明るいピンク色のマニキュアを買った。 自分で使いたい訳ではなくて、それは彼の爪を彩るための物。 部室でペンを走らせる小春の側に行って屈み、片手を貸してほしいと頼んだ。 なに、と聞かれてポケットから小さな瓶を出して見せると彼にしては珍しく困ったような 表情で口を噤む。 俺は女が爪を整えているところなどは見たことがなかったけれど、元々手先は器用な方だし、きっと綺麗に出来る。 重たそうに鮮やかなピンクの乗った筆を、小春の爪にそっと近付けて、色付くのを確認しながら丁寧に進めた。 思った通り、小春の指先にこのピンクはすごく似合ってる。 嬉しくて笑うと、小春はますます難しそうな顔をしたので、俺も口元を引き締めた。 「一氏、俺は女になりたないで」 と、小春が言うので、滅相もないという気持ちでそれを否定した。 女にしたいとか、なってほしいとか、そんなんじゃない。 「小春の爪が綺麗やったから」 「綺麗って…、普通やろ」 「形とか大きさとか、綺麗やねんて」 誉め言葉を言ってみても、小春は首を傾げていた。 俺以外から誉められると笑顔を返すのに。それが心から滲み出るそれではないとしても。 爪のひとつひとつも特別に思うくらい。 それは理屈ではないから、小春のように事細かに説明するのは不可能。 だから思った通り、感じた通りのことしか見せられない。 こんな俺はやっぱり小春の脳とは程遠いんだろう。 「それに、爪こんな色になったらおもろいやろ?」 無理矢理こぎつけようとしたら、微妙、と返された。 でも爪はそのままにしてくれた。とても綺麗だ。 男の爪に、華 2012/09/11 |