ア――、あっ―」

腰を何度も跳ねさせて、吐精する。
口を塞いだままなのだから当然だが、丸井が何も声を出さない事が胸をざわつかせる。ジャッカルは申し訳ない気持ちで、荒い息を抑えつつ丸井を見る。
立ち上がった丸井は俯き、口元に手を当てたまま動かない。
気持ち悪くなったんだろうかと不安になった。しかしどう声を掛けていいかも分からない。

「…ん。あー美味かった」
「は…あぁ!?」

思わず声を張り上げる。丸井はにっこり笑って、あ、と口を開けて見せた。
無い。
出したはずのものが。

「まさか、の、飲ん…」
「飲んだ。クリームが勝ってたから余裕」
「…そういう問題じゃ」

ねーだろ、と突っ込む前に、丸井がまた絞り袋を手にしたのを見て口を噤む。

「今度は後ろだな」
「や…っいや、待てよ、落ち着け!」

ジャッカルの静止も空しく、丸井の手は膝を抱え上げるようにして添えられたのだった。





「今年のプレゼントは最高だった」
「…良かったな」

事後、クリームを塗りたくられ、缶詰のフルーツを乗せられた身体はベトベトしていて、出したものが分からない程になっていた。
風呂に入って一息吐いた二人は、気だるい身体でなんとか片付けを済ませ、ソファで寄り添っている。
とは言っても、ジャッカルは意識を保っているのがやっとだった。甘い雰囲気に酔う気にもなれない。

「ジャッカル、で、どうだった?」
「何がだよ」
「何って、セック「それは!!…それは、ブン太がよかったと思うならいいだろ?誕生日祝いだったんだし…」

嬉しい言葉だが、何か引っ掛かる。
恐らくは照れ隠しなのだろう。頬が赤く染まっている。

「俺は、ジャッカルとヤって、ジャッカルも気持ち良くなってくれんのが一番いい」
「…本っ当に欲張りだな」

溜息を吐きつつ、わざと丸井に体重を掛けてやる。丸井も逆らわず、肩に腕をまわした。

「ヨかった?」

尚も食い下がってくる。仕方無く、軽く頷いた。

恋人だの何だのと意識しないで、何か物を贈っておけば良かったか、という思いが微かに脳裏に過ぎった。
しかし、こんな機会でも無ければ、行為に及ぶ事も無かったかもしれない。そうでなくても充分ではあったけれど、こうしてみると、より一層気持ちが満たされた気がしていた。

(いっつもブン太に流されてるよなぁ、俺…)

まどろみながら、ふとそんな事を思う。
だがブン太が嬉しそうな声で喋っているのを聞いていると、悪い気はしない。

「…忘れてた」
「何?」
「誕生日おめでとう」

虚を突かれ、丸井は目を見張った。

「ありがと。ま、ジャッカルの時も盛大に祝ってやるよ。俺が」
「…何か嫌な予感がするな」
「何されんのか、楽しみだろぃ?」

ああ、やっぱり"される"のか、と半ば諦めながら、眠気に勝てず目を閉じる。しかしその口元は、僅かに柔らかな笑みを浮かべていたのだった。