×知念 | ナノ

※中の人ではなくキャラクターがラジオを担当するという体でお送りします。



「もう帰るん?」

「うん」

「一泊はするんやろ?」


頷いて見せた知念ににっこり笑い掛けながら白石はその腕に自分の腕を絡ませた。


「それやったら勝負やな」

「もうクラッカーは要らないさー…」

「ちゃうよ。今度は別の物で」


「お疲れー」


「お疲れさん大石」

「お疲れ」


通り過ぎざまに声を掛けてきた大石を二人で見送り、白石が側のエレベーターのボタンを押す。開いた中には誰も居らず、室内に束の間の静寂が広がった。


「別のって何だばー?」

「たこ焼きかゴーヤ」

「ゴーヤー?」

「せや。知念は食えるんやろ?有利な方譲ったってもええで?」


軽く揺れた箱の扉がスーッと静かに開く。
表情に余裕を乗せた白石は知念に一つウインクを寄越した。呆れ顔で後を歩いて行くと外には用意してもらっていたタクシーが止まっていたので一緒に乗り込む。頭をぶつけそうになる知念を見つつ、白石が宿泊先への順路を運転手に説明した。
走り出した車内でまだ勝負の話は続く。


「ゴーヤーって…また早食いするんかやー?給水がセンブリ茶じゃなければ俺が勝ってしまうんどー」

「それでも、やってみんと分からんやろ。もし勝ったら言うて欲しい事があんねん」

「言って欲しい事?」

「誕生日おめでとうって、言うて欲しい」


信号待ちで止まるタクシー。
知念は瞬きを繰り返した後に、えー、と小さく声を絞り出した。
運転手には聞かれたくないから、走り出すタイミングを見計らって言葉を続ける。


「それじゃ…負けたら言えんばーよー…」

「え…」


自分しか得のしない願い事だと思っていたのに、それではまるで言いたいと望んでいるようにも思える。ぽかんと開けてしまった口を閉じ、白石は自分の口元に手を当てた。にやけている。絶対に。


「おめでとうならなまでも言えるさー」

「二人の時に言うて欲しい……けど、無理強いはせえへんよ」

「……」


選択肢を与えられるとすんなり言うのが難しい。本人が望む方法が好ましいに決まっているのだ。二人で、と強調されただけで、ただ、誕生日を祝うだけなのだから躊躇する必要も無い。知念は分かったと言って窓の外へ目をやった。
夜も更けてきたというのに都内はきらきらと眩しいくらいの灯りでいっぱいだ。
隣の白石へそっと視線を移せば、灯りに負けない程の美しさ――そう思ってハッとした。それは違う、一線を越えた表現のような気がしてならない。


「んー、今夜は知念の部屋で寝よか…」

「な…なんでよ?」

「一緒に居りたいなぁと思て」


停止したタクシー。先に降りた白石は僅かに屈んで知念へ片手を差し出した。
ほんのり赤くなった気がする頬を見て、ふ、と笑みが零れる。


「早よおいで」


2012.4.13