ネタ | ナノ

中学生の一部の人間だけで腕相撲をすることになったらしいと聞いて“会場”に見に来てみた。
簡素なテーブルを挟んで椅子が二つ。その周りに集まる中学生。
興味は無いが、こういうことに首を突っ込みたがるのが同志に確実に二人は居るので見に来る他無かった。


――やっぱりね。


椅子を挟んで座る片方は平古場クンだ。
向かいには四天宝寺の金色クンが座っている。彼は頭脳的なプレーの持ち主だったはずだから負けないとは思う。
こんな遊びくらいは勝ちに拘る必要もないだろう。――と思いつつも結局見守ってしまう。


「準備はいい?」


二人の組んだ腕を掴みながらスタートのタイミングはかっている菊丸クンは審判か何かなのだろうか。


「おう、いいさー。俺は絶対負けないけど」
「あ〜ん、男らしくて素敵っ」
「こは「レディ、ゴー!」


合図と共に離された手元に力が加わったのが分かる。そして平古場クンは一気に勝負をつけようとしたのだろう、体を若干傾けた。
しかし腕は倒れない。
これは予想外の展開だ。


「うふふ、平古場きゅん間近で見るとめさめさいい男やわー。これはずっと見ていたくなる顔ねえ」
「み、見んな…ッ」
「力の入った顔もす・て・き」
「いっ」


金色クンが素敵、と言った途端、平古場クンの腕が大きな音を立てて倒された。
呆気にとられた平古場クンと騒ぎ立てる周り。金色クンは立ち上がり、無防備な体を力強く抱き締めて頬擦りをし、その場から退いた。勝ち抜きではないようだ。


「凛?」


そろそろと近寄った甲斐クンが声を掛けるが平古場クンは動かなかった。何か術でも掛けられたように。無理に立たされて引き摺られていった平古場クンを尻目に次は誰が、と菊丸クンが声を掛けるとハイハイと隙間無く手が挙がる。
もう暫く用はないだろうなと踏んで踵を返そうとしたが、誰かに肩を掴まれて立ち止まる羽目になった。視線を向ければ白石クンが口元に笑みを浮かべていた。


「俺等が次やろうや」
「他にいくらでも居るでしょうが。俺はやめておいた方がいいですよ」
「ふーん。手塚君以外には興味ないん?妬けるわ」
「それは君でしょう」


妙なことを吹っ掛けられて眉間に嫌な皺を刻んでしまう。腕相撲なんて何の価値も無い。勝ったって何があるという訳でもなし、一日酷使した腕を更に痛めつけてどうするのだ。馬鹿らしい。


「白石、木手、やるのー?」


他にも意気揚々としている連中が居るというのに、何故か俺達へ菊丸クンが声を掛けてきた。少しだけざわめく周囲。殺し屋、という単語が耳に入った気がした。
全く面倒だ。しかも相手は別に倒したからと言って何てこと無い相手。
渋々中央へ向かい、椅子に腰掛けた。前に座った白石クンが袖をまくって左腕を露出させ――それを見て、一体どれだけの人間が異変に気付いただろうか?

包帯をしていない。

他に腕に包帯を巻いている人間はいないから、素肌の白石クンの左腕というのは違和感があるはずなのに、誰もそのことを声を上げて言わない。恐らく四天宝寺の人間ならば分かっている。
黄金のあれを見せた後で勝負を申し込んでくるとはなかなかな男だ。
あれは汚い手でも何でも無いし、これが正々堂々であることに違いはない。なのにこの嫌な気持ちは何だ。自分で、負けるかもしれないと思っているのか。
俺は同じ利き腕の左腕を出した。見た目にこれといって差が大きい訳でもない。
白石クンが掴んできた手を握り返す。


「木手クン、俺が勝ったら何か注文つけてええ?」
「何故?君が勝手にやろうと言い出したことに俺は付き合ってあげるだけですよ」
「褒美があった方が楽しいやん?」
「俺に勝ったという名誉で充分です」
「木手クンが勝ったらー、せやな…」
「人の話し聞きなさいよ」


菊丸クンが俺達の側に来て準備に入る。フライングで倒れないようにぐっと抑えられる二つの手。
それの向こうで白石クンが笑った。


「ああ、ええか。君は絶対勝てへんし」



----------

腕相撲する中学生男子はすはすという事で。
小春が勝つっていうのは有り得るんでしょうか…コツを知ってて上手くやっても勝てなさそうですが。笑。
ユウジは可哀想なポジションで。
白石はSっぽい感じでw

腕相撲をすることになりました
2012/04/12
- ナノ -