はっきりと見た訳ではないけれど、その姿を視界に入れてすぐに足が走り出していた。
それと顔を合わせてはいけないと脳が瞬時に判断したのかもしれない。
動揺に心臓をバクバクいわせて走る俺の後ろを、それが迫ってくる。
速い、速すぎる。
追いつかれる。
力いっぱい振る腕を片方掴まれて、前へ向かう足とは反対の後方へと引っ張られた。痛みが伴い、否応無しに立ち止まる。それどころか反動で体は後ろへ倒れそうになり、そうさせた本人に抱きとめられてしまう。
俺は無我夢中で振り解こうとし、暴れたが、それを制するように口を塞がれた。
「しー!静かにせぇて!別に何もしてへんやろ!なんで逃げんねん」
耳に直接注ぐようにされたその声は、――俺のものだった。
そんなこと、ある訳がないのに心の中で「ああ、やっぱり」と思う自分が居る。
きっと鉢合わせてしまった時に、そう思ったからだ。
しかし格好が自分とは違い、制服姿だった。
同じ顔、同じ声なのに服装が違う。だがその服も俺と同じサイズなのだろうと思った。
おとなしくしていると手を離されたので、震えそうになる体をゆっくり反転させ、目を合わせる。そうしたところで漸く、そいつも目を丸くした。
「俺…?」
信じられないのか、何度も瞬きをして俺を確認する。呟いた一言は不安そうに感じた。
不安でない訳はない。
俺だって恐ろしいと思ってるし、嘘だろう、夢だろうと今でも思っている。
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「自分に追いつけるのは自分だけ」からタイトル変えてます。
ダブル2
2012/08/04