リク:南東 | ナノ

それは来る時の役割

久しぶりに家に訪れた南は東方と目を合わせもせずに挨拶をした。そこからして変だった。

遊びに行ってもいいかと聞いたのは南の方だ。
快諾した東方は広げていた参考書やら何やらを簡単に片付けて南を出迎え、早速上がるように勧めたが、その間も南はきょろきょろと視線を泳がせていた。
飲み物とお菓子をぼんに乗せて部屋に行く。
ドアを開ければそこは自分の部屋で、いつもの友達が座っている。しかしその光景に何故だかひどく焦りを感じて東方の顔も強張った。


「部活に顔出してるのか?」
「ああ、まあたまにな」


テーブルに着く南の前にお茶の入ったグラスを置く。
部活の話を切り出すと、少しだけ元の南に戻ったような気がした。


「東方は勉強してたんだ」
「あ、うん」
「邪魔したかな」
「いや全然」


俺は勉強手につかなくてさー、と南が困った顔をする。ため息をついているのは珍しい。部長をやっていた頃から見れば学校生活はほぼ勉強一色になる。それに手がつかないというのは余程のことかと東方は相槌を打った。
南の視線がチラ、と東方へ向けられて、ようやく目が合う。その口元が何か言いたげに見えて、先を促した。


「急に申し訳ないんだけど」
「申し訳ないって…そんなに深刻なのか?」
「うん。俺にとっては」


こくりと飲み物を一口飲んで、南は着ていたブルゾンを脱いだ。すんなりと言葉が出ないようだった。


「俺たち付き合ってるよな」
「…え?付き…合ってると思ってる、けど」


一旦聞き返してしまったが、唐突な質問にも東方は肯定した。南はほっとしたように少しだけ笑う。


「なんでそんなこと」
「付き合ってるって…言って欲しかったから」


頭に浮かんだクエスチョンマークがぐちゃぐちゃに絡まってしまいそうだ。
お互い顔を赤くしながらはははと空笑いを漏らす。
だがそれでは間がもたない。


「それ、悩みじゃないよな」
「そうだな。言いたかったのコレじゃないしな」
「なら言いたかったことを言って」
「だってさ…。俺本気だから、嫌われたくないからさ」


言い訳じみた言葉が呟かれると東方は少しムッとした。


「俺が本気じゃないって言いたいのか」
「そうじゃないけど…」


南が考える風に目を閉じて、うーんと唸った。
何を言いたいのか、伝えたいのか。いくらダブルスを極めてもエスパーじゃないからそれを読むのは難しい。東方は黙って待っていた。

そして観念したように南は口を開いて、東方はこんなこと考えないと思うけどと前置きをした。


「俺たちのこれからについて話そうと思って」
「これから…」
「ああ。付き合って、デートして、ってなったらほら、先が…あるだろ、普通。千石の影響とかじゃないぞ!これはその…俺の興味の問題っていうか」
「うん、分かるよ」
「…でも俺と東方は男だし……先ってあるのかな?」
「んー」
「あるのは知ってんだけど…むしろ東方的にはアリかナシかを聞きたくて」


何でも順序正しく生きてきた二人にとって、その話は難しいことだった。

興味に任せてしまうことも出来ず、こうして聞くことになった南だが、恥ずかしくても泣きを見てもこれで得た答えなら不満を言わずにいられると感じていた。

東方は考えたことがなかったので、黙った。そうか、と。そんなことも普通は考えるはずだ。千石に限らず。男同士がどうかは分からないにせよ、恋人なら考えても不思議ではない。それで南が悩んでいたということに、なぜか罪悪感すら感じてしまう。自分も考えなくてはいけないことだったんだろうと、東方は申し訳なく思う。


「俺はちなみに、アリなんだ…」
「南のアリっていうのは、俺とそういうことがしたいってことか?それとも、出来るかもってこと?」
「…したいってこと」
「俺と?本気で?」


有り得ないという空気が漂っている気がして、南は再び空笑いを漏らす。


「南のこと、そういう目で見たことないんだ」
「ああ、やっぱり」
「でも一緒に悩みたいから、ちょっと先に進んでみるか」
「え」


まん丸に開かれた目に東方が照れ臭そうに笑うのが映る。

南はそっと体を寄せて、震える唇を頬に押し当てる。東方も差し出すように横を向いた。
両頬が終わると、今日は隠れている額に。眉間に。目蓋に。


「震えてる」
「すごく恥ずかしい。でも嬉しい。俺死ぬのかな」
「死なないよ」


今度は東方から、南の唇に自分の唇を押し当てる。いきなり、と思ったものの南はそれに心音を大きくしながら応える。そして微かに目を開くと目を瞑ったままの東方を見ながら角度を変えて口を開いた。ぬる、と唇を割らせる感触に東方は目を開いたが、その頃には南の目は閉じていた。

これはキスだ。
そう実感すると、東方の肺が悲鳴を上げそうになった。


「ま、待て南。苦しいから一旦待って」
「え、ごめん…ごめんな?」
「そうじゃなくて、いいんだけど俺も緊張してるからすぐ苦しくなるんだ。それだけ。嫌じゃないから」
「そ…そう」
「もうしないのか?」
「……もういいよ」
「南、そういうの駄目だろう。素直に言っても嫌じゃない」
「……」
「俺がしたいからするっていうのもアリだよな」


南を抱きしめて、首筋に軽くキスをしてやると驚いたように体が跳ねた。少し面白がってそうしていると、南の手が上の服をたくし上げ始めた。後ろから手が進入して、腰から背中を撫でられる。


「うわ…それ他の奴にやるなよ…」
「東方以外にしない」
「俺も南以外にはしないけど……じゃなくて、急にそれ、とか」


首筋から離れ、姿勢を元に戻すと南の手が前にきた。
脱がせようとしないところが救いというか、いっそう恥ずかしいというか。
手の分だけ盛り上がった布が上に向かってきて。


「え…ちょ、南」
「胸ないよな」
「当たり前だろ」
「ないけど、乳首はある」


くに、と指の腹が突起を柔らかく潰してくる。
どうということはないはずなのに、雰囲気がおかしいせいか過敏になっていた。感じた声を出さなくてはいけない気さえする。


「東方って…どうやってしてる?」
「何を」
「オナニー」
「それは…答えられないよ、」
「ってことは、してるにはしてるんだ」
「そりゃ…少しは、したこともあるけど」
「俺は結構してる。今夜はこれ思い出してするかも」
「は…?」


南の片手がシャツをまくった。唐突すぎてやめろと言えなかった。
上半身を見られて恥ずかしいなんて、変だ。
でも南の目がいやらしいものを見るように見えて仕方ない。

顔が熱くて脳が沸騰しそうだと思いつつ、東方は抵抗らしい抵抗を見せない。


「今の南、地味じゃないな」
「…なんだそれ」
「…なんとなく」


舐めたいと思った気持ちを押し留め、南は名残惜しげに手を放した。

そこで二人は大きく息を着いて、あまりの息の合いように笑った。
しかし何かがお互いの中で決まった気がしていた。






2012.2.22
南東で微エロです。
ご希望頂いた内容に副えていないような気もしますが……!

有難う御座いました!!

リクエスト:南東で微エロ。結構我慢した南と奥手な東方