可愛くない後輩 | ナノ

学校帰り。
二人でドラッグストアに寄った。

「せやからなんでそんなモン買わなアカンっちゅー話や!」
「しつこいっすわ、いい加減」
「しつこ…ってなんやねん!」

尚もぎゃーぎゃーと騒ぐ謙也の横で財前は臆することなくソレをかごの中へ放り投げた。
あーっと謙也が大声で言うと、時間帯的に多いおばさん連中に睨まれてしまう。
それでも財前は飄々と、先輩とも思っていないような相手に溜息を着いてみせる。

「なんなんすか、俺が折角気遣ってるのに」
「き、気遣いやない!こんなん」
「やったら、ナシでヤリます?」

ぽつり、と財前が言うと、謙也は見る間に顔を赤くして、黙り込んだ。
そんな様子に財前は笑みを漏らすのだけれど、本人は気付かぬまま。

と、そこへ。

「光、」

「ん…ああ」

女子が一人、こちらへ歩いてくる。財前と似たようなピアスをした、ちょっと派手だなと謙也が思うような女子。
財前はその女子に近寄ると、カバンから何かを出して渡した。どうやら、CDらしい。その話題で盛り上がっているのか、謙也の存在は忘れられたかのようだった。

(なんやねん…誰やコイツ。この女。やけに親しいやんけ)

モヤモヤとした気分で突っ立っていると、不意に財前がこちらを向いて。

「先輩、それ払っといて」
「んなっ…」
「俺、後で追いかけるから」

まだ、その女子と話したいというのだろうか。
それに、このカゴをレジに持っていくという事は。

「お、俺に恥かかす気か!アホちゃうか!?ベタベタベタベタしくさって!もうええわ!」

そう言うと、謙也は自慢の足で走り去っていった。床に叩きつけられたカゴの中から、ポン、と謙也の嫌がっていたものが放り出される。
ころころ、と転がって財前の足元で止まった。
財前はそれを屈んで拾い、に、と僅かに笑みを浮かべる。

「ちょ、ちょっと…それ」
「ローション。あの人に使おうと思っとんねん」

女子の叫び声が響く。
うるさい、とでも言いたげに耳に両手をあて、財前はソレをレジへ持っていった。



「なんやねんあいつ!!ホンマ腹立つわ…っ」

家に入り、自室に走っていくと、早速布団をかぶる。
そして布団の中で枕を殴る。
しかしそうしている内に段々侘しくなってきたので、途中で枕に頭を預けた。
布団からもぞりと顔を出し、天井を見る。

この天井、財前とも何度か見た事があった。

「アカン、何考えてんねん、俺…」

思い出したくもないのに、何故か浮かんでくる財前の顔。
生意気で、薄情で、鬼畜で、可愛げのない年下の恋人。

だけどそれが今では愛しくて。

「はぁ…嫌いやあんなヤツ…。裏切り者ー…」



「誰がや」



「…!?」

布団を捲られて、ハッとした。そこには財前が立っている。紙袋を持って。

「な、なんで…」
「追いかけるって言うたやろ…はぁ、あっつい」
「ていうか何勝手に入っとんねん」
「気付かんかったんはそっちや。インターホンも鳴らしたし、声もかけたし、ノックもしたんすけど」

それほど財前の事を考えていたという事だろうか。
謙也は表情を歪めて自分の顔を手で覆った。

「はあ…見っとも無いわ俺」
「は?なんの事っすか。それより、コレ使いましょ」

ガサッと紙袋から出されたのは、先程ドラッグストアで言い合いになった原因。

「…俺、今そんな気分やあらへんし」
「俺はそういう気分なんすわ。…そんなに可愛いトコ見せられたら、な」

可愛いってなんやねん、と謙也が食って掛かろうとすれば、すぐに財前の唇がぶつかった。
ぶつかって、一瞬イタイ、と感じたはずなのに、謙也の唇は拒否するどころか、自然に開いて受け入れてしまう。

「ん…フ……」
「…かわええ。シットしたんやな、俺とあいつが話してるの見て」
「してへんっちゅーねん!アホな事…!」
「アホはそっちっすわ。俺がアンタ以外見えてないの、知っとるくせに」

真剣な眼差しに、う、と言葉を詰まらせた謙也は、知らん、と顔を背けた。
それをいい事に財前は謙也の首筋にカプ、と噛み付く。

「いた、いたいっ」
「痛いのも好きやん」
「そんなんちゃうわ!俺をマゾ呼ばわりする気かっ」

こんな時にまで騒ぐ謙也に、色気ないなぁとボヤきつつ、ちゃっかり最後まで致した財前。
事後の片付けをちまちまやっていると、まだ裸の謙也が後ろから抱き付いてきた。

「なんすか。あんまりくっつくとまた手ぇ出るで」
「…ええよ。今日は」
「え?」
「今は!…そういう気分やねん」
「スる前と言うてることちゃうやんけ…。てか、反則やってそれ」

頭を抱えつつ、またもや押し倒してしまうのだった。

「たまにはシットされるのもええな」
「うざいんやろ?」
「まあ、それはそうっすけど」
「おま…可愛げなさすぎやで!」