02.5:木手と知念 | ナノ


一度吐き出してしまえばやはり少しは楽になるらしく、授業を受けるのに支障は無かった。
部活に向かおうと廊下を歩いていると、木手に出くわした。
体調のことを聞かれたので、素直に――と言っても動揺は隠しきれなかったが――平古場とのことを話し、それ以来は多少平気だと話した。
思えば木手から平古場に話が伝わったのだから、過剰なほど恥ずかしがる必要はないのかもしれないが、知念はとにかく熱くなる顔を逸らしていた。

「……平等でなくてはね」
「永四郎、何か……」
「いえいえ。それより苦しくないのなら何よりです。知らない人間に盛られるのは……いい気はしませんしね」
「う、俺はそこまで無節操じゃない……」
「それはどうですかねぇ」

近付いた木手の指先が体の中心、腹部から胸元、喉元へ向けて撫で上げた。

「んうっ」
「こんな程度の刺激でも、与えれば感覚が蘇ってくるでしょう?今日は大人しく帰りなさいね。キミの為に休みにしてもらえるよう頼みに行きましたから」
「え……!そんな」
「大丈夫です、気にすることはない。詳細を知らなくても仲間の具合が思わしくないと知れば皆心配するだけですよ」

そうまで言われると知念は黙って微かに首を縦に振った。
結局皆に迷惑を掛けてしまうのだと、こんなことなら家でじっとしていればと、そう思わずにはいられない。
一人で苦しむ分には誰の手を汚すこともないのだ。
俯いて口を開かずにいると、木手がひらりと手を返して視線を寄越すよう促した。

「大丈夫だと言っているでしょう。誰もキミを責めないし、……ひどいことをしているのは利用してる俺たちの方なんだから」
「ひどい、こと……?」

本気で酷く扱われた覚えは無いのにと言いかけたところで木手が教師に呼ばれてしまった。
一言、早く帰りなさいよと言い、木手は知念の手を上から包むように一度だけ握って去っていった。