わかれ道 | ナノ

わかれ道


試合に向けて大事な時期だけど俺はタイミングなんて考えずに告白した。
相手の木手は幼馴染で、男だ。だから発展したいだとか、具体的に何か期待していた訳でもなかったのだけども、何かリアクションはあってほしかったなぁと思う。というか、大きく驚いてでももらわなければ悲しすぎる。なんか、それだけの存在だったのか、と落ち込んでしまいそうになる。
好きという言葉に木手は大して驚いていない様子で。
それどころか「知ってるよ」と少し笑っていた。
知ってるってどういう意味なんだろと思いながら、だったら、と俺は更に考えてしまった。そこで期待が芽生えてしまったのだと思う。


「好き、だからさ、付き合って」


声が出なかった。ぼそぼそと自分らしくない小さな呟きみたいな言葉を零した。照れてしまって搾り出す事が難しかったそれは、自信なさげに聞こえたかもしれない。
木手はこちらへ向き直り、真剣な眼差しで俺を射る。レンズ越しでも妙に迫力のある視線に少しばかり緊張する。


「付き合うっていうのは、恋人同士になるという事だよね」

「え、うん」

「俺は甲斐クンの事を君が思う以上に大切に思ってる」

「え?…え、ほんとに?」

「本当に。だから付き合うとか恋人になるとか、そういうのは出来ない」

「へ?」


自分の間抜けな声が響いたけど気にしていられない。そのまま口をぽかんと開けて木手を凝視した。
俺の事、大切だから付き合えないって。要するに断られたんだ。頭が冷える感覚がして、瞳が潤んだ。訳が分からない。


「木手、俺の事、好き?」

「それは、そうだよ」

「好きなのに?」

「だから…好きだから無理なんだよ」

「は、意味分かんね…」


そう言いながら、拳をきつく握る。悔しいし恥ずかしい。木手に説明してほしいけど、されたからって納得出来るかな。


「甲斐クンと恋人同士になったら、いつか別れる日が来るから。そんなの耐えられないよ」


俯いていた俺はその言葉に顔を上げた。改めて木手を見ると嘘を感じさせない表情をしていた。思い詰めるように地面を睨んで、その頬は心なしか赤くて。本気なんだって分かったけど、でもやっぱり納得は難しかった。


「なんで別れる事前提で考えちゃうんだよ?好き合ってるのに!両思いなんだろ?俺と木手」

「それは…今の気持ちでしょう」

「いいじゃん、今の気持ちで!俺は今が大事だよ。今のまま、今想う気持ちのままずっと一緒に居たい」

「甲斐クン。俺はそういう確信のない望みは凄く不安になる」


それからはもう言い合いになって、今しか見れなくて興奮する俺と、先を考え過ぎて思い悩む木手との考えが交わる事は無かった。俺は段々と高ぶる感情を止められずに、木手の腕を掴んで言った。


「じゃあ恋人じゃなくてもいいや。セックスしよう。体だけでいいからさ」


人を抱くのさえ初めてのくせに、そんな事を言って木手を挑発した。本当に抱きたかったというより、木手に怒って欲しかった。そっちが抱かれる側だと女扱いもした。
でも木手はキレもせず俺を抱き締めた。柔らかく力を入れるその腕とは反対に、潰すみたいに抱き締め返してやった。
もうどうしたって平行線なんて、悲しい。





「か、甲斐、く、…、っ」


学校からの帰り道、コンビニで買ったハンドクリームで木手の後ろを潤した。濡れないんだから濡らさないと、俺のアレが完勃ちしても入らないだろうなと思ったから。思い遣りとかは考えてなかった。
木手が本当にするのかと何度も聞いてきて、聞かれる度に自棄になっていった。やるに決まってんだろ、と怒鳴ったりして。
もう二本も指が埋まっている穴を広げるように探ると、木手は泣きそうな声を出した。痛いからなのかとも思ったけど、俺は今苛ついてしまっているので労わってやる素振りも見せたくない。


「い、った……っ」

「でも俺が入るためにはもっと緩めなきゃ。俺の事好きなら出来るよな」

「ふ…、っ…甲斐クン、後戻り、出来なくても知らないよ…、あッ」

「それは木手の方だろ。ケツで感じまくるようになったらどうする?木手の言う未来、もしもお前が女を好きになったらお尻の穴に指入れてって言わなきゃ」

「きみ、ほんと…っ俺のこと、すき、なの…」


好きだよ。
即答で言えるくらい想いは溢れてるんだけど、でも言いたくない。
指を抜いてクリームと一緒に買ったコンドームを取り出した。付け方よく分かんないなと思っていたら木手がやってくれた。慣れているんじゃなくて、器用なだけ、なんだそうだ。
勃起している俺の股間を見て、木手は少し驚いているようだった。

俺の家は今の時間帯誰も居ないから声を出してもいいと言ったら木手は甘えてきた。腕を首に回してきたし、愛しそうに頬をすり寄せてきたりする。


「木手……っ」

「あ、あ…っだ、め…触ら、ない、で…ッ!」


なぜか隠したがる中心を扱いて、先から搾り出すみたいに親指で擦ってやる。細くて擦れた声で拒否するのが心地良い。俺の手で気持ち良くなってる木手が好きで好きで眩暈がする。先走りを滲ませるそれにも抵抗はない。男のそれ、というより、木手の一部という認識で、もう、それも可愛い。


「甲斐クン、好き…」


甘い吐息と一緒に何度も俺を好きだと言う。俺は泣きそうになりながら、意地をはるのをやめて好きだと返した。精一杯の声は涙声になっていなかったか心配だ。
白濁をコンドームの中に放つ頃、木手も絶頂へ導いてやった。達した木手は異常なまでの色気で、まだ涙を溜めている瞳はうっとりと俺を見詰めていた。
好きだし、辛い。木手の恋人の肩書きがほしい。それさえあれば、俺に繋ぎ止めておけると錯覚出来るのに。こんなお前を他の誰にもあげたくない。


「ねえ、泣かないでよ」

「泣いてない……。木手、キスしよ」

「……うん」


唇を少しだけ触れさせて離れかけた俺を抱き寄せ、木手は舌を入れてきた。
あまり経験もないけど、このキスにこめられている想いはなんとなく分かる。
俺の事こんなに愛してるのに。なんでかな。






2012.9.21
すれ違いで泣いてしまえばいいんです。甲斐木手たのしいです。
永四郎と呼ばせる時の方が多かった気がするのですが、これでは木手呼びにしてます。
甘…あま…?



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