×銀 | ナノ

委員会での仕事を終えて部室へ向かう途中、師範が携帯で喋っているのを見掛けた。手がでかい所為か携帯がいっそう小さく見える。周りに人が居ないのを確認してそろっと近付いていくと、側に行く頃ちょうど電話から耳を離してしまった。
驚かそうと思った訳でもないのだが、師範は唐突に現れた様に見えたのか、少し肩を跳ねさせて笑った。


「弟から電話でな」

「そうなんすか。弟さん俺と同じでしたっけ」

「そうやで」


なぜか師範はすっかり地元の人間だと思い込んでいた。
言葉遣いがそう思わせたのだろうか。


「全国で見れるんすよね。不動峰の事知らへんから楽しみっすわ。顔似てます?」

「ああ、そっくりやで。背も高いしな」

「そうなんや…喋ってみたいわ」

「どないした?」


そう言って師範に顔を見られた。俺は別にどうという気もなく普通に接していたつもりなので、その問いの意味が分からない。
ただ見つめ返していると、元気がない、なんて言ってくる。


「普通ですけど…。つか師範俺の態度とか分かります?」


会ってそう経たない間柄でそんなにすぐ変化に気付くものなのかと素朴な疑問のはずが、師範は俺の癇に障る言葉だったと解釈したらしい。申し訳無さそうに謝られてしまう。
その言葉に対して俺は眉間に皺を寄せずにいられなかった。


「怒ってないって言うてるやないですか。謝って欲しい訳やないんで。むしろ仲良うせなと思ったりしてんのになんなんすか。もうええわ」

「…スマン」

「本当にいいですて…スマンは無しにしましょ」

「気ぃ遣てくれてるんやな。優しいな財前」


ああやめろやめろ、そういう言葉が欲しくて言った訳ちゃうねん、上手くいかへんな、なんでやろ。
気を遣ってやっているなんて思ってない。
ただ俺が、…仲良くしたいだけ。

余計な一言だった
2012/07/23