物語の結末は幸福に満ちて | ナノ

俺のチームメイトも引くくらいの迫力を持った彼は、全国大会まで比嘉中テニス部の一員として存在していた。どれもこれもヒールの雰囲気たっぷりの面子の中でも彼はかなり“こわもて”。身長が異様に高くて、体は極端に細い。それだけでもかなり目を引くし、見た時からどんな実力なのだろうと思っていた。しかし気にはなるものの、比嘉中とはそう鉢合わせる事なく、結局試合でも当たらなかったので確かめる事は出来なかった。口伝ではそれなりに聞いた事がある。
俺は知っていたけど彼は俺を知らないという状態だったが、あの悪夢の焼肉屋での出来事の後、彼と顔を会わせる機会に恵まれた。
泊まっている所が近かったらしく宿泊施設の近くで偶然見掛けた彼に俺は特攻したのだ。傍から見ればかなり強引で無理のある誘いだっただろう。お茶でも、とナンパの様な事を言って味を知りもしない喫茶店に入った。俺が苦手な強引なタイプとなんら変わりが無い事に気付いていたけれども、引き下がれば終わりだった。何せ住んでいる所が違い過ぎる。


「なんや、すまんなぁ、…えーと。俺、君の事気になっててな…俺の事知らんと思うけど」


噛みながらもそう言うと、彼は首を横に振った。


「知ってるさー。やーは四天宝寺中の部長、白石蔵ノ介。特徴は基本に忠実なパーフェクトテニスをする事」

「え…!」


知っていたのかと輝いてしまった瞳に、彼は苦笑していた。


「主将から聞いてたんやさ」

「ああ…」


比嘉中の部長が他校の部長を、それも全国常連校の部長を知らない訳も無い。それを他の部員へ対策として伝える事も当然と言える。理解しているのに何処か残念な気持ちを隠し切れない。
あれだけの人数の中、個人的に知ろうと思うのが稀だろうに。


「白石はなんで俺の事ぅ知ってるさー?気になっててって言ってたやしが、俺はあんすかちゅーくねーらん」

「実はこの目で見た訳やないねん、君のテニス。そういう意味やなくて、言い難いんやけど」


ここまで来たら言おうと決心は着いていた。彼にとって嫌な思い出になるかもしれないが、誰相手にも玉砕覚悟の告白はあっていいだろう。男女どちらにせよフラれる時はフラれるもの。要するに開き直りだ。
水の入ったグラスを掴む手が強張る。
――言わないと後悔する。


「君に惚れてしもたんや。本当はもっとよく知ってから…基盤を作ってから告白した方がええのかもしれへんけど、時間も無いやろうし」


何故か言い訳じみた言葉を付け足してしまった俺を、彼は難しい顔をして見つめてきた。逸らさずにこちらも訴えかける様な視線を返す。
そうして少し経つと、彼は小さく溜息を吐いた。


「じゅんに?」

「ほんまやて」


言っても言っても、そんな訳が無いと返される。信じたくも無いのだろう。だけど、伝える事しか出来ないのなら尚更分かってもらいたい。テーブルに上がる彼の片手に自身の手を乗せて軽く握る。彼は驚いて少しだけ引っ込めようとした。


「気持ち悪いと思う。ほんまに、すまん。これ以上の事は望まへんから」

「白石…俺の名前、知ってるのか?」

「当たり前や。知念寛君やろ」

「一回も呼ばないから、知らないのかと思ったさー」


そう言って笑う彼の顔を、半笑いくらいの微妙な表情で俺は見ていたと思う。彼の表情を見逃したくなかったし、新しい一面は目に焼き付けておきたいと思ったからそうなってしまったのだが、彼は不思議に思ったのかまた俺の顔をじっと見つめた。


「ん、そういえば」

「何?」

「くり以上の事ぅって」

「あ、ああ!」


触れっぱなしの手を自ら退けて答えを探した。


「好きやって、言うたやろ?やから…良ければ付き合うて欲しいなと」

「付き合うって俺と?」

「そらそうやろ、俺が好きなのは知念君や」


聞き返してくるなんて思わなかったが、改めて言うと彼は顔を俯かせてしまった。これ程に困らせる事になるとは。好きだと伝えられたらそれでいいと思ったはずなのに俺は欲深い人間だ。彼の艶のある黒髪と特徴的な真っ白に色素を抜かれた前髪を見ながら答えを待つ。もしかしたら、という展開を捨てきれないから、答えなんて要らないとまでは言い切れない。


「ええよ、今やなくても」

「でも…俺は沖縄に帰るし…、時間が無いから言ったって白石も言ったばーよ」

「そやけど、出せへんやろ?答え」

「出せる、出せるさぁ…」


幾分か細くなった声は明らかに戸惑っている。そんな変化も逃す事無く頭に入れる。こんな顔や声も今知ったばかりだ。これから先があるならばもっと知れるのに。


「じゅんにそう思うなら、俺はいいさー…」

「いいってどっち?俺と付き合うてくれるん?」

「…やさ」


食い気味に質問を繰り返したけれど嫌がる素振りも無く、彼は頷いた。大袈裟じゃなくこれが夢だったらと思う程に嬉しかった。
思わず笑顔で礼を言えば彼は分かったからと何度も告げる言葉を遮って、距離が一気に縮まった気がした。これからは恋人同士だ。大阪と沖縄の距離を苦しく思うのはこの際後でいい。今こんなにも幸せなのだから。






2012.4.22
ストーカーの手前くらいにも思えるという。

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