財前が差し出した小さな袋は包装に凝りの見えない、その辺で買いましたと言ってもおかしくないような物だった。実際、そうなのだろう。大型CDショップの名前が書いてあるビニール袋。しかしそれを受け取った白石はそんな事等どうでもいいというように微笑む。そして穏やかに礼を言った。 「中見てええかな?」 「ええんちゃいます」 「…おお!」 財前は相変わらずの素っ気無い態度。その横顔を見ながらテープを取ってすぐに中身を取り出す。それはトランス系のアルバムだった。自分の好きな曲のジャンルを覚えていてくれていた事が意外で、思わず感嘆の声が漏れる。何故すぐ分かったかと言えば――持っているからだ。 「おおきにな、財前。嬉しい」 「…そうですか」 「うん。俺等、恋人なんやな…」 「え?」 「こういうの恋人っぽい気がして。まあ今まで居れへんかったし想像とか妄想の域やけどな」 少し照れた風に笑う白石に財前は唖然とした。目を僅かに見開いて、思わず凝視する。 自分も恋人という存在は白石が初めてだった。恋人だから何かあげなければならないと思ったのも事実。そうでもなければ、男の先輩にわざわざ贈り物をとは考えなかった。 誕生日も、実は忘れていた。昨夜謙也から来たメールで思い出したのだ。それを別段気にしてもいなかったし、相手もそうだと思っていたのだが、反応からするに白石は相当嬉しいようだし、思い入れを持っているみたいで居心地が悪くなる。 やたらと見つめてくる財前に、真顔へと表情を変えた白石。 首を傾げると財前は顔を逸らした。 「すまん…ちょお、重い発言やった?」 「いや、別に」 「なるべく軽くいこうとは思ってんねんで!やから、嫌な事は言うてな」 まだ始まったばかりの関係だ。二人で修正しながら歩みたい。出来れば長く。そう思った白石とは裏腹に、財前は目を強く瞑って奥歯を噛む。絶対に言うまいと思っても口は開いてしまう。忍耐力が無いのだろうか。 「――そういうの、嫌です」 「へ」 「俺は重いなんて言うてないです」 「お…おん、せやな。ごめん」 「俺がどんなタイプかって、分かった気でおるのが嫌です。後輩としてしか見てなかった時と、今とじゃ違うやないですか」 「それも、そうやな」 一人頷いて相槌を打つ。そんな反応すら何処か線を引いているように思えた。財前は言うんじゃなかったとすぐに後悔する。恋人になったからと言って特別視するのが普通かどうかもよく分からないのに、図々しい事を言ってしまった。嫌われたくないから、なあなあで良かったのに。 少しの嫌な思いもして欲しくないのに。 白石はそんな財前にそっと手を伸ばし、冷え切った手を握る。 「分かりにくいようで、分かりやすい奴やなぁ」 「ちょ、手握るとかやめて下さい」 「ええやろ。誰も見てへん。どや、強引で腹立つ?」 「…いえ」 「本当は結構我が強くて、二人っきりならもっとくっつきたい男やねんで」 「はあ…」 「そんな俺は、嫌いになるやろか…」 実際にやるのと話に聞いてるだけでは違うしな、と呟き苦笑する白石に、財前は少し近寄った。 「ん?」 「誕生日おめでとうございます」 「おおきに」 「何回目やっちゅー話しですよね…」 「何回言われても嬉しいで」 「…好きです、部長」 本当はもっと言いたいけど嫌がられるかもしれないから一言だけ。 朱のさした顔を見つめている間、白石は笑みを堪えきれずに目を細めた。これが愛しいということなのだなと、なんとなく思った。 2012.4.14 |