囚人パロっぽい何か | ナノ


※(たぶん日本ではないどこか、な)囚人財前×潜入捜査官のユウジ。
※痛い描写があるような無いような。




初めて与えられた大きな役割に、俺の体は確かに震えた。
淡々と毎日をこなす内に薄れていたものが湧き、溢れるかのような感激だったと思う。



暗闇にも勝る色のつなぎを着て、規則正しい生活を送る。そんな中でも時折血は飛ぶし、なんて言い表したらいいのか分からない叫び声が聞こえたりする。
彩が良いとは言えない食事を口に運びながら傍らで談笑する男達を喧しいなと思いながら睨んだ。
食事に関して感想など何も無くて、今ではただ摂取しているという感覚になっていた。偏食だったけれど、以前の方が美味いか不味いかは鋭敏に感じ取れた気がする。

「おい」

談笑中の男が俺の肩を押してきた。というより、どついたと言ってもいい。
俺はいかにも不快というように持っていたスプーンを離した。
殴り合いなんかはしょっちゅうで、たいして拳をぶつけたこともない俺も、今では若干耐性が出来た。ケンカを売られることも少なくない。
目立つことは避けたいが、空間にそぐわない態度は不信感を生む。俺は相手を同じようにどついて立ち上がった。

「この中に犬が紛れてるらしい、まさかお前じゃないよな」
「はあ?何言ってるん。アホちゃう」
「アホはテメェだ!」

尻尾振るみてぇに見本を演じてるのだって許せないってのに、ケツまで振ってんのか。
男がそう叫ぶと周りが同調し始めてしまった。面倒だ、こんな時ばかり横が繋がる。
誰かがタレこんだ程度で俺の潜入がどうにかなってたまるかと食って掛かった。勿論まっさらな身であることは口に出来ないので、理不尽な物言いにキレる男を演じる。
すると怒りに任せて拳がふるわれ、思わず身構える。
殴られるのは初めてではないがいつだって怯んでしまう。
そうした方が真実味も出るのだと、他の囚人の行動で勉強したせいもある。

が、拳は俺に当たることはなかった。

「離せ」

沢山の汚い声が飛び交うその場で、俺にははっきりと聞こえた。
近頃よく聞くその声。
好かれていない存在である俺を庇うことに得なんてないのに、その男、財前は俺に掴み掛かる腕に何かを振り落とした。何か、細工をした身近な物であったと思う。浅いながらもしっかりと立つほど皮膚に食い込んだそこを抑え、男は痛みに呻き、叫んだ。

「ユウジさん、」

勢い良く離されて尻餅を着いた俺に手を伸ばす財前は、冷たい声から平常時のトーンへと戻してそう呼び掛けてきた。嬉しいよりは迷惑であったが、心が一瞬ここへ入る前の自分へと戻った気がした。


惹かれあってはいけない
2012/09/16