ネタ | ナノ

一年に一度きりの大切な日を向かえた時、二人は不運にも合宿所に居た。

前日まで機会を作って話したり、食事の時には同じテーブルに着いたり出来た。
時間を共有することで幸せになれるような二人にはそれだけでも充分と言えたのだが、心の底では、せっかくの日に何も計画出来ないのは少し物足りなくも思う。

チームメイトが祝ってくれたり、今まで共通点のなかったような人にも嬉しい一言をもらったり、昨年までとは違う雰囲気なのは良いのだけれど。

短い自由時間で、慈郎は何度携帯を見ただろうか。
昨夜最後に送られてきた可愛い恋人からの『おめでとう』は目にするだけで心を温かくしてくれる。飽きないのを実感して怒られない内にしまいこんだ。

一方でメールを送ることしか出来ない裕太は僅かながら元気がない。
ハードなメニューをこなし充実した一日を送りながらも、気になるのは慈郎のことばかり。夕食時、それを見抜いた観月にそれとなく元気付けられたが曖昧に笑い返してしまった。
彼は二人の関係を感付いているらしい。
裕太の様子に困ったような顔を隠さず、観月は席を立った。まだ食事の半分も口にしていなかったがトレーごと移動してしまう。どうしたのかと裕太も立ちあろうとすると、手の平一つでそれを留め、どこかへ歩いて行く。

入れ替わりに早足で来たのはひと時も忘れられない恋人だった。
屈託のない笑顔で目の前の椅子に腰掛ける。

「あ、じ、ジローさん」
「今日なかなか会えなかったね〜」
「はい…」

どうしてこんな日に限ってざわつく周囲を気にしてしまうのか、裕太は相槌を打つと落ち着かない様子で辺りを見回しスープを啜る。
慈郎は首を傾げた。二人で向かい合っているのにあまり良い反応を返してくれない。かえって気まずいのかと思いつつテーブルの下で手を動かす。注意されるといけないので、周りに見えなさそうな位置で携帯を開いた。手探りでボタンを押していく。
運良く携帯を持ち歩いていた裕太はポケットで震え始めたそれに一瞬驚くものの、慈郎が目配せしているのに気付いて微かに笑みを浮かべた。そしてテーブルクロスの影でこっそり受信したメールを見る。

『ごはん食べたら移動しよう』
『二人になれるとこで』
『裕太と話したい』

顔が少し熱い。返事をメールでせずに頷いて見せ、裕太は再度食事に手をつけ始めた。
早く食べてしまおう。
おめでとうの言葉もきっと、二人きりならいつもより特別な響きになる。



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一日遅れだけどジローおめ!
おおお久しぶりなので多々おかしい点があると思います。読みづらさが進化しててすみません。お恥ずかしい!

合宿所のジロ裕が気になっていたので、有り得ないのですが新テニ舞台ですw
裕太は「どこ行くの?」と聞かれて咄嗟にウソが出てこなさそうなので(つく必要のないウソなんですが)ジローがリードしてうまいこと二人になってるんだと思います。

デザートよりも甘い
2013/05/06
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