プレゼント | ナノ

「りーん。誕生日おめでとー」


朝一番に骨折するかと思うくらいに力いっぱい抱きしめられる。
それでもおめでとうと言われて悪い気はしないので、ありがとうと返して背中を叩いてやった。
両腕の力を抜いた甲斐は口元の笑みをそのままに上機嫌でリュックから袋を取り出す。紙袋を受け取るとそれはとても軽くて中身の予想がし辛かった。


「これさ、永四郎と選んだんだ。きっと気に入るから早く見て」
「え、ここで見んのかよ。後で見るから」
「えー、今がいいんだよ今いまいま」
「うるっせーなー」


プレゼントは嬉しいが強制は大嫌いなので苛々しながら袋を開けた。封になっている金ぴかのシールを破いて見てみると、中からまた二つ、小さな袋が出てきた。まだ中が見えない。片方を更に開けてみる。

ごくごく小さい、銀色のピアス。
それを見て目を丸くした。


「俺、開いてない」
「知ってる」
「はあ?」
「これから開けるんじゃん。前から開けたいって言ってたし」
「え…つってもお前、これから色々あるだろ。ただでさえ髪染めてこいって言われてんのに」


言いたくないが時には従わなくてはならないルールというものもある。口篭ると甲斐はフッと今度は鼻で笑った。


「平古場凛ともあろうお方がそのような小せぇことを気にするとは。終わりだな、お前の時代はオワコン」
「殺すぞ裕次郎」
「まあまあ、とにかくさー。もし気が変わったら知念がやってくれるから言って」
「ち、知念が?」


驚いて出してしまった声が思いの外裏返って恥ずかしい。更に冷やかすように甲斐に笑われて顔が熱くなる。


「もう一個の袋、そっちは永四郎からな。肌色の樹脂のピアス」
「流石」
「一応気ぃ使ったんだよ」


そうまで考えてもらうと開けたくなってくる。痛みはたいしてないだろうし卒業後まで待てそうもない。もう一度礼を言ってもらった物を鞄にしまった。


「知念ー」
「あ、ちょうどいいところに」


はい、と何かを手渡される。それが何かすぐに分かった。高くてなかなか買えないトリートメントだ。


「慧くんが渡しといてくれって」
「マジかよ。あいついいチョイスだな。後で礼言わねーと。…で、知念からは?」
「聞いてるよな?」
「聞いた。穴開けてくれるんだって?ピアッサー?」


わくわくしながら聞くと、知念は首を横に振った。あれ、違うのか。甲斐の言ってたことって、他に思い当たらないんだけど。


「ピアッサーじゃなくて、ニードル」
「え?なんだそれ。ニードル?」
「見たことないか?注射針くらいあるやつで…」
「ちょ、待って、知念それ大丈夫なのか」


注射針くらい、というのだからそれは針っぽいものなんだろう。穴を開けるんだから刺すわけだ。それを友達の耳にぶすっとやるなんて。
と、思っていたら知念はちょっと赤くなって人差し指同士をくっつけた。


「た、楽しそう」


常々普通じゃないと思っていたがここまでか!という言葉が喉まで出かけたが、開けたいと思っているのは確かだし、利点を聞いている内に不安が緩んだ。

こっちが楽しみにしていることを躊躇いなくやってもらえるなら好都合。


「うちに来るよな?」
「ん?うん。ああでも、俺だけじゃないけど」
「え?なんで」
「凛が穴開くところ、みんな見たいって言うから。少なくとも永四郎と裕次郎は来る…」
「変態かよ…知ってたけど」







2012.3.3
駄文短文だけどおめでとうの気持ちをこめて。
ひな祭りよりも耳の日になってしまった。

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