まだ元通りじゃないけれど 時間に厳しく、一分も無駄に出来ないほど綿密に組まれたスケジュール管理をされながらも、千歳にとっては今居る場所が幸福の場に思えた。 通常の生活よりも面倒が多いのは確かだが、自由な時間以外に欲しいものはだいたい揃っている。 先輩達と居ると獅子楽中に居た頃を思い出す。 実質長い時間を共有するのは四天宝寺の面々。 そして、見掛けて必ず声を掛けるのは親友の橘。 「桔平、なんしとっと?」 「千歳…、杏にメールを返そうと思ってるんだが、どうも素っ気無くなってな…電話を掛けたいんだが、何故かメールで返せって言われるんだ」 「杏ちゃん、大きくなってむぞかなったねぇ」 「お前ん口からはあんま聞きたくなかったい」 「あ、」 ふ、と笑って携帯を見つめたままの顔につんと人差し指を当てる。 そして千歳は後ろから橘の腹部を抱くように密着した。 「っな、」 「方言出とっよ、桔平」 「別に問題なか…って、くっつき過ぎたい、こがん」 「…ははっ一緒に居った頃覚えとう?二人でこぎゃんこつもしたばい」 嫌な予感がするとは思っていた。その予感は的中し、千歳の手が無遠慮に股間を撫でた。妹へ送るはずだったメールの画面はそのままに焦って携帯を閉じ、身を捩るが、橘よりも大きな千歳はその抵抗を封じるようにして耳元に口付ける。 千歳のする事はただのからかいで悪戯だと分かっている橘は、そこで大きく溜め息を吐いた。やめろと暴れれば調子に乗るので力を抜く。 「久しぶりに会ったかと思えばコレか。本当にお前は変わらないな」 橘の呆れた声は方言を隠し、すぐに動揺は消えた。千歳の漏らす残念そうな声は子供のそれで、少し笑ってしまう。 二人の間には、時には性的な行為もあった。自慰を覚えて教え合ったり、互いの性器に触れた事もある。そんなに前の事では無いのに、遠い昔のようだった。今またふざけて触れ合うには色々とあり過ぎた。 橘は千歳の腕から抜けて振り返り、自分から両腕をまわして黄色いジャージを抱き締める。 「こん合宿は、時間の行ったり来たりしよったい。時々辛か」 「辛い?なんしや?俺は楽しかよ。桔平と、四天の奴等と、先輩達が居って。桔平だって不動峰の二人の居る」 「それが辛いたい」 どうして、なんで、と問われていくら説明しても恐らく千歳には伝わらないだろう。千歳はふらふらとどこかへ行ったり、その場に留まる事に拘らない。知り合いが沢山居て刺激し合う事は確かに楽しい。だが、橘は千歳の上げる面々が混在した場所を息苦しく感じる時があった。 人間関係に重きを置いている場合では無いと理解しているのだが。 「繊細なのは分かるばってん、難しく考えるこつ無かよ」 「そう、だな…」 「だけん、俺とまたかきっこしょうばい!」 「お前……」 堪えかねて一発叩いてやると、千歳は痛がる素振りをして笑う。 難しく考える事をやめようと心掛ける橘が「仲良くなれば誰にでも同じ事をするのだろう」と単純に考えて千歳との事を交えつつ四天の面々に質問し、引かれるのは少し後の事。 2012.6.5 新テニの二人です。 時系列破綻気味…orz 念願のちとたち!好きだけど難しいです。 頭のネジが若干緩んでしまった気もする…… タイトル拝借元…Kiss To Cry(PC向け) |